腎血管筋脂肪腫に対する腎動脈塞栓術

腎血管筋脂肪腫とは

腎血管筋脂肪腫とは、腎臓に発生する腫瘍の一つです。名前が示すように血管、筋肉、脂肪を主たる構成成分とする腫瘍です。ほとんどが良性腫瘍ですが、ごく稀に悪性化した報告があります。単発または散発性のもの(80%)と、常染色体優性遺伝である結節性硬化症に伴って生じるもの(20%)に分けられます。

腎血管筋脂肪腫は小さい場合は経過観察をすることが多いですが、大きくなると腹部や骨盤部の圧迫症状(腹部膨満感、便秘など)を呈したり、腫瘍の血管が破裂して腫瘍の中や腫瘍の周囲に出血を来すことがあります。結節性硬化症では、約80%に本疾患を認め、通常多発性、両側性で大小の腫瘍が両腎に多発し、腎臓が腫大しています。リンパ脈管筋腫症の約30%に本疾患を認め、時に腫瘍は巨大になります。

腎動脈塞栓術の目的

前述しましたように、腎血管筋脂肪腫は大きくなると腹部や骨盤部の圧迫症状や出血を来すので、治療の対象となります。特に出血はショックを起こしたり、重篤な状態になることがあり、その前に治療することが望まれます。一般的には腫瘍が4cm以上、または腫瘍に生じた動脈瘤の径が5mm以上で治療の対象となります。

治療は腎動脈塞栓術といわれるカテーテルを用いた治療と手術に分かれますが、一般的に第一選択はカテーテルを用いた治療が行われます。カテーテルを用いた治療により腫瘍が縮小し、動脈瘤も治癒することを目的としています。当科では、腫瘍が巨大となる傾向がある結節性硬化症やリンパ脈管筋腫症に生じた、症状を有する腫瘍もしくは、径5mm以上の動脈瘤を有する腫瘍に対して積極的に予防的治療を行っています。

腎動脈塞栓術の方法

左右どちらかの大腿動脈(時には上腕動脈)を穿刺して、その中にガイドワイヤーを入れ、それにかぶせるように径約2mmのカテーテルを大腿動脈から大動脈まで進めます。
その後、腎動脈を造影し、さらに腫瘍を栄養する腎動脈末梢に選択的に径約1mmのマイクロカテーテルを挿入して撮影を行います。まず、腫瘍を栄養する血管の造影をして病変の拡がりや位置、血流状態や動脈瘤の有無などを確認してから、動脈塞栓術を施行します。時に腎動脈以外の血管(下横隔動脈や肋間動脈など)から栄養血管が見られることがあり、その場合はそれらの血管から動脈塞栓術を施行します。

動脈塞栓術にはスポンジ製剤とマイクロコイルを使用します。スポンジ製剤は、腫瘍を虚血状態にして最終的に壊死を引き起こすために使用します。マイクロコイルは動脈瘤を塞栓して治療するために使用します。マイクロコイルは、目的部位でコイルを切り離す着脱式コイルと周囲にファイバー(線維)が付着したコイルがあり、血管に応じて使い分けています。

まず、スポンジ製剤を腫瘍を栄養する血管内に注入して血管を遮断し腫瘍を壊死させます。時に瞬間接着剤を用いて塞栓することもあります。腫瘍を栄養する血流が消失もしくは低下した段階で、動脈塞栓による治療を終えます。動脈瘤がある場合は、動脈瘤をマイクロコイルで塞栓治療します。
腫瘍の大きさや位置、血管の走行により治療時間は異なりますが、おおよそ2-4時間程度で治療が終了します。
治療終了後は、カテーテルを抜去して穿刺部を10分から15分程度圧迫いたします。その後、4-8時間の絶対安静が必要ですが、安静解除後は、歩行可能です。

治療効果と有用性

多くの症例で腫瘍は縮小し、小さな腫瘍では消失することもあります。また、動脈瘤はスポンジ製剤とコイルを用いて塞栓することにより治療が可能です。そのため、腫瘍による圧迫症状が改善したり将来起こりうる出血の予防をすることができます。

現在、当科では破裂の危険性の高い径5mm以上の動脈瘤を有する腫瘍や、症状を有する腫瘍に対する予防的動脈塞栓術を積極的に行っています。2012年4月時点での検討では、動脈塞栓術3~6ヶ月後の時点で動脈瘤はすべて消失し、平均53%の腫瘍縮小率の成績を得ています。よって本治療法は、動脈瘤破裂の予防や、腫瘍が縮小することで腹部の圧排症状を軽減させることができ、効果的な治療法と考えられます。また治療後の腎機能の悪化を防ぐため、当科では超選択的な動脈塞栓術を行い、正常腎実質への影響をできる限り少なくするように配慮しています。そのため、腎機能への影響は最低限かつ一過性に留まっています。

副反応

1)血管造影に伴う副反応


  1. 穿刺部の血腫
  2. 穿刺部からの出血(骨盤腔内)
  3. 大動脈および分枝する動脈の損傷(動脈解離や内膜損傷など)
  4. 動脈穿孔
  5. 動脈閉塞
  6. ヨード造影剤による副作用
  7. その他

1以外は、いずれも稀な副反応ですが、時に生じることがあります。副反応が生じた場合は、その都度対応致します。

2)動脈塞栓術時の副反応


  1. 腹痛等塞栓部の痛み、発熱
  2. 嘔気、嘔吐
  3. 腎梗塞(発熱、痛み、腎機能低下)
  4. 腎膿瘍
  5. スポンジ製剤、コイルなどの塞栓物質の肺内への迷入(無症状~肺塞栓症、肺梗塞による呼吸困難)
  6. 腹水、胸水の出現
  7. 腎動脈以外の動脈塞栓時に他臓器梗塞(副腎、腹壁など)
  8. その他(放射線皮膚炎など)

*1、2は塞栓後症候群と呼ばれ、当科で施行している比較的大きな腫瘍に対する動脈塞栓術後に、症状の違いはあるもののほぼ必発の副反応です。その他の副反応は、頻度は稀で腫瘍の部位、大きさ、病状によって発生の頻度は異なります。上記の合併症に対してはその都度ご説明し対応いたします。
当科受診をご希望の患者さんは、
毎週月曜日午後(13時~)放射線科 桑鶴良平の外来に電話予約後、
紹介状を持参
の上、ご来院下さい。本治療の詳細について具体的に御説明致します。