IgA nephropathy
IgA腎症とは?
IgA腎症は世界でもっとも頻度の高い原発性糸球体腎炎で、特に日本をはじめとするアジア諸国に発症が多くみられます。未治療のまま経過すると、約30-40%は末期腎不全に至る予後不良の疾患であることがわかっています。いまだ病因は不明であり根本的治療は確立されていませんが、最近になり扁桃摘出(扁摘)とステロイド療法の併用(扁摘パルス療法)が良い成績をあげています。確定診断には腎生検が必要です。
IgA腎症の病因
IgA腎症は、前述のように日本をはじめとするアジア諸国に多く発症し、地域差が認められています。大規模な家族内発症例が存在していることからも、遺伝因子が関与していると考えられています。 IgA腎症の病因は主に腎臓そのものよりも腎臓外にあることが想定されています。これは、IgA腎症患者さんが末期腎不全になり移植を受けた際に、約半数の患者さんで移植腎にIgA腎症が再発することや、過去にたまたまIgA腎症の患者さんの腎臓を、他の疾患で腎不全になった患者さんに移植した際に、移植した腎臓のIgAの沈着が消えたとする報告などからそのように考えられています。
腎臓外の病因として主にIgAの産生系に関わる異常が指摘されています。IgAは粘膜免疫に深く関わることから、細菌、ウイルス、食物抗原などが数多く研究されてきましたが、いまだ原因は特定されていません。しかし、これに関連し扁桃が重要な働きをしていることが考えられています。実際、IgA腎症の患者さんは上気道感染を契機に肉眼的血尿などの病状の増悪を認め、扁摘パルス療法の有用性が報告されています。 これまでの研究により、IgA腎症患者さんでは異常なIgA(糖鎖異常IgA)が血液中に増加することがわかってきました。また、その異常なIgAにくっついてしまう抗体も増えてしまい、それらがかたまって(免疫複合体)、腎臓にたまることで腎障害が進行する、すなわちIgA腎症になることがわかってきました(図1)。
図1 IgA腎症の病因
IgA腎症の初発症状・臨床症状
IgA腎症の大部分は無症候です。その発見の契機は、健康診断や学校検尿における尿所見異常で発見されるものが大部分です。本邦では肉眼的血尿で発見される患者さんは約10%前後、ネフローゼ症候群(尿に蛋白が大量にもれて浮腫をきたす状態)で発見されるのは5%以下とされています。
IgA腎症の検査所見
IgA腎症患者さんでは、ほとんどの場合に血尿が認められます。病期の進行とともに蛋白尿が陽性になります。血清IgAが高値を示す患者さんは、約3~5割程度にみられますが、血清IgAが正常値を示すことが多いことにも注意しなければなりません。
IgA腎症の診断
IgA腎症の最終的な確定診断は、腎生検による病理組織診断によります。光学顕微鏡ではメサンギウム細胞という腎臓固有の細胞の増殖を主体とする組織像を示し、蛍光抗体法(IF)(あるいは酵素抗体法)ではメサンギウム領域に免疫グロブリン(抗体と呼ばれるもの)の1種であるIgAの優位な沈着を認めた場合に診断されます。電子顕微鏡(EM)では、高電子密度物質の沈着を、傍メサンギウム領域を中心に認めます。
IgA腎症の鑑別診断
上気道炎などの感染後に血尿や蛋白尿が増悪することがあるので、急性糸球体腎炎との鑑別や、肝疾患、関節リウマチ等に合併する二次性IgA腎症の鑑別が重要です。当院では、原発性か、二次性かの鑑別に、IgA腎症特異的な腎生検診断試薬(KM55抗体)を用いて評価しています。
IgA腎症の予後評価
厚生労働省特定疾患進行性腎障害に関する調査研究班IgA腎症分科会による診療指第3版では、腎予後に関与する病変を有する糸球体の全糸球体数に占める割合で、組織学的重症度を4群に分類しています。組織学的重症度と尿蛋白量、腎機能(eGFR)により、透析導入に関するリスク分類(透析療法に至るリスクが少ない:低リスク群、中等度:中等度リスク群、高度:高リスク群、5年以内の導入の可能性が高い:超高リスク群)を行い、治療方針を決定しています。
IgA腎症の治療
IgA腎症の標準的治療法には、レニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬、口蓋扁桃摘出術、副腎皮質ステロイド療法、抗血小板薬などが挙げられます。本邦では、口蓋扁桃摘出術+ステロイドパルス併用療法(扁摘パルス療法)の有効性が多施設から多数報告されています。早期に治療介入することができれば8割以上に治療効果が期待できる扁摘パルス療法が日本では普及しています。病気を早期発見し、適切に治療をすれば透析の回避のみならず、腎障害に伴う心臓や脳の血管障害(心筋梗塞や脳梗塞)をきたすリスクを大幅に軽減することができます。
医療費助成制度
IgA腎症は指定難病に認定されています。当院は指定難病の医療費の給付を受けることができる指定医療機関です。申請に必要な書類を揃えて都道府県・指定都市に申請してください 。
ご不明な点は担当医におたずねください。
扁摘パルス療法(扁桃摘出術およびステロイドパルス療法)
- 耳鼻咽喉・頭頸科にて、全身麻酔下で両側口蓋扁桃摘出術を行います。5~7日間の入院が必要です。
- 腎・高血圧内科でステロイドパルス療法を行います。ステロイドパルス療法の投与法は、3日連続でステロイド薬を点滴で投与します。当科のプロトコールでは、2か月毎に3回行うことが多いです。初回はステロイド薬の副作用を評価するため、5日間の入院としていますが、特に問題なければ2、3回目は3日間の入院で治療します。ステロイドパルス療法の回数は病勢と治療反応性に合わせて決定します。また、ステロイドパルス療法終了後は、ステロイド薬を内服します。なお、IgA腎症の活動性が高い場合には、扁摘の前にステロイドパルス療法を先行する場合もあります。