留学

海外留学報告

末原 義之 (平成12年卒)

留学報告(Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
私はMemorial Sloan-Kettering Cancer Center(MSKCC)に2010年から2013年まで留学していました。MSKCCは、アメリカのニューヨーク州のニューヨーク市のマンハッタンのアッパーイーストというところにあります。がん治療・研究に関しては、毎年全米No1 or 2にランキングされる病院・研究施設です。その中のDepartment of PathologyでDr. Ladanyiの研究室に博士研究員として(独立行政法人日本学術振興会海外特別研究員の身分による派遣)勤務しました。研究の内容は各種癌及び肉腫を中心とした様々な癌について、遺伝子タンパク質発現解析やその発見に基づいた新規分子標的治療の研究をしました。
 
その成果としてさまざまな発見をしましたが、特に肺癌の新規治療ターゲットの同定と新規薬剤の第2相臨床試験に成功したことはがんを患い新しい治療を待ち望んでいる患者さん達にとってとても有意義な仕事になったと自負しております。その他肉腫における遺伝子タンパク質よりの多面的アプローチによりいくつかの肉腫の悪性度などにかんする機能を解明することにも成功しました。詳細の内容につきましては、論文を参照いただければと思い割愛させて頂きます。
最後に私の留学を快く許可して頂きました金子和夫主任教授、黒澤尚前主任教授、教室の先生方、同門会の先生方に御礼申し上げます。

業績

  • Suehara Y, Arcila M, Wang L, Hasanovic A, Ang D, Ito T, Kimura Y, Drilon A, Guha U, Rusch V, Kris MG, Zakowski MF, Rizvi N, Khanin R, Ladanyi M; Identification of KIF5B-RET and GOPC-ROS1 fusions in lung adenocarcinomas through a comprehensive mRNA-based screen for tyrosine kinase fusions. (Clin Cancer Res. 2012 )
  • Suehara Y, Kohsaka S, Kubota D, Mukaihara K, Akaike K, Mineki R, Fujimura T , Kaneko K, Ladanyi M, Saito T, Kondo T. Proteomic technologies to develop biomarkers and functional analyses for bone and soft tissue tumors(Journal of Proteomics & Bioinformatics 2013)
  • Drilon A, Wang L, Hasanovic A, Suehara Y, Lipson D, Stephens P, Ross J, Miller V, Ginsberg M, Zakowski MF, Kris MG, Ladanyi M, Rizvi N: Response to Cabozantinib in Patients with RET Fusion-Positive Lung Adenocarcinomas (Cancer Discovery. 2013)
  • Kastenhuber ER, Huse JT, Berman SH, Pedraza A, Zhang J, Suehara Y, Viale A, Cavatore M, Heguy A, Szerlip N, Ladanyi M, Brennan CW: Quantitative assessment of intragenic receptor tyrosine kinase deletions in primary glioblastomas: their prevalence and molecular correlates.(Acta Neuropathologica 2014)
  • 第51回日本癌治療学会学術集会 最優秀演題賞 2013年10月
    「肺腺癌新規チロシンキナーゼ融合遺伝子の探索とRET融合遺伝子のXL184第II相臨床試験」
  • 日本癌治療学会より2014 American Society of Clinical Oncologyへの派遣依頼
(2014年1月現在)

市原 理司 (平成14年卒)

日仏交換留学報告
平成14年順天堂大学卒業の市原理司です。
2013年10月から日仏交換留学制度を利用してフランス北東部の都市 Strasbourgで、Hand Surgery、Microsurgeryの研修を行っています。
現在整形外科医11年目で本格的に手外科を専門に決めたのは、順天堂浦安病院に赴任した医師8年目の頃と記憶しています。

1. Strasbourgという町について

ドイツとの国境に位置し、過去12回にわたりドイツとフランスの間で領土をめぐる争いがありました。そのためEU圏の平和の象徴として欧州議会(European council)がStrasbourgにおかれています。気候は北海道と同じくくらいの緯度に位置するので、冬は厳しい寒さですが、春夏はとても過ごしやすい気候になります。
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2. 研修について

