疾患概念・病態

高安動脈炎は、橈骨動脈脈拍消失を認めることがあり、脈なし病とも呼ばれ、1908年に本邦の高安右人博士によって発見された。若年女性に好発し、大動脈及びその主要分枝や肺動脈、冠動脈に非特異的炎症を生じる大型血管炎で、病変の生じた血管領域により臨床症状が異なるため多彩な臨床症状や諸臓器に病変を合併する。特異的な自己抗体は検出されないが、HLA-B52の頻度が有意に高く、遺伝的背景の関与が考えられる。治療として、副腎皮質ステロイドが第一選択となるが、減量に伴う再燃率も高く、免疫抑制療法の追加が効果を認める。また、バイパス治療や血管内治療といった外科的な観血的治療を要する場合もある。

疫学

日本をはじめとしアジア、中近東や南米に多いが、特定の人種や地域に限定して発症するわけではない。若年女性に好発する疾患で、日本で1998年度に行われた調査において、男女比は1 : 9で、発症年齢は女性では20歳前後がピークであったが、男女比は国によって異なり、日本でも男性の発病者は以前と比べ多く、中高年以降の発症も稀ではない。

診断・鑑別診断

本邦の厚生労働省の難病情報センターの診断基準を以下に示す。

診断基準

Definiteを対象とする。
A.症状
  1. 全身症状:発熱、全身倦怠感、易疲労感、リンパ節腫脹(頸部)、若年者の高血圧 (140/90mmHg以上)
  2. 疼痛:頸動脈痛、胸痛、背部痛、腰痛、肩痛、上肢痛、下肢痛
  3. 眼症状:一過性又は持続性の視力障害、眼前明暗感、失明、眼底変化
  4. 頭頸部症状:頭痛、歯痛、顎跛行、めまい、難聴、耳鳴、失神発作、頸部血管雑音、片麻痺
  5. 上肢症状:しびれ感、冷感、拳上困難、上肢跛行、上肢の脈拍及び血圧異常、脈圧の亢進
  6. 下肢症状:しびれ感、冷感、脱力、下肢跛行、下肢の脈拍及び血圧異常
  7. 胸部症状:息切れ、動悸、呼吸困難、血痰、胸部圧迫感、狭心症状、不整脈、心雑音、背部血管雑音
  8. 腹部症状:腹部血管雑音、潰瘍性大腸炎の合併
  9. 皮膚症状:結節性紅斑

B.検査所見
画像検査所見:大動脈とその第一次分枝の両方あるいはどちらかに検出される、多発性またはびまん性の肥厚性病変、狭窄性病変(閉塞を含む)あるいは拡張性病変(瘤を含む)の所見
 
C.鑑別診断
動脈硬化症、先天性血管異常、炎症性腹部大動脈瘤、感染性動脈瘤、梅毒性中膜炎、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、血管型ベーチェット病、IgG4関連疾患

診断のカテゴリー

Definite: Aのうち1項目以上+ Bのいずれかを認め、Cを除外したもの。
 
(参考所見)
  1. 血液・生化学所見:赤沈亢進、CRP 高値、白血球増加、貧血
  2. 遺伝学的検査:HLA-B52またはHLA-B67保有

臨床症状

病変の生じた血管の支配領域により臨床症状が異なるため多彩な臨床症状を呈し、弓分枝を含んだ罹患が最多だが、若年女性では弓分枝限局型、男性では腹部限局型もみられやすい。発症初期に発熱、倦怠感および疼痛症状を訴える患者が多く、上肢の冷感や脱力が最も多い。特に左上肢の脈なし、冷感、血圧低値を認めることが多く、頸部痛、上方視での脳虚血症状は本症に特有である。
大動脈弁閉鎖不全症を併発することがあり、心不全につながるリスクがある。まれに、冠動脈に狭窄病変を認め、狭心症や急性心筋梗塞を認めることもある。頸動脈病変による脳梗塞も生じうる。下肢血管病変は腹部大動脈や総腸骨動脈などの狭窄により生じ、下肢の冷感、脱力、間欠性跛行などの症状を認め、腎血管性高血圧を合併することがある。また10%程度に炎症性腸疾患を合併し、下血や腹痛症状を生じうる1),2)

検査所見

血液検査において赤沈、CRPの上昇を認めることが多いが、陰性の場合もある。特異的な自己抗体は検出されないが、HLA-B52の頻度が有意に高く参考所見となる。 近年心筋梗塞や動脈硬化等の虚血性心疾患のバイオマーカーとして注目されているPentraxin 3 が、本疾患のバイオマーカーとしても研究され、高安動脈炎の診断や治療経過に有用であると報告されている。
造影3D-CT やMRI/MR angiographyによって、血管の狭窄や拡張病変の有無を検討することが必要であるが、狭窄がおきる前の早期の状態では診断が難しい3)。近年、血管造影検査は侵襲性の問題もあり施行することは減少している。
血管の炎症所見が強い場合は、造影CT/MRI では、血管径の変化がない病初期でも壁の全周性肥厚が検出でき,造影後期相では厚い大動脈壁のdouble ring sign を認める。 Ga(ガリウム)シンチや PET-CTが高安動脈炎の質的診断に有用であると報告され、狭窄症状をきたさない早期の高安動脈炎の診断も可能となってきている。PET-CTは、全周性の高吸収像が特徴で、炎症の存在を網羅的に検索でき、治療効果や炎症活動性の評価法としても期待される4)。保険が未承認で高額な検査であることが問題であったが、2018年4月の改訂で高安動脈炎または巨細胞性動脈炎と診断された患者さんを対象とした場合に限り保険適用として認められた。
大血管の病変であるため、組織検査を施行することが難しい場合が多いが、病理組織学的には炎症の主座が、高安動脈炎では外膜寄りに、巨細胞性動脈炎では内膜寄りに観察され、鑑別診断に寄与する5)

