小児麻酔分野〜当院での取り組み〜

小児麻酔

医療技術の進歩により、小さな赤ちゃんにも様々な手術や治療が可能な時代となりました。全身麻酔はそのような手術・治療を安全に受けるために、必要不可欠なものです。手術だけでなく、お子さんの処置や検査の時の、痛みや不安、不快な気持ちを和らげるために、全身麻酔は必須のものとなってきました。

一方で、手術の決定と同時に、初めて全身麻酔の話を聞いて、「こんな小さい子に全身麻酔をして大丈夫?」「ちゃんと眼が覚める?」「赤ちゃんの痛みはどうやってとる?」など、ご家族が様々な不安や疑問を感じることは、ごく自然なことです。

順天堂医院では、年間1,500件を超える小児手術を行っており、小児麻酔の経験が豊富な麻酔科医が小児手術や検査のその麻酔を担当しています。全身麻酔には、高度な専門知識と修練が必要です。さらに、大人とは違って体の大きさや精神面が日々変化していく子どもの麻酔はさらなる知識と経験が必要となります。当院は、日本麻酔科学会による麻酔科専門研修プログラムの基幹病院であり、専門医・指導医が麻酔科修練医とチームを組んで患者さんの麻酔に対応しています。

症例数(15歳以下)


2023年 2022年 2021年 2020年 2019年
小児外科 1,222 1,114 1,101 986 1,025
心臓外科 122 137 109 105 122
脳神経外科 88 112 85 103 116
整形外科 103 100 129 90 108
眼科 109 115 125 133 181
耳鼻科 72 51 54 42 54
形成外科 116 102 103 71 134
合計 1,832 1,731 1,706 1,530 1,740


手術までの流れ

1)術前外来

順天堂医院で手術を受けるほとんどの患者様は、あらかじめ術前外来を受診していただきます。
術前外来では、手術の時の麻酔の説明以外にも、主に以下のような内容を伺います。

  1. お子さま自身の既往歴(喘息やてんかん、過去の入院、通院歴)
  2. お子さまのアレルギーの有無
  3. お子さまの血縁関係者の全身麻酔歴
  4. お子さまの歯の状態
    *小さいお子さまの場合、歯科診察が困難な場合もあります。普段の歯磨き等でお気づきの点がありましたら、診察医にご相談ください。
  5. お子さまの好きな香り、好きなアニメやキャラクター
    *酸素マスクに好きな香りを付けて不快感を和らげます。
    *手術室でリラックスできるように、アニメを見ながら、ぬいぐるみやおもちゃを持って 入室できます。


手術前に麻酔について、ご質問等あれば、術前外来に麻酔科医にお尋ねください。

2)手術当日までの注意点

風邪、感冒症状

手術前に風邪を引いてしまうと、手術後に肺炎を起こす可能性が高くなります。安全な周術期を過ごしていただくために、風邪を引いた場合は、完治してから手術まで2週間ほど期間を開ける必要があります。手術前に風邪症状があった場合は、やむをえず手術を中止することもあります。

予防接種

予防接種の後には、免疫獲得のために発熱や頭痛などの副反応が起こることがあります。全身麻酔を受ける直前に予防接種を受けると副反応が強く出たり、ワクチンの効果が弱くなってしまう可能性があります。
そのため、予防接種から全身麻酔までは一定の期間を開ける必要があります。予防接種の予定がある場合は、それぞれの担当科の担当医にまずご相談ください。
*緊急手術の場合は、予防接種をしたために手術を延期することはありません。

手術前日

絶食、絶飲の時間

麻酔を始める時また麻酔から醒める時に、お腹の中に食べ物が残っている状態だと嘔吐し、窒息や肺炎の原因になってしまいます。そのため、手術前日から手術当日にかけて、お食事や水分の制限を行います。手術前日に、絶食・絶飲の時間をお伝えしますので、時間を必ず守っていただくようにお願いします。
*日帰り手術の場合:術前外来受診時に、絶食・絶飲の時間を書いた用紙をお渡しします。その用紙に従って、お子さまの食事時間、飲水を守るようお願いします。

内服薬

喘息やアレルギー、てんかんのお薬を継続して飲んでいるお子さまも多くいらっしゃいます。その他、継続して飲んでいるお薬がある場合は、手術前にそれらのお薬をいつまで継続するのかも術前外来、または手術前日に麻酔科医から説明を行います。

手術日

入室

病棟から手術室までは担当の看護師が付き添います。
torikumi_01

手術室前で、手術看護師と麻酔科医、外科医がお待ちしております。
torikumi_02

みんなで一緒に手術室まで向かい、手術室前では、アニメなどの動画を見ながら入室を待ちます。
torikumi_03

導入

手術室に入室したら、モニターを装着しながら麻酔の準備を進めます。
①点滴を入れる前に眠る場合(主に午前中の手術)
  • お口の前に、好きな香りのついた酸素マスクを当てます。酸素と同時に吸入麻酔薬を流しており、自然と眠たくなります。
  • 眠ったところで点滴を入れ、呼吸を助ける管を入れます(気管挿管)。
②点滴が既に入っている場合(主に午後の手術)
  • お口の前に、好きな香りのついた酸素マスクを当てます。この場合は酸素のみが流れています。
  • 点滴から眠るお薬を投与していくと、眠たくなっていきます。
  • 眠ったところで、呼吸を助ける管を入れます(気管挿管)。
torikumi_04
手術開始〜手術終了
手術中は常に麻酔科医がお子さまのそばを離れず、麻酔薬の調整、バイタルの管理を行います。

覚醒
手術が終わると、麻酔薬の投与を中止します。
投与を中止したら、5-10分ほどで目が覚めてきたところで、呼吸を助ける管を抜きます。
回復室・ICU
  • 回復室
    目が覚めた後は、15分程度、手術室の回復室で様子をみます。
    常にそばに看護師が付き添い対応します。
    強い痛みを感じていないか、規則的な呼吸ができているか
    問題がないと判断した時点で、病棟の方へ移動します。
  • ICU
    長時間の手術、侵襲の大きな手術では、手術後に一般病棟ではなく、あらかじめ集中治療室(ICU)へ入室するように予定されていることもあります。
torikumi_05

術後疼痛管理

入院中に周りの大人に痛みをちゃんと伝えられるお子さまもいれば、痛みをうまく表現できないお子さまもいます。
手術中の全身麻酔だけではなく、手術の後の傷の痛みを和らげることも、私たち麻酔科医の仕事です。以下のような鎮痛方法を組み合わせて、手術後の痛みが強いと予測される場合は、事前に鎮痛計画を立てます。
torikumi_06_01
torikumi_06_02
また、手術後の痛みのコントロールが適切であるかを、麻酔科医と特定機能看護師、薬剤師のチーム(APS: Acute Pain Service)で、お子さまのお部屋に伺い、鎮静薬の調整を行います。付き添いのご家族も一緒に術後の疼痛管理を相談できる場となれば幸いです。
torikumi_07<APSメンバー>