順天堂医院の膀胱癌診療の特徴

膀胱がんは高齢の方に多く発症する病気です。膀胱の筋肉までがんが入りこんだ浸潤がんと、根が浅い筋層非浸潤がん、さらに転移がんとで治療方法が大きく異なるという大きな特徴があります。したがって、がんの根の深さや転移しているかどうかを正確に診断する必要があるため、診断から治療にいたるまで豊富な経験が必要とされます。
当院はがん診療連携拠点病院であり、さらに当科では以前より多くの膀胱がん患者さんに診療させていただき、膀胱がん診療における国内を代表する施設です。手術に対しては尿道からの内視鏡手術を主に行い、再発予防や治療のために膀胱内へ薬剤を注入する治療も積極的に行っています。
また、年間約15件の膀胱全摘除術を行い、新膀胱による尿路変更術も多くの患者さんに行っています。現在当院の膀胱全摘除術は、ロボット手術による膀胱全摘除術を施行しており、患者さんの年齢や病気の状態に合わせて新膀胱、回腸導管、尿管皮膚瘻といった尿路変更術の選択肢の中からベストなものを提案させていただきます。
既に転移などが出現し、手術では根治できない進行性の膀胱がんに対する化学療法が必要になってきます。当院では抗がん剤、免疫チェックポイント阻害薬などを用いた治療も積極的に導入しており、多くの患者さんの治療を行っています。化学療法は副作用の心配などもありますが、患者さんの負担を減らした安全な治療法として提案させていただきます。
膀胱がんは患者さんの生活に強く影響し、適格な診断と治療が求められます。われわれは患者さんそれぞれに現在考えうるベストの診療を提供しますので、いつでもご相談ください。

膀胱がんについて

膀胱とは

膀胱は腎臓で作られた尿をためる臓器です。腎臓から尿が送られてくる左右の尿管と尿を出す尿道がつながっています。尿が溜まって我慢しているとおなかの一番下が張ったような感じがすると思います。その部分が膀胱です。男性と女性では少しまわりの臓器が違います。男性の場合には膀胱からでる尿道の周囲に前立腺があります。また、男性では膀胱のすぐ背中側が直腸ですが、女性は膀胱のすぐ背中側が膣、そのまた背中側が直腸になります。
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膀胱がんとは

  • 膀胱の粘膜にできるがんです。
  • 血尿が最も多い症状です。痛みを伴わない場合が多いですが、膀胱炎などをともなう場合もあります。
  • 喫煙が膀胱がんの発がんリスクになります。
  • 家族性のものはあきらかになっていません。がんの根の深さ(どの程度膀胱に食い込んでいるか)によって治療法が変わります。


診断方法・治療までの流れ

尿検査、尿細胞診検査

潜血反応陽性あるいは顕微鏡的血尿(肉眼ではわからない、顕微鏡で初めてわかる血尿)、肉眼的血尿がある場合に尿細胞診で尿中の癌細胞の有無を診断します。

腹部超音波検査

尿を貯め膀胱を充満させることで内部を観察することができ、患者さんの負担が少ない検査として優れています。また、腎臓も(男性は前立腺も)同時に観察します。

膀胱鏡検査

膀胱内部を観察し腫瘍の有無を判断します。以前は硬性鏡という金属製の内視鏡でしたが、現在は柔らかファイバースコープと以前より痛みが少ない検査となりました。診断に必須の検査で、外来で行えます。

CT・MRI検査

これらの画像検査で癌が全身に広がっていないか、膀胱の周囲に広がっていないかなどを評価します。治療方針を決める上で必須の検査です。

PET-CT検査

最近では膀胱がんの転移を見つけるのにPET-CT検査が有用です。

膀胱がん浸潤形式の違い

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膀胱がんFISH(ウロビジョン)

ウロビジョン検査とは、膀胱がん上皮内がん(CIS)の既往歴の患者さんに用いられる、尿検体を用いた再発診断補助のための遺伝子検査です。アメリカでは2001年から承認を得ていた検査ですが、日本では2019年1月より保険適応となりました。CISの診断既往、TUR-Bt手術日から2年以内に2回まで、膀胱鏡で膀胱内に明らかな病変を認めないなど、現時点では施行条件が限られていますが、当院でも施行可能な検査です。

膀胱がんの治療

経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)

