Chronic Kidney Disease; CKD
慢性腎臓病(CKD)は末期腎不全や心血管疾患のリスク因子で、国民の健康を脅かしています。患者数は年々増加しており、日本では成人人口の約13%、1,330万人がCKD患者と言われています。CKD発症の背景因子としては様々な原因があり、慢性腎炎症候群(免疫の異常などが原因で起こる慢性的な腎臓の炎症)のほか、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病が挙げられます。無症状のうちに腎機能が低下することが多く、透析移行や心血管疾患の予防のためにも、早期診断、早期治療介入が重要です。
慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease; CKD)の定義
① 尿や血液の検査、X線や超音波による画像診断、腎臓の組織を顕微鏡で調べる検査(病理診断)で腎臓の異常が明らかである(特に、尿の検査では、尿蛋白が重要)。
② 腎臓のはたらきをみる検査の糸球体濾過量(glomerular filtration rate; GFR)が60ml/分/1.73㎡未満である。
①、②のいずれか、あるいは両方が3ヵ月以上続く状態を慢性腎臓病(CKD)といいます。
CKDの重症度(ステージ)分類
CKDは、尿所見異常があるのみで腎臓のはたらきが全く低下していない状態から腎代替療法(透析や腎移植)必要な末期腎不全までさまざまです。このためCKDは、腎臓のはたらきをGFRによって、G1、G2、G3a、G3b、G4、G5の6つのステージに分けられ、さらに、慢性腎臓病の原因疾患、尿蛋白もしくは尿アルブミン量の値によって、A1、A2、A3の3つのステージに分けられます。病気の進行度によってステージ分類され、ステージに応じた治療がおこなわれます。(下図参照)
(KDIGO CKD guideline 2012を日本人用に改変) CKD診療ガイド2012 p.3 表2
CKDの原因は様々ですが、GFR値と尿蛋白量で重症度を分類する理由は、原因が異なっても腎臓のはたらきが低下するしくみは共通であることが明らかとなってきたからです。腎代替療法(透析や腎移植)が必要になる末期腎不全(end-stage kidney disease; ESKD)の患者さんが世界中で増加しており、CKDがそのリスクとなります。さらに、CKDは脳梗塞や脳出血といったいわゆる脳卒中や、心筋梗塞などの心血管疾患を引き起こす重大な原因となることもわかってきました。そのため、CKDに対して腎臓の機能低下を抑えるための治療を行うと同時に、心血管疾患発症を予防するため早期治療介入を行うことが重要です。
症状
CKDは腎臓のはたらきがかなり低下しないと症状は目立ちません。進行したCKDではむくみや貧血などの様々な症状が出てきます(下図参照)。 ステージG2までは、血液検査や尿検査で異常が指摘されても、自覚症状がでることはほとんどありません(尿蛋白の量が多いネフローゼ症候群と呼ばれる状態の場合には、むくみが生じます)。
ステージG3(GFR 60ml/分/㎡未満)以降は、血液中の水分やカリウムやカルシウムなどの電解質バランスが狂ってむくみや手足がつるなどの筋肉の症状が出ることがあります。このころから、日中の尿産生が追いつかなくなり、それを補うために夜間にたくさんの尿(夜間尿といいます)が出るようになります。腎臓はエリスロポエチンという造血ホルモンを産生するので、このホルモンが低下して貧血(腎性貧血)が生じ、顔色が悪くなり、疲れやすくなります。
ステージG4以降では、むくみが強くなると同時に血液中に毒素(尿毒素)が溜まり、尿毒症の症状として頭痛や吐き気などが出てきます。電解質や水分のバランスが調整できなくなると、不整脈、肺水腫、心不全などによる呼吸困難など、生命にかかわる状態になります。このような重い症状になった場合には、ただちに血液透析をはじめとした腎代替療法による治療が必要となります。
診断
