研究部門

順天堂大学麻酔科ペインクリニック講座では、臨床業務をこなしながら主に電気生理学分野、分子生物学分野、循環生理学分野において7号館研究棟にて基礎研究を行っております。研究棟では基礎研究を専門に行っている基礎医学講座の先生方に協力を仰ぎながら、各分野において研究を行っております。研究費用は学内研究費の他に科学研究費を代表とする競争的研究費を獲得して捻出しております。

当講座の競争的研究費の取得状況

  • 基盤C(川越)2022-2024「麻酔薬による肺がん患者免疫抑制の機序解明―プロポフォールとレミマゾラムを軸に」
  • 若手(黒田)2022-2024「エンドセリンA受容体を介した疼痛機構の解明及びその拮抗薬の鎮痛補助薬としての開発」
  • 若手(濱岡)2019-2022「VR(virtual reality)の慢性神経障害性疼痛への効果と作用機序解明」
  • 基盤C(井関)2021-2024「本邦のオピオイド不適正使用の実態とリスク因子を臨床疫学と遺伝子研究から解明する」
  • 基盤C(三高)2020-2022「重症患者の急性腎障害予測因子としての腎酸素飽和度の有用性の研究」
  • 若手(山田)2021-2023「疼痛の脳神経学的病態解明のための簡便な疼痛臨床研究プラットフォーム構築」
  • 若手(河内山)2019-2022「静脈麻酔薬がもたらす抗炎症効果の分子機構の解明」
  • 基盤C(石川)2021-2024「手術中の人工呼吸が術後肺合併症の発生に影響を与えるメカニズムに関する研究」
  • 基盤C(川越)2018-2022「肺がん患者における術中麻酔薬による免疫抑制メカニズムの機序解明と予後への影響」
  • 若手(福田)2020-2022「水素ガスと吸入麻酔薬の併用が虚血時の神経細胞やグリアへ与える影響のメカニズム解明」
  • 基盤C(菅澤)2023-2026「周術期臨床応用を目指した神経ステロイドによるTMEM16制御機構の解明」
  • IARS Mentored Research Award 2020(菅澤)2020-2023 Structural basis of lipid and anesthetic action on TMEM16 scramblases
  • 若手(河邉)2023-2025「日本語版・修正イエール式術前不安尺度modified-Yale Preoperative Anxiety Scale (mYPAS)の開発と、その信頼性と妥当性についての評価研究」

電気生理学

電気生理学分野では東京都健康長寿医療センター研究所と協力して、脳内神経ネットワー クからみた吸入麻酔薬の情報伝達機構と作用機序をテーマに研究活動を行っています。具体的にはマウス脳スライスに対して電気生理学仕法(パッチクランプ)でアプローチし 、Tonic GABA電流、ATP感受性カリウムチャネル、HCNチャネルなど多様な生体内電気活動を観察しています1-4)。手術中は麻酔薬による鎮静や興奮作用、侵害受容刺激による疼痛、虚血再灌流障害など数多くの人体の複雑な電気活動が発生しており、そのメカニズムは数十兆もの細胞の精巧な連動により支えられています。その細胞間の局所的な情報伝達のメカニズムの一端をみつけることで、また新たな役割の解明につながり、基礎研究によって 既存の教科書には載っていない、新たな知識の収集が可能になることは日々の臨床に向かう力も与えてくれると考えています。

  1. Imbalanced suppression of excitatory and inhibitory synaptic transmission onto mouse striatal projection neurons during induction of anesthesia with sevoflurane in vitro. Eur J Neurosci. 2012;35(9):1396-405.
  2. Effects of the volatile anesthetic sevoflurane on tonic GABA currents in the mouse striatum during postnatal development. Eur J Neurosci. 2014;40(8):3147-57.
  3. Modulation of hyperpolarization-activated cation current Ih by volatile anesthetic sevoflurane in the mouse striatum during postnatal development. Neurosci Res. 2018;132:8-16.
  4. Volatile anesthetic sevoflurane pretreatment alleviates hypoxia-induced potentiation of excitatory inputs to striatal medium spiny neurons of mice. Eur J Neurosci. 2019;50(9):3520-3530.
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分子生物学で研究している大学院生の声

分子生物学で研究している大学院生の声大学院博士課程で基礎研究に従事しています。当科で麻酔科専門プログラムを修了し専門医取得後に大学院進学しました。研究は、脂質二重層に発現する膜タンパク質と麻酔薬との関連をテーマに,米国のセントルイス・ワシントン大学麻酔科とコラボレーションをして進められています。新たに2020年に完成した研究棟には当科専用の研究スペースがあります。ここにある最新設備を使って、指導教官の直接のご指導をいただきながら研究をしています。米国留学の経験を持つ先生方も在籍していますので、米国留学も可能です。川越主任教授の方針で、医局は給与面やプライベートへの理解があり、十分なサポートの中で臨床と両立して博士課程を履修することのできる環境が当科にはあります。私以外にも多くの院生が当科には在籍しており、博士号を取得された先輩方や取得を目指す同輩たちによって様々な分野で日々研究が行われています。手術麻酔を行う傍らで、基礎研究を行うことは臨床的な視点を広げることにもつながり視野が広がったように感じています。
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循環生理学

ラットの心筋と大血管を使いランゲンドルフ灌流装置を用いた生理学実験を生理学第1講座の先生の御指導の下、行っております。麻酔薬は心抑制・血管拡張作用を持ちますが、その作用の強さは各麻酔薬によって異なり、作用機序においてはまだ不明な点が多く存在しています。この実験では臨床で実際に使用されている麻酔薬を灌流液に添加することで、麻酔薬の持つ直接的な心抑制・血管拡張作用を解析することが可能です。各麻酔薬の心抑制・血管拡張作用の強さを直接比較することができます。また、心抑制作用機序は培養心筋細胞に麻酔薬を添加することで調べることが可能です。細胞培養は、専門の先生にいつでも協力を依頼することが可能で大変助かっております。
一連の研究結果は、「心機能の悪い患者には心抑制作用の弱い麻酔薬を用いる」など個々の病態に応じた麻酔を行うことへの基盤的知見となり得ます。また、麻酔薬の心抑制・血管拡張作用の機序がわかることで効率的に循環抑制を防ぐ方法が見つかるかもしれません。ひいては、循環抑制の少ない新たな創薬にも繋がる可能性があります。普段使用している麻酔薬がどの様に心臓・血管に作用しているのかを調べることは大変興味深い実験だと感じており、臨床での麻酔薬選択にも大いに役立っています。
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この他にも臨床で得た検体を7号館5階にある細胞機能研究室と共同研究室に持っていき、肺がん患者のリンパ球の変化・サイトカイン産生量変化を解析して麻酔薬の免疫抑制作用について調べています。実際に研究棟で実験したデータをまとめて博士論文として発表しております。

Propofol decreases CD8+ T cells and sevoflurane increases regulatory T cells after lung cancer resection: a randomized controlled trial. J Thorac Dis. 2021 Sep;13(9):5430-5438.

Anti-Inflammatory Action of Dexmedetomidine on Human Microglial Cells. Int J Mol Sci. 2022 Sep 3;23(17):10096.