内視鏡を使って膀胱の腫瘍を削り取ります。以下の写真に示すような内視鏡を使って、根の浅い癌であればこの手術だけで癌取り除くことが可能です。膀胱がんの第一選択となる治療です。また、筋層非浸潤性膀胱がんに対してはほぼ全ての患者さんに対してTUR-Btが終わった直後に膀胱内に抗がん剤を入れます。この方法により膀胱がんの再発リスクを減らすことが明らかになっています。
また当院では、通常のTUR-Btに加えて、5-アミノレブリン酸(5-ALA)による蛍光膀胱鏡を用いた光線力学診断(PDD) (ALA-PDD)を用いたTUR-Btも行っています。手術前に5-アミノレブリン酸(5-aminolevulinic acid:5-ALA)を服用し赤色に蛍光発光させることで、より確実にがんを診断、切除することができます。

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TUR-Bt+膀胱内注入療法

TUR-Btが終わって退院していただいた後で、膀胱内に薬剤を入れる治療を行います。これには2つの意味があります。1つは現在ある膀胱がんに対する治療で、もう1つは同じような膀胱がんが膀胱内にできるのを防ぐ予防のためです。治療としての膀胱内注入療法は「膀胱がん浸潤形式の違い」に書いたTisという上皮内がんに対して行います。この膀胱がんは膀胱粘膜から飛び出すような隆起性のがんではなく、膀胱粘膜と同じ高さで這うように広がっていくがんであるため、TUR-Btで全てを切除することは難しいと考えられています。そこでBCGを膀胱内に入れます。みなさん、「BCGワクチン」と聞いたことがあるでしょうか。結核予防のために生後接種しているのが「BCGワクチン」です。「BCG」とはウシの弱毒の結核菌です。これを膀胱内にいれると膀胱の免疫反応に働いて膀胱がん細胞を破壊します。実際有効であることは科学的に証明されています。多くの場合、1週間に1回投与することを4-8回繰り返しますが、炎症反応が極めて強く、重症の膀胱炎のような症状(排尿時の痛み、血尿、排尿回数の増加、残尿感、など)や発熱が起こることがあります。中には半年おきに3回の膀胱内投与を繰り返す場合もあります。再発の予防に対してはBCGを使うこともありますし、抗がん剤を使うこともあります。膀胱がんの根の深さやその悪さ、数、大きさなどからどちらを使うかは判断します。

膀胱全摘除術(ロボット支援下根治的膀胱摘除術)

 内視鏡でがんが取り除けない根が深い癌の場合、膀胱を全て摘出します。根の深い癌の場合、CTやMRIなどの画像診断で検出できないような小さな転移がある可能性が高く、多くの患者さんは膀胱全摘除術の前に、抗がん剤治療を行います。膀胱を摘出した場合は尿の出口を新たに作成する(尿路変更術)必要があります。
当初、日本の泌尿器科では前立腺がんと、腎がんに対してロボット手術が主に行われていましたが、2018年4月から膀胱全摘除術も保険診療でのロボット手術が可能となりました。われわれは膀胱がんに対する膀胱全摘除術もロボット手術で行っています。手術の傷が小さい、出血量が少ない、手術時間が短いなどの利点があり、患者さんへの負担はとても小さい手術方法です。
膀胱を取ると尿路を変更する必要があります。尿路変更術には新膀胱造設術、回腸導管造設術、尿管皮膚瘻造設術の3つがあり、患者さんの年齢や病気の状態、既往歴などを考慮してベストな選択を提案します。当院は、完全体腔内での新膀胱造設を行っている数少ない施設の一つです。

膀胱温存療法

膀胱全摘除術が標準治療となるような浸潤性の膀胱がん患者さんの中で、手術をご希望されないような患者さんに対しては膀胱温存療法を行います。当科では抗がん剤の動注療法を行い、その後放射線療法を併用しています。抗がん剤の動注療法は全身投与よりも患者さんの負担が少なく、放射線治療も外来で治療可能です。

放射線治療

ご年齢や合併症などの理由で膀胱全摘除術が困難な場合、放射線と抗がん剤を併用して治療します。
また、転移がある膀胱がん患者さんに痛みを取ることを目的として転移部位に放射線療法を行うこともあります

化学療法(抗がん剤)、免疫チェックポイント阻害薬を用いた薬物治療


CTやMRIで既に転移(リンパ節や肺など他の部分にがんがある状態)が疑われる場合やがんが膀胱の周囲に広がっている場合は抗がん剤による治療が有効です。以前は、抗がん剤の全身投与は副作用が強く患者さんの負担が大きい治療と思われがちでしたが、最近では様々な副作用を減らす有効な治療が確立しているため、ちょっとした全身倦怠感程度ですむ場合が多くなっています。


専門外来

膀胱外来:木曜日 家田健史
膀胱ロボット外来:金曜午後 清水史孝