喘息グループ研究テーマ
喘息グループでは、本学免疫学講座やアトピーセンター、慶應大学、国立病院機構模原病院、国立がん研究センター、国立研究開発法人理化学研究所、埼玉医科大学、佐賀大学、昭和大学、帝京大学、東京女子医科大学、日本大学などの他施設との共同研究を行っています。以下に主な研究を列挙させていただきます。
喘息と自然リンパ球
喘息における炎症の主体は獲得免疫応答によるTh2型免疫のみならず、自然免疫応答も重要であることが分かっています。喘息における自然免疫はウイルス感染やタバコ煙、気候の変化などの抗原非特異的な刺激との関与も想定されています。自然リンパ球には、T細胞抗原受容体(TCR)を持たないグループであるinnate lymphoid cell(ILC)いわゆる自然リンパ球がよく知られていますが、TCRを有するも単一性で多様性のないTCRしか持たないグループも存在します。この後者には、NKT細胞、γδT細胞やmucosal-associated
invariant T (MAIT)細胞が含まれます。ILCは、産生するサイトカインによってさらに3つのグループ、1型自然リンパ球(IFN-γを産生する)、2型自然リンパ球(IL-5やIL-13を産生する)、3型自然リンパ球(IL-17やIL-22を産生する)に分類されます。私たちは、喘息患者さんの末梢血中では、1型、2型、3型のILC、MAIT細胞のそれぞれが一様に活性化している可能性を報告し、Allergology InternationalのEditor's choicesで紹介されました。
Ishimori A, Harada N, Chiba A, Harada S, Matsuno K, Makino F, Ito J, Ohta S, Ono J, Atsuta R, Izuhara K, Takahashi K, Miyake S. Circulating activated innate lymphoid cells and mucosal-associated invariant T cells are associated with airflow limitation
in patients with asthma. Allergol Int 2017; 66: 302-309.
喘息におけるMAIT細胞の役割
私たちは、上記の報告の中で、活性化MAIT細胞が重症喘息患者さんで低値であることを示しています。これを受けて、喘息におけるMAIT細胞の役割に関してマウスを用いた解析を行いました。OVA誘導性喘息モデルマウスでは肺内MAIT細胞が増加し、MAIT細胞欠失(MR1)マウスではOVA誘導性喘息が悪化したことから、OVA誘導性喘息モデルマウスではMAIT細胞は抑制性に働くことを示しました。Sasano H, Harada N, Harada S, Takeshige T, Sandhu Y, Tanabe Y, Ishimori A, Matsuno K, Nagaoka T, Ito J, Chiba A, Akiba H, Atsuta R, Izuhara K, Miyake S, Takahashi K. Pretreatment circulating MAIT cells, neutrophils, and periostin predicted the real-world response after 1-year mepolizumab treatment in asthmatics. Allergol Int. 2023; 17:S1323-8930(23)00050-3.
喘息に対する生物学的製剤がもたらす免疫調節作用
現在、最重症喘息の治療に生物学的製剤があり、多くの患者さんがその効果を実感されていらっしゃいます。しかし、これらの生物学的製剤がもたらす生体内で免疫調節作用の詳細は明らかではありません。私たちは、生物学的製剤の使用前後での免疫担当細胞の変化をフローサイトメトリーやRNA解析を用いて解析しています。2022年度は一部の成果の論文投稿を予定しています。
Harada N, Ito J, Takahashi K. Clinical effects and immune modulation of biologics in asthma. Respitratory Investigation 2021; 59: 389-396.
喘息における新規バイオマーカーの開発
生物学的製剤は、非常に高価であることから、生物学的製剤の効果を予測するバイオマーカーの開発は世界的にも喫緊の課題です。私たちは、上記の自然リンパ球分画を中心に、生物学的製剤や気管支サーモプラスティによる治療効果を予測するバイオマーカーなどの探索を行っています。そのなかで、末梢血の活性化MAIT細胞が少ないこと、血清ペリオスチンが高値であることがメポリズマブの有効例を予測するバイオマーカーとなり得ること、末梢血Th17細胞が多いこと、FeNO高値がベンラリズマブの有効例を予測するバイオマーカーとなり得ることをそれぞれ報告しています。また、細胞外マトリックス構成タンパクであるテネイシンCについては、血清テネイシンCとペリオスチンあるいはIgEの組み合わせが喘息のバイオマーカーとなりうる可能性を報告しています。Sasano H, Harada N, Harada S, Takeshige T, Sandhu Y, Tanabe Y, Ishimori A, Matsuno K, Nagaoka T, Ito J, Chiba A, Akiba H, Atsuta R, Izuhara K, Miyake S, Takahashi K. Pretreatment circulating MAIT cells, neutrophils, and periostin predicted the real-world response after 1-year mepolizumab treatment in asthmatics. Allergol Int. 2023; 17:S1323-8930(23)00050-3.
