臨床研究結果報告

炎症性腸疾患に対するバイオマーカーとしてのMAIT細胞の有用性の検討
~MAIT細胞は末梢血で活性化され、炎症の強い腸管に集積する~

この度は臨床研究『炎症性腸疾患に対するバイオマーカーとしてのMAIT細胞の有用性の検討』にご協力いただきまして誠にありがとうございました。本研究で得られた結果をご報告させて頂きます。

本研究成果のポイント

  • 潰瘍性大腸炎の患者さんの末梢血MAIT細胞は健康な人と比較して減少している。
  • MAIT細胞は末梢血中で活性化され、炎症性サイトカインを産生し、その活性状態は疾患活動性と相関する。
  • MAIT細胞は炎症の強い腸管粘膜に集積する。

背景

MAIT細胞は腸管に多く存在する自然リンパ球で、腸管免疫に重要であることがわかっています。近年、自己免疫疾患や感染症、癌といった様々な疾患でMAIT細胞が関連していると報告されています。潰瘍性大腸炎はクローン病と共に代表的な炎症性腸疾患として知られ、直腸から連続性に広がる慢性の腸管炎症を主体とした原因不明の疾患で、下痢・血便・腹痛といった症状を呈し、再燃・寛解を繰り返す慢性の経過をたどります。本邦でも1980年代から患者数は増加傾向にあり、16万人を超えており、その発症には遺伝的素因、腸内細菌、免疫異常、環境因子が関わっているとされ、現在各分野において多くの研究が進められています。
 
本研究では炎症性腸疾患におけるMAIT細胞の役割を明らかにすると共に、MAIT細胞のバイオマーカーとしての有用性を検討することを目的としました。

内容

本研究ではMAIT細胞の末梢血中頻度や活性化状態をフローサイトメトリーを用いて測定し、潰瘍性大腸炎の患者さん(UC群)と健康な人(HC群)で比較検討致しました。また、腸管組織におけるMAIT細胞頻度をactive及びnon-active群で比較検討を行いました。本研究ではHC群と比較してUC群の末梢血中MAIT細胞頻度は低下しており、炎症の強い腸管組織に集積していることが分かりました。また、UC群のMAIT細胞は活性化されやすく、炎症性サイトカインを多く産生することを明らかにしました。更に、MAIT細胞の活性化状態が疾患活動性や内視鏡的重症度と相関していることが分かりました。
 
以上からMAIT細胞は潰瘍性大腸炎の病態に関与している可能性が示唆されました。

今後の展望

現在私たちのグループは動物(MAIT細胞のノックアウトマウス)を用いて実際にMAIT細胞が潰瘍性大腸炎においてどのような役割を有しているかを検討しています。炎症性腸疾患におけるMAIT細胞の役割が分かれば、バイオマーカーのみならず新たな治療へ活用できる可能性も秘めており、今後さらなる可能性を秘めていると考えております。
 
また、バイオマーカーとしての有用性を検討するためには今後時系列を追って病態が大きく変わった場合にMAIT細胞の頻度や活性化がどのように変化するかを明らかにする必要があり、更なる解析を検討しています。

図1:UC群の末梢血中MAIT細胞頻度は低下する
図1:UC群の末梢血中MAIT細胞頻度は低下する
フローサイトメトリーを用いてUC群及びHC群の末梢血中MAIT細胞頻度を測定したところ、UC群のMAIT細胞頻度はHC群と比較して著明に低下していました。

図2:MAIT細胞の活性化は疾患活動性と相関する
図2:MAIT細胞の活性化は疾患活動性と相関する
活性化マーカーであるCD69の発現をみることでMAIT細胞の活性化を調べたところ、UC群のMAIT細胞は健常者と比較して活性化していました。
興味深い事に、MAIT細胞の活性化は疾患活動性及び内視鏡的活動性と相関を認めました。

図3:MAIT細胞の炎症の強い腸管に集積する

図3:MAIT細胞の炎症の強い腸管に集積する。
UC群の腸管生検検体を用いて免疫染色を行い、confocal microscopeでMAIT細胞の観察・カウントをしました。中等症以上のUC群における腸管MAIT細胞頻度は軽症・寛解UC群と比較して増加しておりました。また疾患活動性や内視鏡的活動性と相関を認め、末梢血MAIT細胞の減少が病変部への集積による可能性が示唆されました。

用語解説

1. 自然リンパ球:自然免疫と獲得免疫の橋渡しをする細胞。皮膚や腸管、呼吸器など外部環境と接する部位に多く存在し、外来侵入物に対する免疫反応の最前線に位置する。常に部分的に活性化状態にあり、クローナルな増殖を必要とせずに抗原やサイトカイン刺激に対し自然免疫と同じくらいのスピードでエフェクター機能を発揮することが可能であり、またサイトカイン産生などにより生体防御の初期応答をし、獲得免疫の発動にも寄与するとされている。
 
2. Mucosal Associated Invariant T (MAIT)細胞:腸管粘固有層やパイエル板に多く存在する自然リンパ球で、限られたT細胞受容体(TCR)を発現し、MR-1分子に拘束される。増殖にはB細胞や腸内細菌の存在が必要とされている。近年様々な疾患との関連が報告されており、注目の集まっている細胞である。
 
本研究はJournal of Gastroenterology and Hepatology (31:5, 2016)に掲載されました。
 
タイトル:MAIT cells are activated and accumulated in the inflamed mucosa of ulcerative colitis
 
著者:K Haga, A Chiba , T Shibuya , T Osada , D Ishikawa ,T Kodani, O Nomura, S Watanabe, S Miyake
 