まずは、正確な腎臓の働きを評価することが重要です。そのためには、イヌリンクリアランスという検査が最も正確に腎臓の機能を評価できるのですが、簡便ではないためすべてのCKD患者さんに行うことは難しいです。そこで、血液中のクレアチニン濃度と年齢と性別から計算式によって、推算糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate;eGFR)をもとめてイヌリンクリアランスの代わりにします。
また、同じGFRでも、尿蛋白(尿アルブミン)の程度により腎予後が異なり、量が多いほど、重症といえます。たとえば、ステージG3aの患者さんは尿蛋白がない(A1)、軽度(A2)、高度(A3)の順で、死亡・ESKD・心血管疾患のリスクが高くなります。
CKDの原因は多岐にわたり、加齢、糖尿病、慢性腎炎症候群、高血圧・動脈硬化、ネフローゼ症候群、多発性嚢胞腎、結石などの泌尿器科の疾患、膠原病などの自己免疫疾患、薬の副作用など、多彩です。しかし、腎臓病の原因は血液や尿検査だけで診断することが難しく、確定診断および重症度評価のため腎生検を行い病理組織診断が行われることがあります。(腎生検は侵襲的検査なので検査の適応については慎重な判断を必要とします。腎生検は、腎臓の組織の一部を採取し、顕微鏡で組織を詳しく評価する検査です。これにより、病気の進み具合や治療法を決めることができます。)また、CT検査や腹部超音波検査も、腎臓の大きさや形態などを評価できるため、診断に役立ちます。
治療
いろいろな治療を組み合わせて行います。CKDはある薬を飲んだりするだけで、治るものではありません。それは、CKDを進行させる共通のしくみが、さまざまな因子から構成されているからです。CKDの進行を抑えるためには、これらの因子のうち改善することが可能なものを組み合わせて良くしていきます。具体的には、①生活習慣の改善(禁煙や肥満の解消など)、②食事指導(食塩・たんぱく質制限など)、③高血圧の治療、④尿蛋白アルブミンを減らす、⑤糖尿病の治療、⑥脂質異常症(血液中のコレステロールや中性脂肪が高い)の治療、⑦貧血の治療、⑧骨やミネラル代謝異常の治療、⑨高尿酸血症の治療、⑩尿毒症毒素に対する治療があげられます。CKDの原因が明らかであれば、その治療を併せて行います。このように、多くの視点から治療を行うことを、集学的治療といいます。ステージG5まで進行した患者さんで、ご自身の腎臓のはたらきでは生活が困難な方に対して、透析や腎移植などの治療(腎代替療法)を行います。
Q&A
Q.腎臓専門医の診察はいつぐらいから受ければ良いですか?
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CKDステージG3以降、遅くてもG4には専門医での診察を受けるべきと思われます。
CKDの初期(ステージG1・G2)の患者さんはかかりつけ医に通院し、入院が必要な検査やかかりつけ医が判断に困るような事態が生じた場合に、腎臓専門医が協力します。ステージG3以降では、治療で達成したい目標が多くなると同時に、判断が難しい事態も多くなるため、徐々に専門医が関わることが多くなってきます。ステージG4以降は、基本的に腎臓専門医のもとで治療を行うことが勧められます。
Q.主治医から「あなたは糖尿病CKD G3bA3です」と言われました。これは何ですか?
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CKD患者さんを正式に記載するCGA分類という方法です。
CはCause(原因)、Gは腎臓のはたらき[(e)GFR]、Aは尿蛋白(尿アルブミン)の程度(Albuminuria)の頭文字になります。つまり、「あなたのCKDの原因は糖尿病で、腎臓のはたらきは、中等度低下していて(eGFRが30~44ml/分/1.73㎡)、尿蛋白(尿アルブミン)が多い状態です」という意味になります。医師はこの書き方をみることで、CKD患者さんの状態を把握することができます。
Q.かかりつけの先生にCKDと言われました。何を食べれば良いですか?
