担当教授ご挨拶
消化管は、口から入った食べ物が便として排泄されるまでに通るすべての臓器:食道・胃・小腸・大腸を対象としています。2016年の統計では、死因の2位は大腸がん、3位は胃がんです。食道炎はわが国で一千万人以上いると推定されていますし、潰瘍性大腸炎の患者さんは年々増加し、20万人に届こうとしています。われわれは、「今日=今」の患者さんへ、こうした疾患の正確な診断、早期発見と最良の治療を提供しています。また、順天堂の理念「不断前進」の精神で、「明日=未来」の患者さんがより良い医療を享受できるよう、最先端の研究をたゆまず行っています。
一言メッセージ
患者さんへ
消化管グループは、順天堂の学是である「仁」(患者さんやご家族の思いや苦しみを理解する心・感性)をモットーに診療しています。お困りのことがあればお気軽にご相談ください。
ご紹介される先生方へ
内視鏡検査のご依頼、治療のご依頼、良性疾患・悪性疾患問わず、しっかり診断・治療を行います。ご紹介をお待ちしています。
入局を考えている熱意ある若人へ
われわれは順天堂三無主義、すなわち出身校、国籍、性別による差別なし、を実践しています。みな生き生きと診療、研究をしています。「百聞は一見にしかず」です。見学大歓迎です。
研究グループ紹介
上部消化管良性疾患グループ
当グループの代表疾患は、逆流性食道炎などの胃食道逆流症、アカラシアなどの食道運動障害、ヘリコバクターピロリ感染症、機能性消化管障害(機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群、機能性便秘)などです。最新の36チャンネル高解像度内圧検査(ハイレゾルーションマノメトリー)や24 時間多チャンネルインピーダンス-pH モニタリング検査などにより病態を探り、最適な治療方法を提案しています。ピロリ菌感染症認定医も多数おり、一次・二次除菌治療不成功の患者さんの治療も積極的におこなっています。多種類の治療ツールを用い機能性消化管障害患者の症状改善に積極的に取り組んでいます。
小腸グループ
胃カメラも大腸内視鏡も届かない小腸、これまでは治療のみならず、診断そのものが困難でした。当院では小腸出血や小腸腫瘍、炎症性腸疾患に対して積極的にカプセル内視鏡、バルーン内視鏡検査を行っております。カプセル内視鏡の実施件数は全国でトップクラスです。バルーン内視鏡を用いてポリープ切除術や止血などの治療も行っています。
炎症性腸疾患グループ
豊富な臨床経験を生かして、軽症のみならず難治例の潰瘍性大腸炎やクローン病に対して、様々な治療法を組み合わせた集学的治療に取り組んでいます。また、潰瘍性大腸炎に対する便移植療法の臨床研究を行っており、その研究成果は世界的に評価されています。
上部内視鏡診断治療グループ
拡大内視鏡を用いた緻密で正確な診断を基に、様々な基礎疾患のあるハイリスク症例でも安全に確実な内視鏡治療を行っています。また、それらの技術を確実に会得できるような指導体制が整っており、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)を始めとした内視鏡診療のエキスパートの育成に力を入れています。特に、若手の先生への内視鏡手技トレーニングも充実しており、入局2年目よりESDなどの内視鏡治療のトレーニングを始めています。また、外科と合同で咽頭癌に対するESDや胃粘膜下腫瘍(GISTなど)・十二指腸腫瘍(GIST、NET、癌・腺腫)に対して腹腔鏡・内視鏡合同手術
(Laparoscopic Endoscopic Cooperative Surgery, LECS)も行っています。研究課題としては、拡大内視鏡診断、胃粘膜血流解析、H.pylori未感染胃癌など幅広い領域の研究を取り扱っており、国内外の学会発表を経て学術論文の報告も計画的に遂行しています。近年、ピロリ菌と関係のない胃癌の1つである胃底腺型胃癌が注目を集めています。この胃癌は2010年に当院から提唱、報告した稀な腫瘍で、2019年にはWHO分類(第5版)にも掲載されました。経験症例数は当院が非常に多く、この腫瘍に関する研究をリードし、世界に向けて胃底腺型胃癌の新しい情報を継続的に発信しています。また、消化器領域の様々な多施設共同研究に積極的に登録しており、消化器領域の研究の発展に寄与しています。実臨床以外の活動としては、当院の内視鏡知識・技術を学ぶために海外の様々な国から研修者、見学者が来るだけでなく、海外の医療機関や学会において講演や技術指導を行うなど、積極的に海外医療機関との国際連携を推進しています。