Sandhu Y, Harada N, Sasano H, Harada S, Ueda S, Takeshige T, Tanabe Y, Ishimori A, Matsuno K, Abe S, Nagaoka T, Ito J, Chiba A, Akiba H, Atsuta R, Izuhara K, Miyake S, Takahashi K. Pretreatment Frequency of Circulating Th17 Cells and FeNO Levels Predicted the Real-World Response after 1 Year of Benralizumab Treatment in Patients with Severe Asthma. Biomolecules. 2023 Mar 15;13(3):538.
Yasuda M, Harada N, Harada S, Ishimori A, Katsura Y, Itoigawa Y, Matsuno K, Makino F, Ito J, Ono J, Tobino K, Akiba H, Atsuta R, Izuhara K, Takahashi K. Characterization of tenascin-C as a novel biomarker for asthma: utility of tenascin-C in combination
with periostin or immunoglobulin E.Allergy Asthma Clin Immunol 2018; 14: 72.
スギ花粉症合併喘息に対するスギ花粉舌下免疫療法(sublingual immunotherapy:SLIT)の有用性
スギ花粉症合併喘息に対する1年間のSLITは、アレルギー性鼻炎の症状改善効果だけでなく、スギ花粉飛散シーズン中の喘息症状も大幅に改善し、オフシーズン中の気道抵抗も改善したことを報告しました。 この報告のなかで、SLIT後のスギ花粉飛散シーズン中の喘息症状の改善がシーズンオフの末梢血γδT細胞の減少と関連する可能性を示しています。Ueda S, Ito J, Harada N, Harada
S, Sasano H, Sandhu Y, Tanabe Y, Abe S, Shiota S, Kodama Y, Nagaoka T, Makino F, Chiba A, Akiba H, Atsuta R, Miyake S, Takahashi K. Effect of Japanese Cedar Pollen Sublingual Immunotherapy on Asthma Patients with Seasonal Allergic Rhinitis Caused by Japanese
Cedar Pollen. Biomolecules 2022; 12: 518.
免疫チェックポイント分子、補助シグナル分子と呼吸器疾患
私たちは、これまで免疫チェックポイント分子、補助シグナル分子の呼吸器疾患における役割を解析してきました。現在は、T cell immunoglobulin and mucin domain(TIM)ファミリー分子に関して喘息への関与を解析しています。現在は、本学免疫学講座と可溶型TIM-4についての解析を行い論文投稿中です。Isshiki T,
Akiba H, Nakayama M, Harada N, Okumura K, Homma S, Miyake S. Cutting Edge: Anti-TIM-3 Treatment Exacerbates Pulmonary Inflammation and Fibrosis in Mice.J Immunol 2017; 199: 3733-3737.
喘息におけるステロイド抵抗性のメカニズム
生物学的製剤の登場もあり難治性喘息にかかる医療費は高騰しています。ステロイド抵抗性喘息は難治性喘息の代表であり、難治性喘息治療を改善する目的のみならず医療経済面からもステロイド抵抗性喘息のメカニズム解明は喫緊の課題です。私たちは、ステロイド抵抗性喘息マウスモデルを作製し、そのメカニズムを解析しています。キチンはダニや真菌など多くの喘息増悪因子が有する多糖類ですが、このキチンが誘導するステロイド抵抗性喘息マウスモデルを確立し、肺胞マクロファージが産生するIL-1βとTh17細胞がステロイド抵抗性に関与する可能性を報告しました。キチンはダニや昆虫、甲殻類、真菌に多く含まれ環境中に豊富に存在します。これを吸入することがステロイド抵抗性の一因になることが考えられ、環境整備の重要性が強調されました。現在は、さらにステロイド抵抗性メカニズムの解明を目指して解析を進めています。
Takeshige T, Harada N, Harada S, Ishimori A, Katsura Y, Sasano H, Sandhu Y, Matsuno K, Makino F, Ito J, Atsuta R, Akiba H, Takahashi K. Chitin induces steroid-resistant airway inflammation and airway hyperresponsiveness in mice. Allergol Int 2021; 70:
343-350.