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CKDに良い食べ物があるわけではありません。CKDのステージ毎に適切な食事を選択する必要があります。
CKDの原因やどの程度進行しているか(ステージ)によって望ましい食事の内容が変わります。基本的には、減塩(6g/日未満)が最も重要だと考えられます。ステージG3以降では、不整脈の原因となる高カリウム血症を予防するために、カリウムを多く含む新鮮な生野菜や果物などなどの制限を行います。また、CKDの進行を抑えるためにたんぱく質の制限を行うこともあります。日本の食事は食材が豊富で季節によっても多彩な変化があり、調理法も複雑なため、食事療法は大変難しい治療です。このため医師だけでなく、栄養士・看護師などのメディカルスタッフの力を借りる必要があります。
Q.CKD患者の生活で気を付けることはありますか?
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CKD以外の疾患にかからないようにすること、薬の飲み方に注意することが大切です。
CKDの治療では、生活習慣の様々な目標が設定されていますが、それ以外にも注意することとしてCKD以外の感染症などの病気や大きな怪我をしないようにすることがあげられます。また、CKD患者さんでは避けた方が良い薬、量を減らす必要のある薬が多くあります。日常で一番気を付けなければならないのは、熱さましや痛み止めに使われる非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)です。市販の薬でもCKDを進行させてしまうことがあります。 クリニックや病院でも、初診でかかる際には、必ず 「自分がCKDと診断されている」ことを伝えないと、診察を担当する医師はCKDであることが分からないので、危険のある薬が処方される可能性があります。かかりつけ医や腎臓専門医を受診したときに、自分の血液や尿検査の結果をいただいておき、他の施設を受診する際に提出すると、薬によるリスクをより少なくすることができます。
Q.運動でCKDを改善することはできますか?
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現時点ではわかりません。
運動をする習慣を身につけると血圧や心拍数が下がり、血液検査のコレステロールやアルブミンの値が良くなります。また、肥満のCKD患者さんは、定期的に運動すると血圧が下がり、尿たんぱくが減ることもわかっています。しかしながら、CKD患者さん全体で考えると、運動がCKDに対してよい効果を上げられるかについてははっきりしたことが分かっていないため、今後の研究成果が期待されます。ただし、脱水はCKDを悪化させるので、CKD患者さんが急に激しい運動を行うことは避けるべきです。
Q.CKDと言われましたが、ワクチン接種(インフルエンザ、肺炎球菌)は可能ですか?
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CKD患者は,腎機能低下や免疫抑制療法によって免疫機能が低下しており、感染症にかかりやすく、重篤化しやすいと言われています。また、インフルエンザはCKDを大きく進行させることがありますので、感染症を予防するうえで、CKD患者さんは予防接種を受けることが勧められます。また、高齢のCKD患者さんは肺炎球菌ワクチンの接種も受けた方がよいと考えられます。
Q.ESKDになるとどうなりますか?
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腎代替療法が必要です。血液透析・腹膜透析・腎移植の中から本人に合った治療を選びましょう
ESKDは自分の腎臓のはたらきが不足して、生活に大きな支障をきたす状態です。ESKDに対する治療は、①血液透析、②腹膜透析、③腎移植の3つの治療法があります。それぞれの治療には長所・短所があるため患者さん本人にとって医学的・社会的に最も良い治療法を選ぶことが重要です。そのためには、腎臓専門医からだけでなく、信頼のおける発信元から情報を得る必要があります。
インターネットでは以下のホームページをお勧めします。
①日本腎臓学会「腎不全治療選択とその実際(2012年版)」
日本腎臓学会ホームページからダウンロード可能
②NPO法人腎臓サポート協会 腎臓病なんでもサイト
透析医療の公費助成などの説明が詳しく紹介されています。
③(公社)日本臓器移植ネットワーク
腎移植だけでなく日本の移植医療について総合的に調べられます。教材も豊富です。
順天堂医院では、ESKD患者さんの治療選択をサポートする「療法選択外来」を開設しています。詳しくは、本ホームページの「療法選択外来」の項をご参照ください。