polymyalgia rheumatica, PMR
疾患概念・病態
リウマチ性多発筋痛症(PMR)は、通常50歳以上の中高年者に発症し、発熱や頸部、肩、腰、大腿など四肢近位部(近位筋)の疼痛と朝のこわばりを主訴とする原因不明の炎症性疾患である。同疾患の病態は不明な点が多いが、臨床的関連より巨細胞性動脈炎(Giant cell arteritis:GCA)との関連が指摘されている。遺伝要因としてはPMRとGCAはどちらも、HLA-DR4特定の対立遺伝子の関係が報告されている。また、最近では免疫学的にはTh17細胞が増加し、制御性T(Treg)細胞は減少すること、末梢血では炎症性サイトカインのインターロイキン6(IL-6)が上昇することが指摘されている。炎症性サイトカインの上昇は本疾患の全身症状の原因と考えられている。
疫学
- 発症年齢は、ほぼ例外なく50歳以上の成人である。有病率は年齢が上がるにつれて次第に増加する。発症率は70歳から80歳がピークであるが、80歳代もまれではない1)。PMRを発症する生涯リスクは女性で2.43%、男性で1.66%と推定されており、欧米では成人発症の膠原病疾患の中では関節リウマチに次ぐものである2)。また、家族集積性は稀ではあるが確認されている。
- 年間発症率は欧米諸国と比較すると少ない。また地理的に異なり、スカンジナビア諸国や北ヨーロッパの人々で最も高く、南部地域でははるかに低い(ノルウェーでは年間10万人あたり113人、イタリアでは年間10万人あたり13人)3)。本邦での正確な調査は少ないが、50歳以上の人口10万人あたり1.5人とされている。
- 欧米ではGCAの約50%にPMRを合併し、逆にPMRの5-30%にGCAを合併するが、本邦での両疾患の合併例は比較的まれである。
臨床症状
発症は突然であり、On setが明確なこともある。
1.筋肉痛
- 頸部から肩、肩甲部、上腕にかけて、また、大腿部から膝など、四肢の近位部に筋肉痛が生じる。痛みは軽微なものから、ときに耐えがたい筋肉痛を生じることもある。特に肩甲部の疼痛は頻度が高く、ほぼすべての患者に見られる症状である(70-95%)。最初は片側である可能性もあるが、多くがすぐに対称となる。肩の外転が制限され、上腕の疼痛が生じることが一般的である。上腕圧痛は特異度が高い。筋肉痛が高度の場合は立ち上がれなくなったりする事がある。
2.関節痛
- 多くは両側性で、手関節、膝関節などに多い。手関節痛に関連して手根管症候群を生じることもある。
- 手指関節が侵されることは稀であり、関節リウマチ(rheumatoid arthritis, RA)との鑑別点になりうる。
3.発熱
- 37℃台程度の発熱から38℃を超えるものまで程度は様々である。海外では血管炎の合併のない患者では発熱の頻度は10%程度であると報告されているが、本邦では本症の79%に38℃以上の高熱をきたしたとの報告もある。
4.その他
検査所見
- 筋肉痛を訴えるが筋肉は正常である。血清学では血清クレアチンキナーゼ(creatine kinase, CK)、アルドラーゼなどの筋原性酵素の上昇は通常みられない。また、病理組織学的にも正常である。主に影響を受けるのは、近位関節、特に腱などの関節周囲構造であり、滲出液はあまり多くない。
- 赤沈値の亢進、CRP値などの炎症反応の上昇を認める。
- 抗核抗体やリウマトイド因子(rheumatoid factor, RF)のような自己抗体は原則出現しない。
- 超音波やMRI(magnetic resonance imaging)検査では、両側の三角筋下滑液包炎や肩峰下滑液包炎及び上腕二頭筋長頭の腱鞘炎を高頻度に認める。
- PET(本邦では保険未収載)では腸骨滑液包炎や頚椎、腰椎の棘突起間滑液包炎に由来する18F FDGの取込み増加を認める。
診断・鑑別診断
- 以前はBirdらの診断基準(表1)や本邦におけるPMRの診断基準が汎用されていたが、最近では2012年ACR/EULARの暫定分類基準(表2)4)がよく用いられるようになってきている。
2012年EULAR/ACRより超音波検査の項目を含んだ暫定的な分類基準が提唱された(表2)。これらの項目について評価することは診断の一助となっているが、いずれの診断基準・分類基準を用いた場合も、PMRに特異性の高い項目はないため、鑑別すべき疾患を十分に評価し除外する必要がある。
