(ANCA-associated vasculitis)

総論

ANCA関連血管炎とは、ANCAという自己抗体が原因で全身の血管(細小動脈・毛細血管)に炎症を来す疾患群です。
ANCAとは自己抗体であり、MPO(myeloperoxidase)-ANCAと、PR3(proteinase-3)-ANCAの2つに大別されます。ANCAの種類によって全身に出現する症状が異なります。

ANCA関連血管炎の定義・概念

全身に血管炎を発症する全身型と、一つの臓器にのみ血管炎を発症する臓器限局型があります。全身型には顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis;MPA)、多発血管炎性肉芽種症(granulomatosis with polyangiitis;GPA)、好酸球性多発血管炎性肉芽種症(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis;EGPA)の3疾患があり、臓器限局型には腎臓にのみ血管炎を発症する腎限局型血管炎(renal-limited vasculitis;RLV)があります。

ANCA関連血管炎の疫学

ANCAの中でもMPO-ANCAとPR3-ANCAの陽性頻度には地域差があり、本邦ではMPO-ANCA陽性例が圧倒的に多く、MPAを多く認めます。また、本邦のGPAの半数がMPO-ANCA陽性であることも明らかになっています。これらの疫学的特徴の原因として、遺伝的背景などの関与が考えられています。

各疾患の特徴

顕微鏡的多発血管炎
(MPA)
多発血管炎性肉芽腫症
(GPA)
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症
(EGPA)
陽性となるANCA MPO-ANCA PR3-ANCA MPO-ANCA
好発年齢 55-74歳 40-60歳 30-60歳
男女比 ほぼ1:1 ほぼ1:1 4:6とやや女性に多い
以前の呼称 Wegener肉芽腫症 Churg-Strauss症候群
アレルギー性肉芽腫性血管炎

ANCA関連血管炎の症状

顕微鏡的多発血管炎
 (MPA)
全身症状:発熱、体重減少、疲労感
腎障害:急速進行性糸球体腎炎(RPGN)
肺障害:肺胞出血、間質性肺炎
末梢神経障害
多発血管炎性肉芽腫症
 (GPA)
全身症状:発熱、疲労感
腎障害:急速進行性糸球体腎炎(RPGN)
上気道症状:鞍鼻、鼻中隔穿孔、副鼻腔炎、耳炎
下気道症状:気管支の炎症、肺結節、肺胞出血
多発関節痛
多発性単神経炎
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症
 (EGPA)
気管支喘息やアレルギー性鼻炎が先行する
全身症状:発熱、体重減少、紫斑
多発性単神経炎
心筋梗塞、心外膜炎
脳梗塞、脳出血
消化管出血

ANCA関連血管炎の治療

ANCA関連血管炎の治療はステロイドを中心とした免疫抑制療法です。治療法は寛解導入期と寛解維持期で異なりますが、長期間の加療が必要となります。
寛解導入療法は副腎皮質ステロイド単剤もしくは、免疫抑制剤(シクロホスファミド)や生物学的製剤(リツキシマブ)を併用します。 いずれの疾患でも、重篤な腎障害を伴う急速進行性糸球体腎炎の症例等では血漿交換を併用することがあります。
寛解導入治療によって、大半のANCA関連血管炎患者は3-6カ月以内に寛解しますが、寛解維持療法なしでは半数以上の患者さんが再燃するため寛解維持療法が必要です。寛解維持治療は副腎皮質ステロイドと免疫抑制剤や生物学的製剤(アザチオプリン、リツキシマブ、リウマトレックス、ミコフェノレートモフェチル)が選択されます。

ANCA関連血管炎の治療の副作用

副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤、生物学的製剤を使用するため、感染症に特に注意が必要です。感染症の危険が高い場合には抗菌薬の予防内服を行いますが、発熱など感染症が疑われる場合には速やかに医療機関へ受診が必要です。

ANCA関連血管炎の予後

適切な治療が行われないと生命予後が不良となります。早期に診断し、適切な寛解導入療法を行えば、8割以上は寛解するといわれています。治療開始の遅れ、あるいは初期治療への反応性不良により、腎機能障害が残存し継続した透析療法が必要になることもあります。また、再燃することがあるので、寛解後も定期的に外来への通院が必要です。
 
顕微鏡的多発血管炎(MPA)、多発血管炎性肉芽種症(GPA)、好酸球性多発血管炎性肉芽種症(EGPA)はいずれも難病に指定されています。各々の病気の診断となった場合には、難病の申請をお願いします。