喘息における上皮間葉転換
喘息管理が不十分であると気道リモデリングが進行し、重症化してしまいます。この気道リモデリングには、上皮間葉転換(EMT : epithelial mesenchymal transition)の関与が報告されています。EMTを誘導する重要な因子にTGF-βがありますが、私たちは、気道上皮細胞が傷つくとTGF-βが産生されEGFRを介した創傷治癒を誘導すること、TNFαスーパーファミリーのTWEAKがTGF-βとともに気道上皮細胞にEMTを誘導することなどを報告してきました。私たちは、このEMTを起こした気道上皮細胞において、喘息における獲得免疫と自然免疫双方に関わるサイトカインTSLP(thymic
stromal lymphopoietin)の産生が増強することを報告しています。さらに、この過程に新規MAPKKKの一つであるMAP3K19が介在する可能性について報告を行っています。MAP3K19は、肺に特異的に発現しているものの、生体内での役割は明らかではなく、喘息への関与も不明であった。MAP3K19ノックダウン気道上皮細胞は上記EMTとRANTES、および、TSLP産生を増強し、MAP3K19ノックアウトマウスでは好酸球性気道炎症の悪化が示された。これらから、MAP3K19が喘息におけるアレルギー性気道炎症を調節している可能性が示唆されている。Yuuki Sandhu, Norihiro Harada, Sonoko Harada, Takayasu Nishimaki, Hitoshi Sasano, Yuki Tanabe, Tomohito Takeshige, Kei Matsuno, Ayako Ishimori, Yoko Katsura, Jun Ito, Hisaya Akiba, Kazuhisa Takahashi, MAP3K19 Affects TWEAK-Induced Response in Cultured Bronchial Epithelial Cells and Regulates Allergic Airway Inflammation in an Asthma Murine Model, Curr. Issues Mol. Biol. 2023, 45(11), 8907-8924.
Matsuno K, Harada N, Harada S, Takeshige T, Ishimori A, Itoigawa Y, Katsura Y, Kodama Y, Makino F, Ito J, Atsuta R, Akiba H, Takahashi K. Combination of TWEAK and TGF-beta1 induces the production of TSLP, RANTES, and TARC in BEAS-2B human bronchial epithelial
cells during epithelial-mesenchymal transition. Exp Lung Res 2018; 44: 332-343.
Itoigawa Y, Harada N, Harada S, Katsura Y, Makino F, Ito J, Nurwidya F, Kato M, Takahashi F, Atsuta R, Takahashi K. TWEAK enhances TGF-beta-induced epithelial-mesenchymal transition in human bronchial epithelial cells. Respir Res 2015; 16: 48.
間質性肺炎における気管支肺胞洗浄液中リンパ球分画に関する網羅的解析
間質性肺炎の鑑別は容易ではありません。私たちは、間質性肺炎における気管支肺胞洗浄液中自然リンパ球分画を解析しています。上記の自然リンパ球を中心に、その意義を明らかにすることで、間質性肺炎の病態解明ならびに鑑別に有用なバイオマーカーを確立することを目的としています。
居住空間の空気質モニター
喘息症状管理には薬物治療に加えて重要なことがあります。受動喫煙などの環境による喘息悪化因子の除去です。現在の社会では、空気清浄機の普及や建築材料の改善により、屋内における空気の質はよりよく改善されていますが、住宅の高気密化や換気不足などから必ずしも喘息にとってよりよい室内環境になっているかは定かではありません。そこで、患者さんご自宅の空気の質をモニターさせていただき、喘息症状管理と空気の質との関連を解析しています。携帯電話のアプリを用いた我が国の気管支喘息実態調査
iPhoneのアプリ「ぜんそくログ」を開発し、喘息実態調査を携帯端末より行った日本ではじめての研究でした。ご参加いただいた方々には、この場をお借りして、あらためまして御礼申し上げます。
Harada N, Harada S, Ito J, Atsuta R, Hori S, Takahashi K. Mobile Health App for Japanese Adult Patients With Asthma: Clinical Observational Study. J Med Internet Res 2020; 22: e19006.
そのほか
呼気一酸化窒素濃度(FeNO)の測定機種差(NOA280i®とNIOXvero®)の比較検討を行い1,369症例のデータ解析の結果を報告しています。
Tanabe Y, Harada N, Ito J, Matsuno K, Takeshige T, Harada S, Takemasa M, Kotajima M, Ishimori A, Katsura Y, Makino F, Atsuta R, Takahashi K. Difference between two exhaled nitric oxide analyzers, NIOX VERO®electrochemical hand-held analyzer and NOA280i®
chemiluminescence stationary analyzer. J Asthma 2019; 56: 167-172.
