研究
救急科

敗血症の予後を改善する抗菌療法の新たなエビデンス創出【米国ハーバード大学の国際共同研究】

順天堂大学大学院医学研究科救急災害医学の近藤豊 教授、および米国ハーバード大学(①Harvard Pilgrim Health Care Institute, ②Brigham and Women’s Hospital, ③Massachusetts General Hospital)らの国際共同研究グループは、敗血症に対する広域βラクタム系抗菌薬/バンコマイシン併用療法の研究をおこないました。敗血症に対する従来の抗菌療法は、その種類や投与量に関して多くの研究がされてきましたが、投与の順番に関する研究はほとんどありませんでした。研究グループは大規模データを用いて敗血症患者に広域βラクタム系抗菌薬/バンコマイシン併用療法がなされた患者を解析し、併用療法をおこなう場合にはまず広域βラクタム系抗菌薬を投与すると予後が改善することを発見しました。本成果は、従来の抗菌療法の投与順序を変更するだけで予後が改善出来るという、敗血症の新規治療法の可能性を示すものです。本論文は米国感染症学会の機関誌であるClinical Infectious Diseases誌のオンライン版に2024年12月5日付で公開されました。

Association Between the Sequence of β-lactam and Vancomycin Administration and Mortality in Patients with Suspected Sepsis | Clinical Infectious Diseases | Oxford Academic

本研究では、2015-2022年に広域βラクタム系抗菌薬/バンコマイシンの併用療法が行われた敗血症患者25,391名のなかで、広域βラクタム系抗菌薬を最初に投与した群(初期BSBL群)とバンコマイシンを最初に投与した群(初期VCM群)を比較しました。初期BSBL群は21,449/25,391(84.4%)と多くを占め、初期VCM群は3,942/25,391(15.6%)でした。傾向スコアによる逆確立重み付け法(Inverse probability weighting、以下IPW)を用いて死亡率を検討したところ、初期BSBL群が有意に死亡率を下げることが明らかになりました(調整オッズ比0.89, 95%信頼区間: 0.80-0.99)。また、傾向スコアマッチング法を用いた解析でも点推定値は同様の方向を示していました。またMRSA感染は主にバンコマイシンで治療しますが、MRSAが原因である敗血症患者群だけに絞ったサブグループ解析において、最初に広域βラクタム系抗菌薬を投与した場合でも死亡率の増加は認めませんでした。

以上の結果から、敗血症を疑い広域βラクタム系抗菌薬とバンコマイシンによる併用療法を考慮する場合には、まず広域βラクタム系抗菌薬を投与すべきと考えられます(図1)。

敗血症患者の予後を改善する抗菌療法を明らかにしました。
今後、本学救急医学講座は敗血症研究を益々加速させます。
kyukyu_20250106図1

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