前立腺癌とは?

前立腺がんとは、男性だけにある前立腺という臓器に発生する癌のことです。
前立腺は生殖器ですので、生殖活動には欠かせないのですが、前立腺が無くても生きていくことは可能です。
前立腺は約3センチ程度、クルミくらいの大きさで、重さは成人の男性で15~20gくらいです。
前立腺の外側は膜にしっかりと包まれていて、この膜の内側には前立腺液を分泌するための腺組織が通っています。
そして前立腺の内部には、尿道の回りにある内腺と、この回りにある外腺に分かれています。
前立腺がんは、この外腺に多く発病しやすくなっています。
前立腺は膀胱の下にあり、前には恥骨があって後ろには直腸があります。
恥骨と直腸に挟まれるようにありますので、肛門から5センチくらい入ったところを指で触ると、前立腺を触って確認することができます。
諸外国の例にもれず、日本でも最新の統計では男性の部位別罹患率において前立腺癌は16.4%と第一位となっております。(厚生労働省 全国がん登録罹患数・率報告2020)
その理由は第一に、高齢人口の急増です。前立腺がんは、高齢者のがんといわれ、患者さんの、約90%が60歳以上の人で占められています。
また、90歳の男性遺体を解剖すると約50%の方に前立腺癌が発見されるといわれています。
症状:前立腺肥大症と前立腺がんはまったく違う病気ですが、やっかいなことに、尿の出が悪い、トイレが近いなどの症状はほとんど同じです。健康な男性でも50歳を過ぎたころから、加齢現象として前立腺の肥大が徐々にみられるようになり、尿の出が悪くなる、トイレが近い、排尿後も尿が残っている感じがする、尿の切れがわるいなどの症状が出始めます。また前立腺がんは骨に転移しやすいため、下肢や腰の痛みを訴えて、骨の転移からはじめてがんが発見されるケースも多いのです。

PSA検査について

PSA(前立腺特異抗原)は、前立腺の細胞が作り出しているタンパク質のひとつです。通常は前立腺内部に向けて分泌されていますが、癌細胞は正常の細胞に比べてこれをたくさん産生し、かつ血液中に多くが流れ出しています。PSAの値を調べることによって癌の有無を予測することが可能です。そしてPSA測定は、簡単にできかつ感度と精度がきわめて高い検査方法であると言えます。
一般にはタンデム法という測定方法が用いられ、正常値は4.0以下とされています。ただし、年齢によってはさらに低い値を上限と考えます。最近は、ドックや検診でもさかんに取り入れられるようになってきています。
PSAは、 CTスキャンや MRIといった検査では癌の存在を確認できないような初期の段階から敏感に反応し、これが近年の診断率の向上に大きな役割を果たしています。


前立腺がんの診断までのながれ

1 PSA値の測定および他疾患の除外


PSA値はとても鋭敏な検査ですが、それ以外の要因(前立腺肥大症や前立腺炎など)でも上昇する可能性があります。排尿に関する問診や尿検査、残尿測定検査を行い、それらを除外します。

2 MRI検査

PSA値の異常値が続く場合MRIを行い、癌の有無や癌の局在(前立腺内のどこにあるか)を確認します。

3 前立腺針生検

前立腺癌が疑われる場合は、前立腺の組織を採取し病理診断をおこないます。
順天堂では経会陰的に生検を行っております。
経会陰的生検のメリット
  1. 検査後の感染が少ない
  2. 出血が少ない
  3. 癌の検出率が高い

検査は2泊3日の入院で行います。
入院日
検査日
退院日
入院生活の説明
朝点滴を行います。
採血、創部の確認をします。
入院時に採血があります。
手術室で検査
仙骨麻酔で行います。
問題なければ午前中に退院
21時以降は食事が出来ません。
検査後は2時間後から飲水が可能です。
午前中の検査では昼食から午後の検査では夕食から食事がとれます。
退院時に次回外来をお知らせします。
検査結果がでるまで3-4週間程度かかります。
次回外来で結果をご報告します。

また保険診療として順天堂大学では前立腺ターゲット生検が可能です。
この方法ではMRIでの画像所見と超音波所見をドッキングさせることで、より精細に狙いを定めた生検が可能で、癌の見逃しを極力少なくすることができます。
詳細はBioJet®システムを用いた「MRI撮影及び超音波検査融合画像に基づく前立腺針生検法」のページをご確認ください。

