ANCA associated vasculitis
はじめに
抗好中球細胞質抗体(antineutrophil cytoplasmic antibody,ANCA)は、好中球細胞質に対する自己抗体の総称であり、間接蛍光抗体法の蛍光染色パターンによりP(perinuclear)-ANCAとC(cytoplasmic)-ANCAに分類される。P-ANCAはmyeroperoxidase(MPO)、C-ANCAはproteinase3(PR3)を主な対応抗原とし、ELISA法によって測定する場合にはMPO-ANCA、PR3-ANCAと表記される。それぞれ疾患特異抗体であるとともに、疾患活動性のマーカーとしても重要であり、臨床経過中も測定される。
疾患概念
血管炎は、血管そのものに炎症を認める疾患の総称である。この疾患概念は1866年にKussmaulとMaierらにより結節性動脈周囲炎の患者が報告されたことに始まった。前節で述べたANCAが1982年にDaviesらにより発見され、近年の血管炎の分類・診療に大きな影響を与えることとなる。その後1994年に開催されたチャペルヒルコンセンサス会議で各血管炎の定義や主な罹患部位による分類法(CHCC 1994)が提唱され、そこでANCA関連血管炎という血管炎概念が提唱され定着した。2012年に改訂された新たなチャペルヒル分類では小型血管炎は免疫複合体性血管炎群とANCA関連血管炎と総称される疾患群の2群に大別され、そのうち本項のANCA関連血管炎はさらに全身型と臓器限局型に大別されている。
全身型ANCA関連血管炎には顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis ,MPA)・多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangiitis ,GPA)と好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis ,EGPA)の3疾患がある。MPO-ANCAはMPAとEGPAの、PR3-ANCAはGPAの疾患標識抗体である。一方、臓器限局型ANCA関連血管炎には腎にのみ血管炎を発症する病型としてpauci-immune型の壊死性半月体形成性糸球体腎炎が知られ、腎限局型血管炎(renal-limited
vasculitis ,RLV)と呼ばれる。RLVはMPAの腎限局型とも考えられるがその疾患標識抗体もMPO-ANCAである。※稀にMPO-ANCA陽性のGPA、PR3-ANCA陽性のMPAは存在する。
疫学
MPAは長年、特定疾患の取り扱いの中で結節性多発動脈炎(PAN)に含めてまとめられていた経緯がありMPAとして正確な統計調査は乏しい。2015年に新たに制定された難病法で、MPAはPANと別の疾患として指定難病に認定されており、2015年度末の特定疾患医療受給者証交付件数のまとめでは8511人であった。ただし軽症例が申告されていない可能性も考慮すると実際の患者数はこれよりも多いと考えられる。GPAに関しては2012年の特定疾患医療受給者証保持者数は1942人と報告されており、EGPAに関しても2009年に行われた全国疫学調査によって1900人と推定されており、我が国ではEGPAとGPAの患者数はほぼ同等と思われる。我が国ではMPA患者が最も多いANCA関連血管炎であるが、一方欧米ではGPAがMPA患者より頻度が高く、国内外での疫学的な差異が存在する。
各疾患の臨床的特徴
- 顕微鏡的多発血管炎(MPA)
好発年齢は55~74歳と高齢者に多い。発熱、体重減少、易疲労感、筋痛、関節痛などの全身症状(約70%)とともに組織の出血や虚血・梗塞による徴候が出現する。壊死性糸球体腎炎が最も高頻度であり、数週間から数ヶ月で急速に腎不全に移行することが多いため、早期診断が極めて重要。検査所見はCRPなどの炎症反応の上昇、血清クレアチニン上昇、MPO-ANCA上昇などがみられる。
- 多発血管炎性肉芽腫症(GPA)
好発年齢は男子30~60歳代、女子は50~60歳代が多い。発熱、体重減少などの全身症状とともに、①上気道の症状:膿性鼻漏、鼻出血、鞍鼻、中耳炎、視力低下など、②肺症状:血痰、呼吸困難など、③急速進行性腎炎、④その他:紫斑、多発関節痛、多発神経炎によるしびれ・感覚異常、運動機能異常などが生じる。一般的には①⇒②⇒③の順序で起こるとされる。検査所見はCRPなど炎症反応上昇、PR3-ANCAの上昇が見られる。画像所見では胸部レントゲンでの肺多発結節、副鼻腔CT・MRIで骨破壊性病変などを認める。
- 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)
2015年1月1日から指定難病とされた。好発年齢は40~69歳。喘息・アレルギー性鼻炎などのアレルギー性疾患が先行し、発熱や体重減少などの全身症状と多発単神経炎により知覚および運動障害、皮膚血管炎による紫斑などが見られる。検査所見は末梢血の好酸球数の増加(数千以上)、CRPなど炎症反応の上昇、MPO-ANCAの上昇が見られる。EGPAにおいてはMPO-ANCAの陽性頻度は40~50%程度と言われる。組織所見(著明な好酸球浸潤を伴う細小血管の肉芽腫または壊死性血管炎)が決め手となることが多い。
治療
基本的にはプレドニゾロン(以下PSL)と免疫抑制薬の併用を用いて治療を行う。2017年に我が国の難治性血管炎に関する調査研究より血管炎症候群の診療ガイドライン2017が公表されており、概要を以下に示す。
- ANCA関連血管炎の寛解導入療法ではGC + CYを提案する。CYは経口より静注が推奨。
- ANCA関連血管炎の治療に関して十分な知識・経験をもつ医師のもとでRTXの使用が適切と判断される症例においてはGC + CY の代替としてGC + RTXを用いてもよい。
- CY・RTXいずれも使用できない場合ではMMFの併用を提案。重症臓器病変がなく腎機能障害も軽微なANCA関連血管炎の寛解導入ではMTxの併用を提案する。
- 重症な腎障害を伴うANCA関連血管炎の寛解導入療法には血漿交換併用を提案する。
- 寛解維持療法ではGCに加えAZPの併用を提案する。
GC:グルココルチコイド CY:シクロフォスファミド RTX:リツキシマブ
MMF:ミコフェノール酸モフェチル MTx:メソトレキサート AZP:アザチオプリン
ただしこれらはいずれも推奨の強さは弱く、エビデンスの確実性も低いとされている。当科では既知の他のガイドラインも参照のうえ、患者の病態・重症度に応じ総合的な考察の上で治療方針の決定を行っている。
参考文献
リウマチ・膠原病内科診療マニュアル 2013年 髙崎芳成 安倍千之 田村直人 編
ANCA関連血管炎の診療ガイドライン 2014年改訂版 厚生労働省 難治性疾患克服研究事業
血管炎症候群の診療ガイドライン 2017年改訂版 厚生労働省 難治性血管炎に関する調査研究班
更新日:2020年8月27日