表1.リウマチ性多発筋痛症の診断基準(Birdらの診断基準)
- 両側肩の痛み および/または こわばり
- 初発から症状完成まで2週間以内
- 初診時、血沈40mm/時以上
- 朝のこわばり(頚、肩甲骨、腰帯)1時間以上
- 年齢65歳以上
- うつ状態 および/または 体重減少
- 両側上腕の圧痛
判定
上記3項目以上、または上記1項目+臨床的・病理学的な側頭動脈の異常→probable PMR
補足
- PMRに特異的な所見はなく除外診断が必要で、本基準のみで確定することは出来ない。
- PMRの診断をさらに確実にするために、プレドニゾロンによる診断的治療が有用である。
また2012年EULAR/ACRより超音波検査の項目を含んだ暫定的な分類基準が提唱された(表2)。その完成度には賛否あるが、これらの項目について評価することは診断の一助となる。
表2.2012年EULAR/ACR リウマチ性多発筋痛症暫定分類基準
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超音波検査未実施 |
超音波検査実施 |
45分以上持続する朝のこわばり |
2 |
2 |
臀部痛または股関節の可動域制限 |
1 |
1 |
リウマトイド因子、抗CCP抗体が陰性 |
2 |
2 |
肩関節、股関節以外に関節症状がない |
1 |
1 |
超音波検査所見 |
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- 少なくとも一方の肩で三角筋下滑液包炎、上腕二頭筋腱鞘滑膜炎、肩甲上腕関節滑膜炎のいずれか、かつ少なくとも一方の股関節において滑膜炎/転子包炎を有する。
- 両方の肩で、三角筋下滑液包炎、上腕二頭筋腱鞘滑膜炎、肩甲上腕関節滑膜炎のいずれかがある。
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― |
1 |
PMRと分類:超音波検査実施→合計4点以上、
超音波検査未実施→合計5点以上 |
― |
1 |
前提条件 : 50歳以上,両側の肩の痛み、CRP上昇または血沈亢進
- 鑑別診断:関節リウマチ、血管炎症候群、筋炎などの炎症性疾患、悪性腫瘍、感染症(診断がつきにくい細菌性心内膜炎や膿瘍など)のなどの鑑別を十分に施行する必要性がある。
特に注意して鑑別すべき疾患と鑑別のポイント
- 感染症
症状により適切に画像検査や培養検査を行う。
- 悪性腫瘍
できる限り治療前に全身的な悪性疾患の検索を行う。ただし症状が強い場合、PMRとしての治療を先行させる場合がある。
- 関節リウマチ
特にリウマチ因子や抗CCP抗体が陰性である血清反応陰性関節リウマチでは大関節が侵される頻度が高く、急性炎症反応も高く出る傾向があるため、鑑別に苦慮する場合がある。2012年EULAR/ACR リウマチ性多発筋痛症暫定分類基準の超音波検査所見もPMRと関節リウマチを区別するものではなく、PMRと非リウマチ性疾患を区別するものである。PMRとして治療開始後にRAが顕在化する場合もあり注意が必要である。
- 多発性筋炎
近位筋の疼痛を主訴とする疾患として鑑別が必要である。多発性筋炎では筋原性酵素の上昇がみられPMRと異なる点である。
- 血管炎症候群(巨細胞性動脈炎、顕微鏡的多発血管炎、結節性多発動脈炎など)
好発年齢が高齢であり、発熱や炎症反応上昇がみられ鑑別が必要である。ANCA関連血管炎ではMPO-ANCAやPR3-ANCA値が陽性であり、血管炎の場合肺障害や腎障害など臓器障害を呈するが、PMRは筋痛以外臓器障害を認めない。
- 線維筋痛症(fibromyalgia, FM)
線維筋痛症では全身の筋痛を訴えるが、特有の圧痛点が存在する。炎症反応は正常でありPMRとの鑑別点である。
治療
- プレドニゾロン(prednisolone, PSL)換算10~20mg/日のステロイド投与で多くは早期に改善する。早ければ投与開始翌日、遅くとも3日程度で症状の改善をみる例が多い。
- まれに反応が悪く、ステロイドを増量する場合がある。
- 治療抵抗性の場合には、関節リウマチの治療に準じてメトトレキサートを使用することがある。