治療

内科療法は炎症の抑制を目的として副腎皮質ステロイドが使われる。プレドニソロン0.5〜1 mg/kg/日で治療を開始することが多い6)。しかし副腎皮質ステロイド単独での治療では約半数が減量と共に再燃する可能性があり、特にHLAB-52 陽性患者は副腎皮質ステロイド抵抗性を示すことが多く、免疫抑制薬の併用が必要となることが多い。メソトレキサート(MTX)を副腎皮質ステロイドと併用することが報告されている。生物学的製剤の併用効果が考えられ、TNF 阻害薬のインフリキシマブについては、副腎皮質ステロイド抵抗性の患者に投与しステロイドを離脱できたという報告を認め、IL-6 受容体阻害薬のトシリズマブについては、副腎皮質ステロイド効果不十分例に投与し、約半数がステロイドを離脱できたと報告しており、トシリズマブ (商品名:アクテムラ®)は保険収載されている7)
また、炎症血管壁での血栓性合併症を生じるため、抗血小板剤、抗凝固剤の適応が考えられる。
外科療法は特定の血管病変に起因する虚血症状が明らかで、内科的治療が困難と考えられる症例に適用され、対象になる症例は全体の約20%である。炎症が沈静化してからの手術が望ましい。血管狭窄に対してのバイパス手術は確立された治療法で、術後狭窄率も少ない。最近、バルーン拡張術やグラフトステント術が増加傾向にあり、侵襲性が少ないが、再狭窄、再閉塞率も高く、現状ではバイパス手術の方が予後は良好と考えられる。

予後

予後を左右する因子として、血管狭窄や拡張に伴う病変として、腎動脈狭窄や大動脈縮窄症による高血圧、大動脈弁閉鎖不全によるうっ血性心不全、心筋梗塞、解離性動脈瘤、動脈瘤破裂、脳梗塞があり、外科的に観血的な治療を要することがある。そのような病態を未然に防ぐために、MRI、CT、PET-CTやエコー検査を用いた早期診断の必要性が問われている。

文献

  1. Justin C. Mason et al. Nature Reviews Rheumatology 6, 406-415 (2010)
  2. Maksimowicz-Mckinnon K et al. Medicine (Boltimore). 2009 Jul;88(4):221-6
  3. Mavrogeni S, Semin Arthritis Rheum, 401, 2013
  4. Christian Dejaco et al. Ann Rheum Dis. 2018;0:1-8
  5. Espinoza JL et al. Pathogens.2018 Sep 6;7(3):73.
  6. C Mukhtyar et al. Ann Rheum Dis. 2009 Mar;68(3):318-23
  7. Nakaoka Y et al. Ann Rheum Dis.2018 Mar,77(3):348-354

病型分類(沼野らによる分類)

I型:大動脈弓分岐血管
II a型:上行大動脈、大動脈弓及びその分岐
II b型:IIa病変+胸部下行大動脈
III型:胸部下行大動脈、腹部大動脈、腎動脈
IV型:腹部大動脈、かつ/又は、腎動脈
V型:IIb + IV型(上行大動脈、大動脈弓及びその分岐血管、胸部下行大動脈に加え、腹部大動脈、かつ/又は、腎動脈)

重症度分類

I度:
高安動脈炎と診断しうる自覚的(脈なし、頸部痛、発熱、めまい、失神発作など)、他覚的(炎症反応陽性、上肢血圧左右差、血管雑音、高血圧など)所見が認められ、かつ血管造影(CT、MRI、MRA、FDG-PETを含む)にても病変の存在が認められる。
ただし、特に治療を加える必要もなく経過観察するかあるいはステロイド剤を除く治療を短期間加える程度。
II度:
上記症状、所見が確認され、ステロイド剤を含む内科療法にて軽快あるいは経過観察が可能
III度:
ステロイド剤を含む内科療法、あるいはインターベンション(PTA)、外科的療法にもかかわらず、しばしば再発を繰り返し、病変の進行、あるいは遷延が認められる。
IV度:
患者の予後を決定する重大な合併症(大動脈弁閉鎖不全症、動脈瘤形成、腎動脈狭窄症、虚血性心疾患、肺梗塞)が認められ、強力な内科的、外科的治療を必要とする。
V度:
重篤な臓器機能不全(うっ血性心不全、心筋梗塞、呼吸機能不全を伴う肺梗塞、脳血管障害(脳出血、脳梗塞)、虚血性視神経症、腎不全、精神障害)を伴う合併症を有し、厳重な治療、観察を必要とする。

更新日:2020年8月8日