中枢神経系腫瘍性病変の治療
脳腫瘍は、病理組織学的に130種類以上と多彩であり、例え同じ腫瘍でも発生部位によっては治療法が異なる疾患群です。単に技術的に優れた医師が手術を担当し摘出するだけでは、お病気になる前の生活に近づけることはできません。
当科では、腫瘍が外科手術の適応とされ、当院での手術をご希望された方が、年間150人以上にのぼり、これを5年以上にわたり継続させていただいております。したがって、周術期管理を担当する医師だけでなく、入院期間中のケアを担当する看護スタッフ、術中の神経監視や医療機器の安全を守る臨床工学技士や神経モニタリングが確実に行えるよう麻酔深度を管理する麻酔科医まで、ご入院中に接するすべてのスタッフが豊富な脳腫瘍治療経験を有します。
もちろん、手術を担当する脳神経外科医の技術面は治療において重要です。この評価には様々な尺度があり定められたものはありませんが、その一つである年間手術症例経験数では、当科腫瘍担当は1年間に約300件の顕微鏡下手術を行っており、様々な状況に対応できるよう訓練されています。
当科では、外来での診断時から退院後の通院まで脳腫瘍治療を専門とする医師が担当いたします。これは、再発などの際にご病状の変化に気づきやすく、お困りのことがあれば安心してご相談いただけるよう検討した結果です。近年では、手術のみ担当する施設から退院され、お困りの方々からの相談をお受けになる近隣の先生方からもこの考え方にご賛同いただき、多くの患者様をご紹介いただいております。初診時のみ腫瘍担当でないことがあり、再診いただくことがありますことをご了解ください。
腫瘍班 手術実績
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脳腫瘍は稀少疾患であるのみならず、腫瘍の発生部位や腫瘍性質によって手術方法が異なります。当院だけで年間約150人以上の患者さんから脳腫瘍手術をお任せいただいていますが、それでも年齢、場所、腫瘍診断、大きさ等が完全に重複する手術であることはほとんどありません。したがって手術技術を維持し、どんな症例にも安全に対応するために、腫瘍のみならず脳血管や脳機能、正常解剖に関して熟知し経験することが必要となってきます。
このため、付属病院や関連病院への出張手術も含めて、年間約300例に関与させていただいております。中には治療困難であった血管障害や腫瘍手術の技術を応用した機能障害の手術をご依頼いただくこともあり、ここ数年の平均的手術内容と代表的疾患の手術数は以下のようになります。頭蓋内腫瘍摘出術(約200例/年)
髄膜腫 |
50 |
神経膠腫 |
50 |
神経鞘腫 |
35 |
転移性脳腫瘍 |
20 |
小児脳腫瘍 |
20 |
血管障害(約40例/年)
クリッピング術 |
5 |
AVM |
3 |
バイパス手術 |
8 |
内頚動脈内膜剥離術(CEA) |
5 |
機能外科手術(約15例/年)
微小血管減圧術 |
顔面けいれん |
10 |
三叉神経痛 |
5 |
腫瘍性病変の主な疾患名
聴神経腫瘍
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聴神経腫瘍といわれる脳腫瘍の多くは前庭神経から発生する良性の腫瘍です。発症形態としては聴力障害を自覚し耳鼻咽喉科等を受診、ご加療されることが多く、繰り返し治療を受けるうちに頭部MRI等の画像精査をすすめられてから指摘されるケースもあります。
治療には、開頭による腫瘍摘出術とガンマナイフと言われる放射線治療が現在の標準治療となります。当院では10年以上にわたり大変多くの医療機関よりこの疾患の治療に対するご相談および症例のご紹介を受けており、手術適応に関してはお一人お一人の社会的背景までご検討させていただき然るべく治療をご選択いただいております。
もちろん、外科手術に関しましても十分な実績があり、手術は年間に20例から30例を、この手術を経験している医師が担当しており、それを支える手術室スタッフ、神経モニターに関わる臨床工学士、麻酔科医も同手術に対し十分な経験を有しております。