下部内視鏡診断治療グループ
当グループは厚生労働省の班会議を通じて日本における内視鏡診断および内視鏡治療の確立に貢献して参りました。NBI (Narrow Band Imaging)、BLI (Blue Laser Imaging) やLCI (Linked Color Imaging) などの特殊光や色素散布下に拡大観察を行い、また超音波内視鏡なども併用して大腸ポリープや大腸癌などを正確に診断しています。治療においては、小さな病変は無通電に安全に切除可能なCold Polypectomyを、大きな病変に対しては一括切除可能なESD
(Endoscopic Submucosal Dissection) を行い、病変ごとに最適な方法を選択しています。特に大腸ESDは高度な技術を要する治療方法ですが、我々が開発した処置具(S-Oクリップ)は安全性の向上と切除時間の短縮に貢献し、大学病院含め他病院でもすでに300以上の施設で使用されています。また、近年、大腸腫瘍の分野で発見困難なSSL (Sessile Serrated Lesion) というポリープが癌化のリスクを有し世界的に注目されていますが、当院では早期に発見し正確な診断を行うだけでなく、SSL由来の早期癌の内視鏡的特徴や遺伝子学的異常についても国内外に数多く報告をしています。当グループは、患者様の最適な治療を目指した世界的にもトップレベルの内視鏡診断・治療を行っています。
化学療法グループ
胃がんや大腸がんなどに対する抗がん剤治療=化学療法は、新たな薬剤が続々登場し、治療はまさに日進月歩です。しかし、全身状態があまり良くない、ほかの病気を抱えているなどのため、標準治療が困難な患者さんもいます。順天堂大学は、他科とのコミュニケーションもとてもよく、こうした患者さんに対して、様々な診療科と連携をして、最良な治療を実践しています。
診療実績
上部消化管・下部消化管
当科は、13名の日本消化器内視鏡学会認定指導医と、29名の同学会認定専門医が所属しており、2020年度は、上部消化管内視鏡検査の件数が7,427件、大腸内視鏡検査は4,255件と内視鏡施行件数は、毎年増加しております。
拡大内視鏡、特殊内視鏡(NBI)の導入により、病変の質的診断、がんの深達度診断を含めた診断正診率の著しい向上を得ることが出来、より安全確実な治療に寄与しています。
治療内視鏡は、上部消化管では食道、胃腫瘍の内視鏡切除件数は、切開・剥離法(ESD)という新しい内視鏡切除法を含め、2020年度は170件施行しております。また、大腸ESDは早い段階で高度先進医療を受け、2020年度は155件施行しております。
これまで発見しづらかった小腸病変に対し、小腸内視鏡(ダブルバルーン法)を用いたアプローチを開始しており、2020年度は73例行っております。また、便潜血反応陽性、黒色便、下血などの消化管出血のある患者さんで、従来の検査法である胃内視鏡検査や大腸内視鏡検査を行っても、出血の原因がわからない原因不明の消化管出血の場合に、小腸に出血源がないかを検査するためのカプセル内視鏡も導入し、2020年度は89例行っております。
消化管エックス線検査は、病変の位置や範囲の客観的描出の点で、今なお重要性を有しております。しかし、近年、内視鏡検査がスクリーニング検査としてその役割を担うようになり、消化管エックス線検査は、以前に比べ減少傾向にありますが、術前の精密検査、化学療法の効果判定、内視鏡非適応例などの診断、経過観察に重要な役割を果たしています。
主な検査・治療件数 |
検査・治療の種類 |
2020年度 |
上部消化管内視鏡検査 |
7,429 |
下部消化管内視鏡検査 |
4,255 |
小腸(D.B.)内視鏡 |
73 |
胃ポリペクトミー、粘膜切除術 |
71 |
食道・胃切開剥離術(ESD) |
170 |
大腸ポリペクトミー、粘膜切除術 |
1,069 |
大腸切開剥離術(ESD) |
155 |
止血術 |
71 |
臨床研究
広報