脊椎診の紹介
脊椎外来ではあらゆる脊椎疾患を対象としていますが、脊椎疾患といっても、その症状は幅広く、腰痛、歩行障害、手足のしびれ、麻痺などなど多岐に亘ります。従って病名も椎間板ヘルニア、脊柱変形症、脊椎分離症、圧迫骨折など幅広く、病名が異なれば、当然治療法も異なります。また、病名が同じでも痛みの原因が、神経の圧迫によるものか、背骨の変形等に起因するかによっても治療方針が変わります。さらに感染症発生のリスクの高い糖尿病の患者さん、心臓が悪く長時間の手術に耐えられない患者さん、骨の弱い患者さん等、様々な問題を抱えている患者さんが沢山おられます。従って、個々の様々な状況を総合的に判断して治療方針を決めることになります。
病状の進行状態によって、手術の是非を検討しますが、患者さんの精神的肉体的負担、感染症のリスク等を勘案し、保存的治療(理学療法、薬物治療、神経ブロック、温熱療法など)で治せるものは時間を掛けても保存的治療で対処すべきと考えております。神経の麻痺等があり、保存的治療では治癒困難と判断された場合は、安全、確実を最優先して、症状に応じた術式を選択し、ベストの手術を行います。
対象疾患
頸椎症性脊髄症
頸椎症性脊髄症は頸椎(首の骨)の変形、椎間板の突出、靭帯の肥厚、骨化などが原因で、脊髄の通り道である脊柱管という部分が狭くなり、脊髄を圧迫することによって起こる疾患です。最初は手のしびれなどから発症し、進行すると巧緻運動障害(手の細かい動きがしにくくなってくる)、歩行障害(バランスがとれずスムーズに歩けない)といった症状が出現してきます。
検査では、レントゲン写真で頸椎の変形、MRIで脊髄の圧迫所見などを認めます。症状がしびれのみの場合は様子をみることが多いですが、巧緻運動障害、歩行障害が出現し進行する場合は、体操、薬では治療することが難しく、進行を止めるために手術が必要になる場合が多いです。
当院での手術は主に椎弓形成術という手術を行っています。首の後ろを切って筋肉を剥がし、頸椎の椎弓という部分を一部削って開くことによって、脊髄の圧迫を解除します。
皮膚を切る長さは7-10cmくらいで、入院期間は約2週間です。
また、頸椎にぐらつきがあるものに対してはスクリューなどの金属で固定をするような手術、圧迫が1椎間のものに対しては前方固定術(首の前の方から脊髄の除圧をはかる手術)も行っており、患者さんそれぞれの病態に応じて適切な手術法を選択するよう心がけています。
頚椎後方固定術後
頚椎前方固定術後
腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアとは、椎体と椎体の間にある椎間板が脊柱管(脊髄神経の通り道)に突出し、神経を圧迫する疾患です。神経が圧迫されると腰痛、下肢痛、下肢のしびれ、麻痺などが出現します。画像ではMRIで椎間板の突出が認められます。画像上ヘルニアがあっても無症状であることもよくあり、出ている症状と画像の所見が一致することが重要です。
治療はまず、薬剤、ブロックなどの保存療法を行いますが、なかなか痛みがとれない場合、痛みが激痛で動けない場合、麻痺が進む場合は手術を行う場合があります。
当科では手術用顕微鏡を用いて手術を行っています。顕微鏡下で手術を行うことによって、切る範囲を少なくし、より安全に手術ができます。皮膚を切る大きさは約3cmです。手術翌日には歩行でき、入院期間も4日間と短期間での治療が可能です。
腰椎椎間板ヘルニアのMRI
顕微鏡下の手術
腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症は腰部(腰の部分)で脊柱管(背骨の神経の通り道)が狭窄する(狭くなる)疾患です。狭くなる原因として、加齢、労働、あるいは背骨の病気(すべり症、分離症など)による影響などがあります。腰部脊柱管狭窄症では間歇性跛行(かんけつせいはこう)という歩行と休息を繰り返す症状が特徴的です。ときには安静時にもしびれや痛みが出ることがあり、また、進行すると足の力が落ちたり、肛門周囲のほてりや尿の出が悪くなったり、逆に尿が漏れる事もあります。検査ではレントゲン写真やCT、MRIなどで狭窄している部分を特定します。当院での治療は、まず手術以外での治療を前提としています。歩く時に杖やシルバーカー(手押し車)を使う、または自転車こぎといった日常生活の動作の指導から始まり、その他にはコルセット、神経ブロックや脊髄の神経の血行を良くする薬などがあります。しかし、歩行障害が進行し、日常生活に支障が出てくる場合には手術を行うこともあります。
当院での手術は、患者さんの年齢・職業などを考え、担当するスタッフが時間をかけて議論した手術法を提案しています。当院では、安全性を第一に、そのうえでなるべく傷を小さくする試みとして、手術用顕微鏡を用いた手術を行っています。また、病状によっては背骨をスクリューなどで固定する必要がありますが、当院では、スクリューの挿入が難しい場合にはナビゲーションシステムという最新の機械を用い、安全なスクリュー刺入を心がけています。入院期間は2週間程度ですが、その後も治療やリハビリが必要なときには、当院の関連病院への転院も可能です。私たちは、初診時から手術後まで責任をもって治療することをモットーとしています。
脊髄馬尾神経腫瘍
脊髄馬尾神経腫瘍には様々な腫瘍がありますが、私たちはそのなかでも脊髄硬膜内髄外腫瘍(脊髄神経の外に出来た腫瘍)や、砂時計腫などの硬膜外腫瘍(背骨の外にまで広がった腫瘍)に対して手術治療を行っています。脊髄硬膜内髄外腫瘍か髄内腫瘍(脊髄神経の内部に出来た腫瘍)は、造影MRIなどで慎重に判断します。
私たちは脳神経外科医と常に連携を取っており、当院では髄内腫瘍の場合、脳神経外科での治療となります。脊髄硬膜内髄外腫瘍のなかで特に頻度の高い神経鞘腫や髄膜腫の手術治療について触れます。頚椎、胸椎、腰椎どの高位でも片側進入の半側椎弓切除を行い、手術顕微鏡下に腫瘍を摘出します。腫瘍の大きさにもよりますが、腫瘍の存在する位置の背骨後ろ半分のみを削り、健常な筋肉、骨、関節に対するダメージを最小限にすることで金属などを用いた固定術は行わずに腫瘍が摘出できます。
スタッフ紹介