現在この手術は、以前までの腫瘍径の増大による小脳・脳幹部の圧迫解除といった救命的要素を中心とした手術から、顔面神経の温存はもちろんのこと聴力温存を目指す機能的手術へ変貌をとげつつあると言われています。もちろん、実際には術後に聴力が温存できるかどうかは、腫瘍の大きさや術前の聴力の程度に依存しており、すべての方に聴力温存術はご提案できませんが、出来る限りの機能温存を目指した外科的介入を行なっています。
超高齢者の方で腫瘍の嚢胞形成による日常生活が困難となったケースや、突発性難聴やその他の疾患で、腫瘍側とは反対側の聴力が十分で無い方への外科介入。またご職業上、一時的な軽度の顔面神経麻痺も許されない方に対し、顔面神経機能を温存した可及的切除術にガンマナイフ治療を組み合わせた治療などの経験もあり、様々な事情に対しても十分な治療検討を行い、当院としての治療方針をご説明させていただいておりますので安心してご相談ください。
神経膠腫
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脳実質性腫瘍であり、その組織学的悪性度にも幅があるため、患者さんお一人お一人の十分な検討が必要不可欠な疾患です。統計学的には手術的摘出度が予後に寄与することが報告されているため、出来る限り摘出することが望ましいのですが、過度な摘出はかえって術後の生活の質を大幅に低下させてしまう結果に繋がります。
当科では術前にご本人とも十分なご相談を行うのはもちろんのこと、手術中も医療介入による機能低下を極力最小限にすべく、術中MRIを使用しながらナビゲーション併用、覚醒下手術、各種術中のモニタリング、蛍光色素による切除範囲決定等を行っています。
また手術後も、摘出腫瘍の病理学的解析に加えて、摘出腫瘍を分子生物学的に網羅的に解析可能な研究施設を大学組織として有しておりし、一部はご相談のうえ臨床応用していくことが可能です。
髄膜腫(頭蓋底腫瘍)
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手術による治癒切除が可能な腫瘍ですが、部位によっては治癒切除が困難なこともあります。当科では頭蓋底技術の豊富な経験から、これらを応用し可能な限りの切除が可能ですが、一部は機能予後の観点から放射線治療の組み合わせをお勧めすることがあります。
下垂体腺腫
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内分泌器官の中枢である下垂体に発生する良性腫瘍です。視神経や視交叉に近接して腫瘍が発生するため、視力・視野障害が特徴的な症状になります。それ以外には、無月経、乳汁分泌、末端肥大症等の内分泌症状で発症することもあります。したがって、同疾患は、内分泌学的症状と腫瘍により物理的圧迫に対する症状の両面を同時に治療することが必要です。
当科では下垂体腫瘍も中心に傍鞍部病変に対しては、内視鏡による経鼻的手術方法を早期から導入しており、安全に低侵襲手術を受けていただくことが可能です。また内分泌的には、糖尿病内分泌内科が周術期から積極的に関与することで両側面ともの治療が同時に可能となっています。
眼窩内腫瘍
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"目は脳への入り口"とわれるように、眼窩にも脳と同様の様々な腫瘍が発生します。視力が低下する、物が二重にみえる(複視)、眼球が突出する等の症状で発症します。多くの脳神経外科施設では開頭による摘出術を勧められることが多いですが、当院では可能な限りのご負担の少ない手術法を選択しており、開頭を伴う大きな手術だけでなく、眼窩の側方や前方からの手術もご提案できます。
現在までに、年間約20例、合計200例以上に及ぶ手術数があり国内ではトップクラスの経験を有しており、適切な治療につきご相談にのります。
小児脳腫瘍
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当科では講座設立時より新生児・乳児を含めたあらゆる小児脳神経外科疾患の診断と治療にも迅速かつ積極的に対応できるよう医師を教育しており、あらゆる小児脳脊髄疾患に対応が可能です。特に小児脳腫瘍は全国有数の経験を有しています。小児脳腫瘍は一部の良性腫瘍を除き、チーム医療を特に強く必要とする分野であり、診療科間の垣根の低い当院では迅速に関連する診療科と連携しながら治療にあたっています。