遺伝性腫瘍にはさまざまなものがあります。中には、遺伝子変異を有することによりほぼ100%がんを発症するタイプ(例:家族性大腸ポリポーシス)もありますが、ほとんどの遺伝性腫瘍は必ずがんを発症するわけではありません。ここでは頻度が高い疾患として遺伝性乳がん卵巣がん症候群(hereditary breast and ovarian cancer: HBOCと言われています)とリンチ症候群(Lynch syndrome)についてお話しします。
HBOCでは、BRCA1あるいはBRCA2が原因遺伝子です。BRCA1遺伝子に変異がある場合には、乳がん、卵巣がんに罹患するリスクはそれぞれ、60-70%、約40%、BRCA2遺伝子に変異がある場合には、約50%、約15%とされています。
また、リンチ症候群の場合には、どの原因遺伝子に変異があるかによって違いがありますが、大腸がんの70歳での累積罹患リスクは、54-74%(男性)、30-52%(女性)、また、子宮内膜がんや胃がんの70歳での累積罹患リスクは、それぞれ28-60%、5.8-13%とされています。
これらの疾患では、発症リスクが100%ではないので、例えば、リスク低減手術を受けるかどうか悩むこともあると思います。あくまでも確率の問題なので、現時点でBRCA1/2に変異を持っていてもどのような人が乳がんを発症してどのような人が発症しないのか、もう少し個別化医療が進んでさらにがんの発症のしやすさをより正確に予想されるようになることが期待されます。