概要

肩関節は骨性の支持が非常に少なく、最も脱臼しやすい関節となっています。安定性を高めるために関節唇(=軟骨様の堤防)、関節包(=袋)といった構造が発達していますが、脱臼をすると、これらの構造が破壊されてしまいます。特に、脱臼時に前方の関節唇が肩甲骨の関節面から剥離したものをバンカート損傷と言います。

反復性肩関節脱臼01
反復性肩関節脱臼02(出典元:解剖+はたらきとリンクする整形外科の疾患と治療.照林社, p47,48)

検査

X線検査の他にCT検査(骨病変の描出)やMRI検査(軟部組織病変の描出)を施行しています。MRI検査では軟部組織の損傷程度をより詳細に把握するため、撮影前に関節内に生理食塩水を注入する場合があります。

反復性肩関節脱臼03(出典元:解剖+はたらきとリンクする整形外科の疾患と治療.照林社, p49)

治療

基本的には、初回の脱臼であれば、組織の修復を期待し、理学療法や装具などを用いた保存療法となります。しかし、再脱臼率が高いこと、再脱臼しなくても不安感が残存し、パフォーマンスが低下する可能性が高いことから、初回脱臼でも手術療法を検討する場合があります。若年スポーツ競技者の再脱臼率は一般的に約90%といわれ、非常に高い再受傷率となります。脱臼を繰り返す(反復性肩関節脱臼へ移行する)ようになると、肩の不安感が残り、 日常生活やスポーツでの障害が出ることも多く、積極的に手術療法を検討していきます。
初回の脱臼に対する保存療法は、約3週間の固定の後、リハビリテーションを行い、1〜2か月での装具装着またはテーピングでの復帰を目指すことになります。2回目以降の脱臼では、固定による関節内の修復はほぼ期待できず、不安定性は残存すると考え、早期の可動域再獲得や筋力回復に努めます。
手術療法は、大きく分けて鏡視下関節唇修復術と烏口突起移行術があります。手術方法の選択には、患者のスポーツ競技や骨の欠損など、病態に合わせて、個々の症例に応じて総合的に評価し、判断します。

3-1.鏡視下関節唇修復術

アンカーと呼ばれる吸収性のビスを関節窩(関節の端)の最適部位に4カ所挿入し、ビスについている糸で関節唇と関節包を縫いつけ正常の構造に近づくよう修復する方法です(通常、全ての手技を関節鏡で施行し、創は1cmのものが3つですが、追加処置を行う場合は増える可能性があります)。術後3〜4週間は、簡易装具とバンドを用いて上肢と体幹を固定します。その後、関節可動域訓練、筋力訓練を開始し、通常約1か月でデスクワークなどの軽作業、3か月で日常生活動作不自由なし、6か月でスポーツや重労働への完全復帰を目指します。

反復性肩関節脱臼04(出典元:解剖+はたらきとリンクする整形外科の疾患と治療.照林社, p50)

当院での手術スケジュール(関節鏡下関節唇修復術)

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3-2.烏口突起移行術

当院では、原則関節鏡を使用せず直視下に行う方法で行っています。肩の前方を4〜5cm切開し、損傷されたバンカート病変の修復とともに、烏口突起という肩甲骨前方の骨を腱ごと骨切りし、肩甲骨関節窩前下方へ移行します。術後、脱臼リスクが高くなることが報告されている接触機会が多いスポーツ選手(ラグビー、アメリカンフットボールなど)や骨の欠損が大きい方には烏口突起移行術を勧めています。鏡視下バンカート修復術と同様に術後3〜4週間固定した後、4〜5ヶ月でのスポーツ復帰を目指すことになります。

反復性肩関節脱臼06(出典元:解剖+はたらきとリンクする整形外科の疾患と治療.照林社, p52)

当院での手術スケジュール(烏口突起移行術)

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両手術ともに、手術が終わった後は肩に下図のような装具を付け、修復した組織を保護しながらリハビリを徐々に行っていきます。
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