「間質性肺炎」、「肺線維症」、「びまん性肺疾患」は聞きなれない病名と思われますが、いろいろな原因により肺に炎症が生じ、肺が硬くなる病気の総称です。関節リウマチなどの膠原病やアスベストなどのじん肺、鳥などが原因となる過敏性肺炎のように原因がわかっている間質性肺炎から、原因が不明である特発性間質性肺炎まで多岐に渡ります。治療法や経過観察方法が異なることもあり、原因の検索は入念に行います。従って、原因の検索から治療に至るまで幅広く診療を行っております。
特発性間質性肺炎の中でも特発性肺線維症(IPFと略します)という疾患が一番多いとされ、胸部CTでは蜂の巣のような所見(蜂巣肺、図)が見られます。このような状態になりますと肺が硬くなり、息を吸いづらくなり体内の酸素が足りなくなるため、坂道や階段での息切れから始まり、進行すると安静にしていても息苦しい状態になります。しかし、ゆっくり進行するケースが多いため、自覚症状が出た段階ではかなり進行しているケースもあります。反面、健診での異常で間質性肺炎を指摘されるケースもあります。
昨今、ピルフェニドン(商品名:ピレスパ)、ニンテダニブ(商品名:オフェブ)といった肺が硬くなるスピードを抑える薬剤(抗線維化薬)が開発され、早期からこのような患者さんの治療に用いることで進行を抑えることが言われており、現在の治療の主流になっています。そのため当科でも積極的にこれらの薬剤を治療に導入しております。抗線維化薬は進行を抑える薬のため、早期に導入したほうがよいとされています。
IPFとは診断できない他の間質性肺炎に関しては従来通りのステロイド、免疫抑制薬を用います。また、膠原病と診断された方や、膠原病の診断にはならないものの類似の特徴があるケースでも間質性肺炎を併発されている方も多く見受けられます。さらに間質性肺炎のような肺の慢性疾患は少なからず心臓への影響(肺高血圧症など)もあり、特にこのようなケースでは膠原病内科や循環器内科と密に連絡をとり、方針を検討しております。2020年に過敏性肺炎の国際ガイドライン、2022年には本邦で診療指針が発刊されたため、多くの症例で過敏性肺炎の可能性も考慮し、検討を行っております。
抗線維化薬の治療対象はもともとはIPFのみの使用でしたが、昨年より、特にニンテダニブは膠原病関連やIPF以外の特発性間質性肺炎の患者さんにも、進行性のケース(進行性線維化を伴う間質性肺疾患の基準を満たす)のケースでは使用できるようになりました。当科でもこのようなケースでも使用を開始しており、膠原病関連ん患者さんは膠原病内科とも相談し、患者さんそれぞれの状態に合わせて、幅広い治療ができるようになってきております。
間質性肺炎は診断が非常に重要となります。まずはCTなどの画像診断で評価を行いますが、CTのみで評価が難しいケースでは、2020年2月より当院でもクライオバイオプシー(凍結生検)が導入となり、今までの気管支鏡検査以上に大きな肺組織の採取、評価が可能になったことから、より詳細な診断が可能となりました。2021年度まで100件以上施行されており、より診断、治療方針の決定がしやすくなっております。さらに、呼吸器外科に依頼して外科的肺生検(病理学検査)を行い診断を行うこともあります。特に診断に難渋するケースでは、隔月で集学的検討
(multidisciplinary discussion; MDD, 我々臨床医、学内・学外を含めた間質性肺炎の放射線専門医、病理学専門医を交えて詳細に診断・治療を検討する検討会)を開催し方針決定を行っております。その上で、検査や治療の導入、適応に関して、十分な議論を行った後に患者さんやご家族と相談、協議した上で治療方針を決定していきます。
特発性間質性肺炎はびまん性肺疾患というカテゴリーに分類され、当院は難病研究班である厚労省びまん性肺疾患研究班参加施設です。そのため多くの患者さんが集まり、かつ他の施設とも連携を取りながら日々の臨床や研究活動に取り組んでおります。当科の間質性肺炎専門外来は月曜日午後、木曜日午前・午後にございます。間質性肺炎、肺線維症でお困りの方はぜひ当科外来へお越しください。