病期診断

癌が検出された場合はPSA値や癌の悪性度、広がりを確認して、治療方針を決定します。

1 悪性度

がんの悪性度は、がんの組織を顕微鏡で見た時の形や並び方が、正常な組織とどれくらい異なっているかで判断されます。正常な組織と異なるほど悪性度が高くなります。前立腺がんではこの悪性度を「グリーソン分類」という分類法で表します。
この分類法は、がんの組織の形や浸潤増殖様式を1~5の5段階に分類してスコア(点数)化し、採取した組織の中で最も面積の大きいパターンとその次に大きいパターンの点数を合計して「グリーソン分類」を算出します。このスコアが高いほど、がんの進み方が速く悪性度が高いと考えられます。

2 CT

リンパ節や他臓器(肺、肝など)への転移を確認します。

3 骨シンチグラフィ

骨転移の有無を確認します。

4 MRI

前立腺周囲への浸潤の有無を評価します。

病気分類

主に下記の二つの分類を用います。
1. Jewett Staging Systemによる分類
A.臨床的にがんと診断されていないが、前立腺肥大などの手術検体からがん細胞が発見されたもの
B.がんが、前立腺内に限局していると判断されかつ転移を認めないもの
C.がんが、前立腺被膜を破って外に進行しているが転移はないもの 局所進行がん
D.すでに転移が認められるもの
2. TMN分類
  • TX原発巣の評価が不可能
  • T0原発巣なし
  • T1触知不能、画像では診断不可能
    • T1a切除標本の5%以下
    • T1b切除標本の5%超
    • T1c針生検により確認(たとえばPSAの上昇による)
  • T2前立腺に限局する腫瘍
    • T2a片葉の浸潤する腫瘍
    • T2b両葉に浸潤する腫瘍
  • T3前立腺被膜を越えて浸潤する腫瘍
    • T3a被膜外へ進展する腫瘍、膀胱頸部への顕微鏡的浸潤
    • T3b精嚢へ浸潤する腫瘍
  • T4精嚢以外の隣接臓器(膀胱頸部、外括約筋、直腸、拳筋および/または骨盤壁)に固定または浸潤する腫瘍
3.ステージ分類
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前立腺がんの治療

治療の選択肢は、病気の進行度によって異なってきます。
また、患者様の年齢・QOL(生活の質)の維持・社会的状況等を考慮して決定されます。

  • stage Ⅰ
    • 待機療法
    • 手術療法(前立腺全摘除)
    • 放射線療法(体外照射・小線源療法・粒子線・陽子線等)
    • 内分泌(ホルモン)療法
    • 手術・放射線療法+内分泌療法など
  • stage ⅡorⅢ
    • 放射線療法(体外照射)
    • 手術療法+放射線療法(体外照射)・内分泌療法など
    • 内分泌(ホルモン)療法
  • stage Ⅳ
    • 内分泌(ホルモン)療法
    • 抗癌剤治療  状況により放射線療法をあわせて行う

1:手術療法

根治的治療のひとつで、原則として早期限局癌が対象となります。
手術は全身麻酔下に行われ、前立腺と精嚢をあわせて摘除します。
輸血が必要となる場合があります。
勃起障害をさけるために、神経温存術という方法があります。
合併症後遺症として、失禁・排尿困難、勃起障害が代表的です。

順天堂医院ではダヴィンチシステムによるロボット補助下手術を導入しています。
これにより出血がなく、術後失禁や勃起能を温存して手術可能となりました。
→詳しくはロボット手術(ダヴィンチ)をご覧ください。

2:放射線治療

根治的療法のひとつですが、転移再発した場合の局所治療として、また痛みのコントロールとしても有用です。

体外照射は、体の外から前立腺部を中心に放射線を当てます。
治療期間は4-5週程度かかります。外来通院でも治療可能ですが、遠方の方の場合は入院でも対応可能です。
副作用として、放射線による膀胱直腸炎(頻尿・頻便・直腸からの出血など)・皮膚炎・倦怠等が出現することがありますが、重篤なものは現在まで見られていません。一方、失禁・排尿困難等の危険は低く抑えられます。
重粒子線・陽子線は、現在高度先進医療として限られた施設で施行可能です。

3:内分泌療法、薬物治療

一般に前立腺は、男性ホルモンを栄養源としています。とくに癌細胞は男性ホルモンをたくさん摂取し、その数を増やしていきます。
男性ホルモンは、精巣(睾丸)から分泌されるため、この供給を断ってしまうと癌は育つことができなくなります。
内分泌療法は男性ホルモンの分泌を抑制する癌の治療方法です。

詳しくは前立腺癌の薬物治療のページをご覧ください。