背景
対象疾患について
EBウイルス関連リンパ腫は、EBウイルスに感染したリンパ球が活性化し増殖する疾患の総称で、アジアに多く、概して予後不良です。中でも節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型(ENKL)は、通常のリンパ腫の抗がん剤治療に耐性で、進行すると急速に全身に浸潤して死に至る、極めて予後不良のリンパ腫です。また、EBウイルス陽性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)は、高齢発症であり、通常のDLBCLに比較して有意に予後不良で難治性です。その他にもEBウイルス陽性ホジキンリンパ腫、移植後リンパ増殖性疾患、メソトレキセート関連リンパ増殖性疾患など、EBウイルス感染が原因で発症するリンパ増殖性疾患が複数存在します。
また、慢性活動性EBウイルス病は若年発症でEBウイルスに感染したT/NK細胞が腫瘍性に増殖する難治性の希少疾患であり、造血幹細胞移植のみが唯一完治を望める治療です。劇症な経過を辿ることも多く、有効な新規治療法の開発が待たれています。標準治療に不応性もしくは再発例では、現時点で有効な救援療法がなく治療に難渋するため、新規治療法開発が切望されています。
順天堂大学医学部附属順天堂医院血液内科では、進行期ENKLに対するL-アスパラギネースを含む化学療法の考案など、開局以来これらの難治性EBウイルス関連リンパ腫に対する新規治療開発を継続して進めてきました。今回、研究チームは2015年より開発を進めてきたiPS細胞由来EBウイルス特異的キラーT細胞療法の医師主導治験を開始します。
iPS細胞由来EBウイルス特異的キラーT細胞について
抗原特異的キラーT細胞は、我々の体内にある抗原を標的として攻撃しますが、がん患者の体内では、抗原特異的キラーT細胞が疲弊することにより、治療に使用する十分量の細胞数を得ることができず、また、T細胞機能の低下により期待した効果を得られないことも少なくありません。そこで研究チームは、iPS細胞技術を用い、機能的に若返らせることでT細胞の疲弊を軽減し、細胞傷害性が増し、潤沢な細胞数のEBウイルス特異的キラーT細胞を確保することを目指しました。さらに、健常人由来T細胞を用いても患者由来免疫細胞からの攻撃を抑制できるよう、HLAクラスI遺伝子のゲノム編集をしています。この画期的なキラーT細胞を用いて、EBウイルス関連リンパ腫と慢性活動性EBウイルス病の治療を目指します(図1)。この治療法は、既存の治療法にはない新しい治療を提供する可能性があります。