研修拠点は大きく分けて2か所で、主にHand Surgeryの研修はIllkirch(イルキッシュ)というSrasbourgの中心からTramで30分くらいの町にあるTraumatology centerで行われています。ここでHand Surgery部門を統括するのがProf. Liverneauxで、彼は世界的に有名なHand Surgeonで、彼の元で研修したいというHand Surgeonが世界各国から多く訪れています(私もその一人です)。

Traumatology centerでの一日の流れですが、朝8時から全員でカンファレンスを毎日行います。内容は前日の当直帯で来たすべての救急患者をレジデントがプレゼンし、前日のすべての手術の内容をスタッフがプレゼンします。カンファレンスが終わると手術、外来、救急外来の3班に分かれて仕事を開始します。
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2-1. 手術について
私の研修の大半は手術室でのアシスタントです。主にProfの手術にアシスタントとして入るのですが、ここでは日本のような器械出し看護師はおらず、私を含むレジデントが手術のためのすべての準備と術者の助手を行います。手術は術者(教授かスタッフ)と助手(レジデント)の2人で行います。9時から昼の2時半までで多い時で10件の手術をこなすため、手術室にいる間は目が回るような忙しさです。ただ、準備する器械が手術によってすべて決まっているので、器械を探し回ることはほとんどなくすべてがシステム化されています。手術の内容は手根管症候群、Dupuytren拘縮、ガングリオン、デ・ケルバンなど5-10分くらいで終わるものが最初の4-5件を占め、その後で難易度の高い手術に移っていきます。特徴的な手術を紹介しますと、手根管症候群は13mmの皮切で5分以内に終わります。

肘部管症候群は3cmの皮切で15分以内に前方移行まで終わらせます。Dupuytren拘縮は開放せずに18Gの針を用いて皮膚の上から緊張の強い腱膜を切離していきます。これは3分くらいで終わります。難易度の高い手術としては四肢麻痺患者のSpastic and Retracting Handに対してTenotomy、Neurotomyを数多く行っています。この手術は介護者の方たちの負担を減らすのにとても役に立っているそうです。日本ではあまりやられていない人工手関節全置換術も月に1件くらいのペースで行っています。母指CM関節症は日本ではSuspensionplastyなどが盛んにやられていますが、こちらではTrapezectomyだけで十分という考えのようで早いと15分くらいで終了します。術後の患部の腫脹も、ほぼなく患者満足度も高いのでこの方法で十分だという気がします。

外傷も盛んにスタッフ達が行っており、橈骨遠位端骨折は13mmの皮切でトライし、難易度の高い症例は20mmを限度にminimum invasive surgeryを心がけています。手指の骨折では日本ではplate、screw固定が主流ですがK-wireを駆使した創外固定が盛んに行われています。
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2-2. 外来について
主にProfの外来に陪席して患者さんを一緒に診察しながら進めていきます。Profは患者さんとの会話はフランス語ですが、私には英語で指導してくれます。時には日本語も出てきます。午前、午後の2部に分けて行い、だいたい20人くらいずつ時間をかけて診ていきます。後でデータがまとめられるようにDASH、VAS、握力、ピンチなどは全患者で行います(これを計測するのもレジデントの大事な仕事です:ここはフランス語を駆使しながら行っています)。日本のように紹介状なしでくる患者はおらず、必ず近医で紹介状を貰って、予め電話で予約をとってきます。ほとんどが近医で手術が必要と言われてくる患者なので、来たら手術の説明をして予定を立てて帰っていきます。外来の多くを占めるのが手根管症候群の患者で多い時は一日10件近く手術の説明をしています。変形性手指関節症の患者も多く、DIP固定、人工手関節、PRC、4-corner fusionなどが説明されていました。後述しますが、腕神経叢麻痺の患者が意外に多く、2か月に一度はDa Vinci手術をしています。
2-3. 救急外来
救急外来はアルザス地方の全土から2時間近くかけてTraumatology centerに救急車が患者を運んでくるので常に忙しく、常時レジデント2人で患者の治療に当たっています。
手術が必要な症例が来ると、その日の救急担当のスタッフと相談してすぐに手術を組みます。当日緊急もあれば、1-2日後に組むこともあります。切断指、挫滅、デグロービングなども多く、これらの症例の多くは当日に行っています。
2-4. robotic surgeryについて
Strasbourg大学はDa Vinci手術のヨーロッパの研修拠点で常にircadという研修センターで世界各国、様々な分野の外科医が研修に訪れています。2013年はProf. Liverneauxが会長を務めるRAMSESというロボット手術の学会をStrasbourgで行い、日本からも10人近くの手外科医が来られました。Hand Surgery部門でも腕神経叢の患者はすべてStrasbourg大学病院でロボット手術をしています。内容としてはOberlin法、肋間神経にこの手術に入らせてもらえます。
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2-5. 学術面について
日本からのフェローはフランス語でのコミュニケーションの問題から救急外来、当直などの仕事が免除されています。その代りに学術的な仕事が多く与えられます。私に与えられている仕事の内容を以下に列挙します。
 