研究責任者:澁谷 智義
所属機関・診療科:順天堂大学医学部附属順天堂医院・消化器内科

低侵襲手術の取り組み

EMR(Endoscopic Mucosal Resection: 内視鏡的粘膜切除術)
ESD(Endoscopic Submucosal Dissection: 内視鏡的粘膜下層剥離術)

内視鏡をみながら粘膜下層の深さで、病変部を含めて粘膜層を広く切除する方法です。食道・胃・大腸などの消化管の早期がんやポリープの治療で、以前は開腹手術を要した病気が、今では内視鏡で治療できるようになっています。特に胃がんは日本人にとても多いがんですので、みなさんは年に一回のバリウムや内視鏡検査による胃がん検診をお受けになっていると思います。以前は胃がんとわかるとすぐ手術で胃を切除していました。今では早期の状態の胃がんでは、お腹をあけなくても内視鏡により治療ができるようになってきました。がん細胞の種類が転移しにくいタイプで、粘膜の表面にしか病気がない場合は、胃のまわりのリンパ腺にがん細胞が転移していることはほぼありません。したがって、内視鏡によりがんに冒された粘膜のところだけはぎ取れば、胃を切除することなく胃がんの完全な治療ができるのです。食道や大腸にできたがんも早期であれば同様に内視鏡で取り除くことが可能です。しかし、胃など消化管の壁はとてもうすく、また壁のなかにはたくさんの血管が走っていますので、内視鏡による手術には、胃の壁に穴があく穿孔や出血などの危険があります。がん細胞を取り残さず、かつ安全に切除することはとても熟練を要する技術です。当院では、経験豊かな熟練した医師が専門的にこの手術を担当しています。また高度の診断、治療を可能にする高解像度のハイビジョン電子内視鏡システムと、出血などの手術の合併症を最小限に抑える最新型の電気手術装置を導入しており、より安全かつ確実な内視鏡手術ができるような設備が整っております。切除後は、人工的な潰瘍になりますので、まれに出血や穿孔などを起こす可能性があり、そのために原則として入院して行います。早期胃がん・大腸がんやポリープなどの治療は、根治的に治療できる病変の大きさには自ずと制限はありますが、病変部の拡がりと深さ、組織の顔つきによって、適応を厳密に決定していますので、担当医とよく御相談下さい。
いずれの治療も、きちんと病変組織が取りきれたのかを確認します。取ってきた組織の断端を顕微鏡で観察し、がんやポリープなどの組織が切り口に残っていないことを確認します。主な合併症は出血・穿孔(消化管に穴があく)・腹痛などがあります。
さて、実際の内視鏡による切除方法についてですが、1980年代より内視鏡的粘膜切除術(EMR)が始まり、その手技、機械は著しく進歩してきました。特にITナイフ、フレックスナイフ、フックナイフなどの処置具の登場は内視鏡治療に革命をもたらしました。内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は病変の周囲の粘膜を切開した後,粘膜下層を剥離し病変を切除する方法で病変を一括切除出来る確実な内視鏡治療です。当院では早期胃がん(胃腺腫も含む)の患者に対してESDを施行していま 

ラジオ波治療 (RFA: radiofrequency ablation)

ラジオ波治療は主に肝がんに対して使われています。肝がんには、肝臓から出現した「原発性肝がん」と胃や大腸など他の臓器のがんが肝臓に転移した「転移性肝がん」があります。
ラジオ波治療は450キロヘルツ前後の高周波を使って熱を発生させがんを焼き切る治療法です。ラジオ波焼灼術(しょうしゃくじゅつ)、RFA(アール・エフ・エイ、radiofrequency ablationの略)などとも呼ばれます。
ラジオ波治療では、局所麻酔下に皮膚を2、3ミリ切開し、超音波画像でがんを確認しながら、直径1.5ミリの電極針を挿入し、ラジオ波を流して電極の周囲に熱を発生させ、がん細胞を破壊します。がん全体を残らず焼き切ればがんを治すことができます。
全身麻酔や開腹手術は必要がありません。このため、肝機能が悪い場合や高齢者でも治療が可能です。
肝がんでは、外科手術(肝切除)やラジオ波治療を行なっても、新たながんが高率に発生してきます。しかし、再発が見つかっても、ラジオ波治療は侵襲(身体の負担)が少ないため繰り返し治療を行なうことが可能です。
日本は世界でも際立って多くのラジオ波治療を実施しています。椎名医師が前任地(東京大学)および当院でこれまで実施したラジオ波治療は12,000例を越え、世界でも最多です。椎名医師は2012年12月から順天堂での治療を開始しましたが、2013年からは年間治療数が最も多い施設は順天堂となりました。
当院には、他院ではラジオ波治療が困難とされた症例が日本各地からだけでなく海外からも紹介されてきます。当院は世界最高水準の設備を持っており、人工腹水法や人工胸水法、造影超音波、フュージョンイメージングなどの方法を用いることにより、ほとんどの症例でラジオ波治療が可能となっています。また、当院では全身麻酔なしで痛みのないラジオ波治療を実施しています。
従来、転移性肝がんの治療の第一選択は肝切除とされてきました。肝切除以外では5年以上生存することは困難と言われてきたためです。しかし、椎名医師のグループは大腸がんや胃がんの肝転移などにも積極的にラジオ波治療を実施しており、ラジオ波治療後の10年以上生存を達成しています。
詳細は、「順天堂大学大学院医学研究科画像診断・治療学 肝臓がんラジオ波治療(焼灼術)の解説」のサイトをご覧ください。