講演:「大腸がん 診断と治療の最前線 2025」

質疑応答

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大腸がん検診は何年おきにした方が良いのか、年齢により異なるのか教えてほしい。
便潜血検査は毎年やる方が良いと思います。毎年やることで、死亡リスクを30~40%低下させることができると言われています。
大腸カメラに関しては、3~5年毎で良いと思います。
憩室はなぜ出来るのか、憩室があるとがんになりやすいのか教えてほしい。
憩室は、加齢や便秘、肥満などの腸管内圧の上昇が関係します。遺伝的素因もあります。
治療の最前線は誰でも興味があるところですが、年齢制限があるようで、期待していくと年齢的に使えないということがしばしばあると聞きました。〇〇薬は何歳までとか決まっているようでしたら教えてほしい。
治験に関しては年齢制限があるものもあります。ただし、治験は必ずしも良い結果が得られるわけではないことに注意が必要です。
一方、エビデンスが確立された標準的治療については、患者さんの全身状態が良く、主要な臓器機能が保たれていれば、年齢に関係なく受けられると思います。
約6年前に初めて大腸検査をしてポリープ状のがんを発見し切除した。その時にわかった大腸内に複数のポリープがある体質との事。その後、毎年検査をしているポリープを毎回2、3個切除中にはがんになるものがあった。この先も生涯取り続ける事になるのか教えてほしい。
家族性大腸ポリープ症などは、100個以上のポリープが大腸にできると言われており、この病気の方は大腸を全部切除する、大腸全摘術を受ける必要があります。ここまででは無いにしても、遺伝的にポリープができやすい病気もあります。大腸全摘を避けるためにも、定期的に大腸内視鏡にて切除するべきだと考えます。
抗がん剤治療をしているにも関わらず転移してしまうのは何故か教えてほしい。(新しい抗がん剤を試す度に入退院を繰り返し、投与できる薬剤がなくなり緩和ケアになることへの不安が大きい。)
患者さんによりがん細胞の性格が違うため一概には言えませんが、抗がん剤治療で多くのがん細胞は叩くことができるのですが、一部は時間経過とともに抗がん剤に対する耐性を獲得するようにがん細胞自身が変化してしまうのが原因と考えられています。残念ながら、病状が進行してしまうのはやむをえないことでもありますが、この性格の変化したがん細胞に対して適宜治療を考えていくこともできます。また、その一方で、がんを叩くことで患者さん御自身に強いダメージ、副作用が残ることも避ける必要があります。さまざまな不安はあると思いますが、担当の先生に適宜相談して頂ければと思いますので、あきらめずに挑戦して欲しいと思います。
便秘とフレイルとの関連について教えてほしい。
慢性便秘のヒトは、便秘の無い人に比べて2.5倍フレイルになりやすいと言われています。
この理由は、便秘により、食欲低下、活動性低下、社会的孤立などが生じて、さまざまなストレス(病気、転倒)に弱くなるからと言われています。
大腸がんと腸内細菌との関係を教えてほしい。
腸内細菌は、発がん・慢性炎症・免疫系の変化にかかわると言われています。
大腸がんの予後不良因子にかかわる腸内細菌もあると言われています。ただし未解明の部分も多く、現在も研究が行われている領域でもあり、今後の研究成果に期待したいところです。

