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順天堂医院

子宮頸がんに対するiPS細胞由来抗原特異的キラーT細胞療法の医師主導治験 〜世界で第1例目の投与終了〜

ポイント

  • 使用するCTL(rejT-H01)は、ヒト・パピローマウイルス(HPV)感染細胞を標的とし、iPS細胞技術および遺伝子編集技術を用いて、健常人由来細胞から作製。
  • HLA*1-A*2402を持ったHPV16型陽性の子宮頸がん患者さんの中で、標準治療終了後に再発された方が対象。
  • 2025年11月、順天堂大学医学部附属順天堂医院(以下、順天堂医院)にて第1例目の患者さんに、世界で初めてrejT-H01の投与終了。

概要

順天堂大学大学院医学研究科 血液内科学 安藤美樹教授、細胞療法・輸血学 安藤純教授、産婦人科学 寺尾泰久教授、東京科学大学 中内啓光教授らの研究グループは、iPS細胞技術および遺伝子編集技術を用いて作製された健常人由来細胞を用いる他家CTL療法の研究開発を進め、2025年1月から順天堂医院で子宮頸がんに対するiPS細胞由来HPV抗原特異的CTL療法の医師主導第I相治験*2を開始しています。 このたび、HPV16型陽性の子宮頸がん患者さんに本剤(rejT-H01)で治療を行った1例目の投与が安全に終了しました。投与後も経過は順調であり、さらに1年間、安全性に関して経過観察する予定です。今後計11名に投与する予定です。

治験の背景

対象疾患について

子宮頸がんは、主にHPV感染が原因で発生するがんであり、女性の主要ながんの一つです。子宮頸がんワクチンは感染予防には有効ですが、できてしまったがんには有効ではありません。現在の標準治療法には、外科手術、放射線療法、化学療法およびこれらの組み合わせがあります。しかし、進行がんや再発がんの場合、これらの治療法が有効でないことが多く、予後不良であることが大きな問題であり、有効性の高い治療方法の開発が切望されています。

iPS細胞由来抗原特異的キラーT細胞(CTL)について

抗原特異的CTLは、我々の体内にある抗原を攻撃するキラーT細胞ですが、体内ではごく少数であり、さらにがん患者さんの体内で常に抗原に暴露されるため、疲弊して治療に使用する十分量の細胞数を得ることができません。そこで研究チームは、iPS細胞技術と遺伝子編集技術の両方の技術を用いることで、CTLを増幅・強化し、より多くの人に、すぐに使えるCTLを作製し、HPV16陽性子宮頸がんの治療を目指します(図1)。この治療法は、既存の治療法にはない新しい治療を提供する可能性があります。
topic_junten_251218図1 本治験の抗原特異的キラーT細胞療法の概念図

医師主導治験概要

本治験は、HPV16型陽性子宮頸がんの再発後に既存の治療による効果が見込めない患者さんを対象とし、本剤(rejT-H01)の安全性を非盲検非対照試験で検討します。スケジュールは、コホート0は単回投与とし、Day21までの安全性を確認します。その後、コホート1-3の反復投与に移行します。反復投与ではrejT-H01を3週間に1回の間隔で投与します。

今後期待される展開

本治験で安全性を証明し、今後の第Ⅱ相, Ⅲ相試験で有効性が証明できれば、これまで有効な手立てのなかった再発・難治性子宮頸がん患者さんに対して、新たな治療法となる可能性があります。

用語解説

*1 HLA (Human Leukocyte Antigen)
ヒト白血球抗原と言われる白血球型で、免疫系で「自己」を「他者」と区別する役割を果たします。異なる個体で HLAが異なるため造血幹細胞移植や免疫細胞療法の際の免疫反応に重要な役割を果たします。
*2 医師主導治験
医師主導治験とは、病院の医師が中心となり、患者さんにとって本当に必要な新しい治療法を確認するために行う治験です。特に新しい細胞治療や希少な病気など、まだ企業が開発していない治療を患者さんに届けるための重要な取り組みです。一方、企業治験は、製薬会社などが新しい薬や治療を将来多くの患者さんに届けることを目的とした大規模な試験です。どちらの治験も、国のルールと倫理審査を受け、患者さんの安全を最優先にして行われます。
本研究は、以下の支援を受けて実施しました。
日本医療研究開発機構(AMED)再生医療実現拠点ネットワークプログラム「子宮頸がんに対するiPS細胞由来ユニバーサルCTL療法の開発」、AMED再生医療実用化研究事業「子宮頸がんに対する持続可能なiPSC由来CTL療法の臨床研究」、AMED再生医療等実用化研究事業「子宮頸がんに対するiPSC由来次世代T細胞療法の医師主導治験」

本研究に協力頂きました患者さんのご厚意に深謝いたします。
参加を希望された患者さんで、治験に参加が叶わなかった方も含めて、今後難治性腫瘍に苦しむ患者さんの有効な治療になるよう、チームとして、できる限りの努力を続けます。

参考

2025年1月6日プレスリリース
「順天堂大学発「子宮頸がんに対するiPS細胞由来CTL療法の医師主導治験」開始のお知らせ」
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