ネフローゼ症候群とは?
腎臓は、血液を濾過して尿を作っています。その腎臓では濾過されないはずの血液中の蛋白(特にアルブミン)が尿に多量に漏れ出てしまうと、血液中の蛋白濃度が薄くなってしまいます。それが原因で浮腫んでしまう病気で、浮腫以外にも様々な症状が出現するため、それらをまとめてネフローゼ症候群と呼んでいます(どんな症状が出現する?どのように診断される?参照)。ネフローゼ症候群を起こす病気は色々あります(原因は?参照)。
どんな症状が出現する?
「最近足がむくむ(浮腫)ようになった」「尿が泡立つ」などで気づいて(図1)病院を受診し、尿検査で尿蛋白が3+以上で発見されることが多く、むくみは足だけでなく、手や目の周りもむくみ、水がたまることにより体重が急激に増加します。まただるさ、疲れやすさを感じることもあり、進行すると肺やお腹にまで水がたまり、息苦しさや食欲低下・腹痛、男性であれば陰嚢に水がたまる(陰嚢水腫)こともあります。
どのように診断される?(検査所見の特徴は?)
尿蛋白が1日3.5g以上、血液のアルブミン濃度が3.0g/dL以下になった場合にネフローゼ症候群と呼んでいます。またそれに伴い生じた浮腫や高コレステロール血症も診断の補助になります。
ネフローゼ症候群原因は?
ネフローゼ症候群を起こす原因のうち、全身性疾患によってネフローゼ症候群をきたすものを二次性ネフローゼ症候群といい、他に明らかな原因がないものを一次性ネフローゼ症候群といいます。診断を確定するには腎生検が必要です。
一次性ネフローゼ症候群
微小変化型ネフローゼ症候群
腎生検で糸球体の障害を認めないか微小の変化のみの腎症(図2)を微小変化型といいます。微小変化型ネフローゼ症候群の特徴として、若年者に多く、発症が急激ですが、ステロイド治療に反応が良好です。ただし、ステロイド薬を減量すると約半数近くに再発がみられます。
巣状分節性糸球体硬化症
微小変化型と違い、腎生検で糸球体の部分的な硬化病変(図3)を認めることで診断されます。比較的高度な蛋白尿を認め、ステロイド治療に対して抵抗性を示す難治性ネフローゼ症候群の代表疾患とされています。治療効果に乏しい場合が多く、腎機能も進行性に悪化する場合もあります。このタイプのネフローゼ症候群には原発性(一次性)巣状分節性糸球体硬化症の他に、肥満関連腎症、膀胱から尿が逆流することによって起こる逆流性腎症などの続発性(二次性)巣状分節性糸球体硬化症もあります。
膜性腎症
腎臓で尿を作る際にふるいの役割をする糸球体の成分に対して抗体ができてしまい、その抗体が糸球体毛細血管壁の構造を変化させる(図4)ことで、ふるいが壊れて蛋白が尿に漏れてしまう腎症です。膜性腎症の約75%は原発性、残り25%は二次性であり、二次性の原因は感染症、薬剤性、悪性腫瘍、膠原病など多彩です。原発性については、10年で10%、20年で40%が慢性腎不全になるという調査結果があります。とくに蛋白尿が多い症例では腎機能が低下しやすいことがわかっています。
膜性増殖性糸球体腎炎
図5 膜性増殖性糸球体腎炎:糸球体の分葉化を認める
膜性増殖性糸球体腎炎は、尿所見で血尿を伴うネフローゼ症候群を呈し、腎生検では多くの糸球体の毛細血管壁が厚くなるとともに、糸球体構成成分の1つであるメサンギウム細胞の数が増えるために、糸球体が分かれた葉っぱのように見える(糸球体の分葉化)形態異常を示す(図5)比較的稀な腎炎です。原発性は約10%で小児から若年者におこることが多く、補体活性の調節異常が原因であることが知られています。原発性以外の残りの90%は二次性であり、成人におこる膜性増殖性糸球体腎炎の多くは二次性と考えられます。二次性の代表的な原因としては、C型肝炎ウイルス(HCV)、溶連菌、ブドウ球菌(MRSA)などの感染症です。その他リンパ腫や膠原病など様々な病気に合併しておこることも知られています。
二次性ネフローゼ症候群
全身性疾患に伴うネフローゼ症候群を二次性ネフローゼ症候群といい、糖尿病性腎症、ループス腎炎、アミロイド腎症、紫斑病性腎症(IgA血管炎)、その他感染症や悪性腫瘍などが原疾患となることが多いです。
治療にはどのようなものがある?
尿蛋白を減らす治療
まずは副腎皮質ステロイド薬を使用します。内服薬か点滴のどちらかで投与しますが、点滴の場合はステロイドパルス療法といって、高用量のステロイド薬を3日間点滴で行います。ステロイド療法で効果不十分な場合や再発を繰り返す場合には免疫抑制薬(シクロスポリン、ミゾリビン、シクロホスファミド)や生物学的製剤のリツキシマブを併用したり、LDLアフェレーシスという治療を追加することもあります(リツキシマブやLDLアフェレーシスは適応疾患が限られます)。二次性ネフローゼ症候群の場合は原因となる病気に対する治療を行っていきます。
浮腫をとる治療
これ以上むくみが悪化しないように塩分制限と安静が重要です。しかしネフローゼ症候群の時は、血管の中で血が固まりやすくなっているので適度に足のマッサージや軽い歩行を取り入れることも必要です。それでもむくみが悪化し、体重が増えていくようでしたら、尿を増やす薬(利尿薬)を使用することがあります。血液のアルブミン濃度が高度に下がることにより急性腎障害を起こしたり、利尿薬を使っても水が高度に溜まってしまう場合には、一時的に透析を行わざるをえないこともあります。
その他の治療
ネフローゼの程度により血の固まり(血栓)ができやすくなるため、その場合は血をサラサラにさせる抗血小板薬や抗凝固薬を使用します。水が体にたまってくると血圧も上昇することがあるので、血圧を下げてくれて、蛋白尿も減らして腎保護作用が期待できるレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系阻害薬(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬やアンジオテンシン変換酵素阻害薬)を使用することがあります(ただしこのタイプの降圧薬だけでネフローゼ症候群が治ることはありません)。高コレステロール血症に対しては脂質異常症改善薬を使用します。
医療費助成制度
ネフローゼ症候群のうち一次性ネフローゼ症候群は指定難病です。当院は指定難病の医療費の給付を受けることができる指定医療機関です。申請に必要な書類を揃えて都道府県・指定都市に申請してください 。 ご不明な点は担当医におたずねください。