大腸がん手術後、肝臓転移後に手術をしたが、抗がん剤治療をしたほうがよいか教えてほしい。
日本の有名な臨床試験(JCOG0603)では、肝臓転移術後に抗がん剤を投与しても、生存率に影響しなかったという結果が出たため、必ずしも必要ではないという考えがあります。ただ、この臨床試験に参加した患者さんは比較的、おとなしめの肝臓転移の患者さんを対象としていたため、我々は基本的には抗がん剤治療を行っています。ただし、これは担当医や施設、患者さんのがんの状況により違うので、一概には言えません。
大腸がんを早期発見するためにはどうしたら良いか、大腸カメラはどのくらいの頻度で行うのが良いか教えてほしい。
毎年の便潜血検査と、2~3年毎の大腸カメラはやれば、早期発見が可能です。
大腸がんの自覚症状の有無や自覚症状がある場合には、どのような症状なのか教えてほしい。
早期がんでは症状はほぼ無いです。進行して初めて、出血症状や、腹痛や腹満などの腸閉塞症状が出てきます。
大腸がんを早期発見するには、どのような人が大腸内視鏡をどのようなタイミングで施行するのが良いのか教えてほしい
2~3年毎にやるべきだと思います。
大腸がんが肝臓に転移(肝転移)するのに何年かかるか教えてほしい。また、がんの人が怒ったりストレスを感じたりするとがん細胞は増えるのか、笑うと減るのか教えてほしい。
なかなか難しい質問ですが、早期がんが進行がんになるまで2~3年かかると言われています。人間のストレスによって、たとえばステロイドなどの体内のホルモン値が変化します。このホルモン値により、がんの免疫にかかわる免疫細胞も変化するので、ストレスによりがんにとって何らかの悪影響がある可能性は考えられます。
がん細胞が壊死する時はどんな時なのか教えてほしい。
壊死と細胞や組織が死んでしまう現象のことを指します。腫瘍細胞の壊死は、抗がん剤や放射線などによる腫瘍細胞へのダメージや、腫瘍細胞に供給される血流を少なくすることなどで見られます。
大腸がんから他の臓器に転移しても原発が大腸がんだからといって患者のカルテやデータに『大腸がん』と書かれるのは何故か教えてほしい。
大腸がんが肝臓や肺に転移したとしても、転移した細胞は大腸がんの細胞です。治療するにあたっても、あくまでも大腸がんの治療戦略に従います。例えば、肝臓がんや肺がんの抗がん剤は、大腸がんには効果が無いですし、肝臓がんや肺がんでは手術の仕方も全く違う方法になります。なので、大腸がんがどこに転移したとしても、患っている病気は大腸がんであり、大腸がんの肝臓転移や肺転移と表現します。
大阪で直腸がんの治療を受けていますが、治療の地域差はないのか教えてほしい。
施設によって出来る治療、出来ない治療はあるかもしれませんが、都道府県の推薦をもとに厚生労働大臣が指定したがん診療連携拠点病院は、全国どこに住んでいても質の高いがん医療が受けられる病院であり、大腸がんのように比較的よくみられるがん種では、その治療成績には大きな地域差は無いと考えます。ただし、患者さんの年齢や合併症の有無は都市と地方では一様ではないこともあるので、多少の違いが生じる可能性はあります。
食道裂孔ヘルニアと大腸ポリープ(除去術を3度受けている)の関連性はあるのか教えてほしい。
食道裂肛へルニアと大腸ポリープは、関連無いと考えます。
術後の補助療法についてどういう場合に実施するのか教えてほしい(体力面、ステージ具合など)。
一番はステージによると考えます。ステージ2の一部やステージ3であれば、将来的な再発リスクを下げるために術後補助化学療法を考慮することになると思います。そのうえで、体力や年齢、通院状況などを総合的に考えることになるかと思います。
最近の腸内細菌の知見を、もう少し詳しく教えてほしい。
腸内細菌叢は免疫調節や炎症制御に関与し、大腸がんの発生と進展に重要な役割を果たすといわれます。具体的な腸内細菌としては、Fusobacterium nucleatumなどがあり、これは炎症や遺伝子変異を引き起こし、腫瘍形成を促進することが報告されています。
日本人の大腸がん症例で、腸内細菌由来のコリバクチン毒素によるものがあるとお話でありましたが、これはヨーグルトか何かを食べ続けて対策することで毒素を減らすことができるのか教えてほしい。
コリバクチン毒素は、pks陽性大腸菌という大腸菌株から産生され、このpks陽性大腸菌を抑制することが重要のようです。ご指摘の通り、食物繊維の多い食事は善玉菌(例:ビフィズス菌、酪酸産生菌)を増やし、ヨーグルト・味噌・納豆などの発酵食品は腸内のpHやバランスを整え、有害菌の増殖を防ぐことで、pks陽性菌の増殖や定着を抑制するようです。
素人質問で恐縮ですが、便潜血反応検査は便の表面を棒で擦りますが、腸は長いので上行結腸辺りの出血が検出しにくくなることはないのか教えてほしい。(便に刺して採取しないため、陽性になる時は主に直腸周辺の出血だけにならないのかと疑問に思っています)
ご指摘の通り、便潜血検査は肛門に近い大腸の出血には高感度ですが、上行結腸などの右側結腸ではやや感度が下がる傾向があります。このため、2日法や丁寧な採取が必要です。
具体的には、便の異なる部位を擦ること(全体をまんべんなくこする)が推奨されています。そもそも、便潜血検査は早期がんの状態で見つけるには不向きであり、あくまで大腸カメラを多くの方にしてもらうための、きっかけづくりと考えています。