  1. 週に1度、7分でその週に行われる症例のCase presentationをPPFで行います。これは他のレジデントも行います。毎週火・水曜に17時から19時までStaffmeetngがありそこで行います。
  2. 2週に1本のペースで雑誌のreviewが回ってきます。これはProfがヨーロッパの有名な手外科、マイクロ関連の雑誌のほぼすべてのEditorとなっているためたくさん依頼されるようです。
  3. 論文執筆に関しては多くの論文を書くチャンスを貰えます。自分でProfと共同研究という形で持ち込んだDa Vinciを使った研究、様々な手外科手術の日仏間比較の論文、Da Vinciを使った手術のCase report、Hand Surgeryに関する論文などを同時進行で執筆しています。こちらでは手術が終了しランチの後15時くらいから帰宅までが執筆活動に充てられます。
  4. さらにレジデント達が6か月の研修期間に一人につき2本ずつ論文を仕上げていくため、その手伝いなども行います。

非常に多忙ですが学術活動に日本ではあまり時間が割けなかったため、とても充実しています。

3. 休日について

土日は学会がなければ完全にオフなので家族との時間が過ごせます。ドイツまで歩いて行って食事をしたり、レンタカーでアルザス地方を巡って美味しいワインを飲んだり、街を散策したりと日本では味わえない経験がたくさんできます。
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4. 学会参加について

ヨーロッパではHand Surgeryに関する学会が数多く開催されます。すべてレジデントとして参加できるので非常に安く参加できます。リベルノ教授が主催する学会はゲストとして無料で参加出来ます。特に毎年2回ストラスブールで行われるヨーロッパ手関節鏡学会は前腕のCADAVARを用いたトレーニングなのでとても勉強になります。
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5. 最後に

近年、欧米各国での臨床研修が、その国での医師免許がないとほぼ不可能になってきています。ある米国の有名なClinicでは手術見学のために多額の見学料を支払わせるという事態も発生しているそうです。一方で、フランスにおいては短期の(3か月以内)研修においては何の問題もなく臨床研修が行えています。ただ私のような長期臨床研修(半年以上)のための長期滞在ビザ取得は困難を極めます。この問題を解決するべく、現在、Strasbourg大学と順天堂大学との間での大学間協定を結ぶ準備をしております。大学間協定が締結されればフランス国家から正式に臨床研修の許可が下りるため、長期滞在ビザが容易に取得可能となり、住居の賃貸契約などの諸問題もすべて解消されます。
また、今年から金子教授、本間先生と協力しながら医学部6年生の短期研修施設としても門戸を開放しております。今後も私の後に続く若い先生方がフランス国内での長期臨床研修を希望される際に、よりよい研修が行えるように努力を続けていきます。若手の先生でフランスでの臨床研修を希望される先生は是非御連絡いただければと思います。短期での見学でも随時受け付けております。

本間 康弘 (平成17年卒)

フランスで見えた景色