概要

肩鎖関節は鎖骨と肩甲骨の間の関節です。この関節の安定性は肩鎖靭帯(肩峰と鎖骨の間)、烏口鎖骨靭帯(烏口突起と鎖骨の間)、三角筋、僧帽筋(鎖骨の外側につく筋肉)により保たれています(図1)。

肩鎖関節脱臼01図1:肩鎖関節の構造
(出典元:肩鎖関節脱臼/骨折治療学会学会/https://www.jsfr.jp/ippan/condition/ip16.html)


柔道・ラグビーなどのコンタクトスポーツやバイク、自転車事故、作業中の転落・転倒などで肩の外側を強く打ち付けることにより、これらの靱帯・筋肉が痛み肩鎖関節がずれます。関節のずれの程度・方向により捻挫、亜脱臼、脱臼に分類されます(図2)。
肩鎖関節脱臼02図2:肩鎖関節脱臼の分類
(引用元:肩鎖関節脱臼/骨折治療学会学会/https://www.jsfr.jp/ippan/condition/ip16.html)

検査

レントゲン検査を用いて転位の大きさを確認します(図3左)、また特殊な撮影方法も使用して後方不安定性の評価も行います(図3右)。III型以上の場合には手術加療の必要性も加味してCT検査も使用して後方転位などの程度の評価を行います(図4)

肩鎖関節脱臼03図3: 左:肩鎖関節脱臼のレントゲン 右:後方不安定性を確認する特殊撮影法(右出典元:Minkus, M., Quantification of dynamic posterior translation in modified bilateral Alexander views and correlation with clinical and radiological parameters in patients with acute acromioclavicular joint instability. Archives of Orthopaedic and Trauma Surgery, 2017. 137(6).)
肩鎖関節脱臼04図4:3DCT

治療

一般的にII型以下に対しては保存治療、III型以上に対しては手術治療が行われますが、III型に対する治療は議論が分かれています。近年は肩鎖関節の後方安定性が着目され、2014年にInternational Society of Arthroscopy, Knee Surgery and Orthopaedic Sports Medicine(ISAKOS)はIII型を肩甲骨の運動異常と特殊なレントゲン撮影での鎖骨の後方不安定性の有無によりIIIA (安定型)とIIIB (不安定型)に分ける声明を出しています(図5)。当院では受傷早期に後方不安定性を評価し、IIIB以上の場合には手術加療を行う方針としています。

肩鎖関節脱臼05図5:ISAKOS Upper Extremity CommitteeによるIII型に対する診断・治療アルゴリズム
(出典元:肩の鏡視下手術の基本手技.全日本病院出版会, p53を一部改変)

当院では受傷後3〜4週間以内の損傷した靱帯の回復が期待できる新鮮な肩鎖関節脱臼に対しては関節鏡を用いて専用のボタンと人工靱帯を用いることで烏口鎖骨間の安定化と肩鎖靭帯の解剖学的走行を考慮した補強術を行っています(図6)。手術後4週間は三角巾固定を行い、三角巾が不要になったタイミングで可動域は制限なしとなり、3か月後からの軽作業への復帰と6ヶ月からのスポーツ・重労働復帰が目安となります。
肩鎖関節脱臼06図6: 左:烏口鎖骨間安定化 右:肩鎖靭帯再建術

4週以降の陳旧例の場合には損傷した靱帯は瘢痕化し修復が期待できないため、上記の固定方法に加えて自身の膝から腱を採取し解剖学的な烏口鎖骨靭帯の再建を追加することで安定性を強める手術を行っています(図7)。手術後6週間は三角巾固定を行い、その後は制限なしでの生活が可能となります。スポーツ復帰は手術6ヶ月後以降が目安です。
肩鎖関節脱臼07図7:烏口鎖骨靭帯の解剖学的再建