オックスフォード大学のグループが行ったsystematic reviewに協力をし、軽症から中等症の喘息患者さんが治療のステップダウンを行う際、FeNOが50 ppb未満であれば、安全に吸入ステロイドを減量できる可能性について報告しています。
Wang K, Verbakel JY, Oke J, Fleming-Nouri A, Brewin J, Roberts N, Harada N, Atsuta R, Takahashi K, Mori K, Fujisawa T, Shirai T, Kawayama T, Inoue H, Lazarus S, Szefler S, Martinez F, Shaw D, Pavord ID, Thomas M. Using fractional exhaled nitric oxide
to guide step-down treatment decisions in patients with asthma: a systematic review and individual patient data meta-analysis. Eur Respir J 2020; 55: 1902150.
全国多施設共同コホート研究への参加:複数生物学的製剤使用環境下における重症喘息前向きコホート研究、フェノタイプ・エンドタイプに着目した本邦の喘息患者における3年間予後の検討、表現型別の喘息増悪因子の同定と長期予後の解析 -2020年コホート-、気管支拡張症合併難治性喘息の実態調査(Respir Res. 2022;23(1):365.)、アレルギー性気管支肺真菌症全国実態調査(Sci Rep. 2023;13(1):5468.)などに参加し、成果を発表している。さらに、コロナ制圧タスクフォースに順天堂大学附属順天堂医院として参加し、多くの研究成果を報告しています(Nature.
2021;600(7889):472.など多数)。新型コロナウイルスから社会を守る時限的な緊急プロジェクト『コロナ制圧タスクフォース』は、様々な研究分野から日本を代表する科学者が横断的に結集したもので、科学による客観的真理を解き明かすことにより医療崩壊を防ぐことを喫緊の目標と捉え、その達成の先に、新型コロナワクチン開発を目指しています。喘息グループの受賞歴
- The 27th Congress of the Asian Pacific Society of Respirology (APSR 2023) APSR Clinical Allergy & Immunology Assembly Education Award:笹野仁史
- The 27th Congress of the Asian Pacific Society of Respirology (APSR 2023) APSR Clinical Allergy & Immunology Assembly Education Award:上田翔子
- The 27th Congress of the Asian Pacific Society of Respirology (APSR 2023) APSR Clinical Allergy & Immunology Assembly Education Award:安部寿美子
- The 27th Congress of the Asian Pacific Society of Respirology (APSR 2023) APSR Clinical Allergy & Immunology Assembly Education Award:西牧孝泰
- The 26th Congress of the Asian Pacific Society of Respirology (APSR 2022) APSR Clinical Allergy & Immunology Assembly Education Award:安部寿美子
- 第24回IREF AWARD(2022年):笹野仁史
- 第8回日本アレルギー学会関東地方会演題優秀賞(2022年):西牧孝泰
- 第7回日本アレルギー学会関東地方会演題優秀賞(2022年):安部寿美子
- The 25th Congress of the Asian Pacific Society of Respirology (APSR 2021) APSR Asthma Assembly Education Award:笹野仁史
- The 25th Congress of the Asian Pacific Society of Respirology (APSR 2021) APSR JRS Young Investigator Award:原田紀宏
- 第18回日本アレルギー学会学術大会賞(2021年):三道ユウキ
- 第6回日本アレルギー学会関東地方会演題優秀賞(2021年):上田翔子
- 第5回日本アレルギー学会関東地方会演題優秀賞(2021年):渡邉敬康
- 順天堂大学大学院医学研究科博士課程ポスターセッション優秀賞(2020年度):笹野仁史
- 第4回日本アレルギー学会地方会演題優秀賞(2020年):三道ユウキ
- 第3回日本アレルギー学会関東地方会演題優秀賞(2020年):三道ユウキ
- The 24th Congress of the Asian Pacific Society of Respirology (APSR 2019) APSR Asthma Assembly Education Award:笹野仁史
- 順天堂大学大学院医学研究科博士課程ポスターセッション優秀賞(2019年度):田辺悠記
- 第2回日本アレルギー学会関東地方会演題優秀賞(2019年):笹野仁史
- 第1回日本アレルギー学会関東地方会演題優秀賞(2019年):神後宏一
最後に、この場をお借りしまして、研究にご協力いただいた方々と関係いただいた先生方に御礼申し上げます。