- 疾患活動性を評価(表3)5)しつつ、治療の反応が良好であれば、2~4週毎に10%、すなわち2~2.5mg程度、10mgからは4週毎に1mgずつ慎重に漸減する。
- ステロイド減量中に再燃することがあり、再燃時はステロイド投与量を1.5~2倍へ増量する。
- ステロイド離脱も可能な疾患であるが、再燃例では5mg/日以下での長期にわたる維持投与が必要となることがある。
- 巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)合併例では、失明の危険もあるためステロイド大量投与が必要となることがある。
- 近年、抗IL-6受容体抗体のトシリズマブの有効性が相次いでいる。現時点では本邦では保険対象疾患とはなっていないが、特にステロイド抵抗性の患者や副作用の問題でステロイドの使用が困難な患者の、今後の新たな治療選択肢として注目されている。
表3. PMRの疾患活動性スコア(PMR-AS)
PMR-ASの計算式 PMR-AS=患者VAS+医師VAS+(0.1×MST)+EUL+CRP
評価項目 |
スコア |
1.患者VAS:患者による痛みの自己評価
(最も痛かった時を 10 として,今の痛みを 0 ~ 10 点で表現) |
0-10 |
2.医師VAS:医師による疾患活動性の評価 |
0-10 |
3.0.1×MST:朝のこわばり(MST)の持続時間(分)×1/10 |
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4.EUL:上肢の挙上可能範囲を0~3の4 段階で評価
肩より上まで挙上可能 ⇒ 0 点
肩の高さまで挙上可能 ⇒ 1 点
肩より下まで挙上可能 ⇒ 2 点
全く挙げられない ⇒ 3 点 |
0-3 |
5.CRP:CRPの値(mg/dl) |
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スコアの合計が 1.5 以下:寛解,1.5 ~ 7:低活動性,7 ~ 17:中等度, 17 以上:高活動性
予後
- 巨細胞性動脈炎の合併が無ければ、多くは治療に反応し予後良好である。
- 高齢者に多い疾患のため、特にステロイドの維持投与が必要な場合は、感染症や骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折合併などが予後に影響を与える。
参考文献
- Salvarani C, et al : Epidemiology of polymyalgia rheumatica in Olmsted County, Minnesota, 1970-1991. Arthritis Rheum. 1995 Mar;38(3):369-73.
- Cynthia S. Crowson, et al : The Lifetime Risk of Adult-Onset Rheumatoid Arthritis and Other Inflammatory Autoimmune Rheumatic Diseases. Arthritis Rheum. 2011 Mar;63(3):633-9.
- Gonzalez-Gay MA, et al : Epidemiology of giant cell arteritis and polymyalgia rheumatica. Arthritis Rheum. 2009;61(10):1454.
- Bhaskar Dasgupta, et al : 2012 provisional classification criteria for polymyalgia rheumatica: a European League Against Rheumatism/American College of Rheumatology collaborative initiative.Ann Rheum Dis 2012;71:484-492.
- Leeb BF, et al : The polymyalgia rheumatica activity score in daily use:proposal for a definition of remission. Arthritis Rheum 57 : 810-815, 2007.
更新日:2022年7月1日