治療
基本的には、初回の脱臼であれば、組織の修復を期待し、理学療法や装具などを用いた保存療法となります。しかし、再脱臼率が高いこと、再脱臼しなくても不安感が残存し、パフォーマンスが低下する可能性が高いことから、初回脱臼でも手術療法を検討する場合があります。若年スポーツ競技者の再脱臼率は一般的に約90%といわれ、非常に高い再受傷率となります。脱臼を繰り返す(反復性肩関節脱臼へ移行する)ようになると、肩の不安感が残り、 日常生活やスポーツでの障害が出ることも多く、積極的に手術療法を検討していきます。
初回の脱臼に対する保存療法は、約3週間の固定の後、リハビリテーションを行い、1〜2か月での装具装着またはテーピングでの復帰を目指すことになります。2回目以降の脱臼では、固定による関節内の修復はほぼ期待できず、不安定性は残存すると考え、早期の可動域再獲得や筋力回復に努めます。
手術療法は、大きく分けて鏡視下関節唇修復術と烏口突起移行術があります。手術方法の選択には、患者のスポーツ競技や骨の欠損など、病態に合わせて、個々の症例に応じて総合的に評価し、判断します。3-1.鏡視下関節唇修復術
アンカーと呼ばれる吸収性のビスを関節窩(関節の端)の最適部位に4カ所挿入し、ビスについている糸で関節唇と関節包を縫いつけ正常の構造に近づくよう修復する方法です(通常、全ての手技を関節鏡で施行し、創は1cmのものが3つですが、追加処置を行う場合は増える可能性があります)。術後3〜4週間は、簡易装具とバンドを用いて上肢と体幹を固定します。その後、関節可動域訓練、筋力訓練を開始し、通常約1か月でデスクワークなどの軽作業、3か月で日常生活動作不自由なし、6か月でスポーツや重労働への完全復帰を目指します。