再生不良性貧血とは

すべての血液細胞(白血球、赤血球、血小板)は骨髄中の造血幹細胞を基に日々作られており、骨髄は血液の「工場」、造血幹細胞は血液の「種」とよく例えられます。再生不良性貧血は、何らかの原因でこの造血幹細胞が減少してしまうことで、骨髄で血液細胞を十分に作れなくなった結果、血液中を流れる血液細胞の数が減少してしまう疾患です。先天性に発症することもありますが(ファンコニ貧血など)、ほとんどが後天性に生じます。後天性は薬剤、化学物質、放射線、妊娠、肝炎などが原因になることもありますが、90%以上が原因不明(特発性)です。いずれの場合も、造血幹細胞自体の異常、Tリンパ球による造血幹細胞への攻撃、骨髄環境の異常などが疾患発症の病態とされています。
日本人における罹患率は人口100万人あたり約8人であり、稀な疾患と言えます。男女比はやや女性に多く、10〜20歳代と60〜70歳代に発症のピークがあります。
また、本疾患は厚生労働省の定める指定難病です。所定の申請後、重症度によって医療費補助を受けられる可能性があります。

再生不良性貧血の症状

血球細胞の減少により、さまざまな症状が起こりえます。白血球は細菌やウイルスなどの感染から身を守る細胞であり、白血球減少により感染症にかかりやすくなります。赤血球減少は貧血と言われ、つかれやすさや息切れ、動悸などの症状がでることが多く、重度になると心不全をきたすことがあります。血小板は止血に必要な細胞であり、血小板減少により出血しやすくなります。ただし、慢性的にゆっくり進行するタイプではこれらの症状に気が付きにくく、健康診断などをきっかけに無症状で診断されることもあります。

再生不良性貧血の診断と検査

血球減少はさまざまな疾患で起こりえるため、まずは血液検査などで血球減少の原因となる血液疾患、あるいは血液疾患以外の病気(自己免疫疾患、肝硬変、微量元素不足など)がないかどうかを調べます。その上で再生不良性貧血が疑われる場合、確定診断のための骨髄検査を行います。骨髄の細胞密度低下や脂肪髄(骨髄細胞が脂肪組織に置き換わった状態)などの所見が、再生不良性貧血の診断につながります。また、同時に他の血液疾患がないかどうかも確認します(骨髄異形成症候群、一部の白血病、骨髄線維症など)。その他、脂肪髄化を確認するためのMRIなど、補助的な検査を併用することがあります。

再生不良性貧血の治療

再生不良性貧血の治療は、重症度によって異なります。そのため上記検査で診断が確定した場合、血球細胞数などを用いて重症度を決定します(下表)。治療法は下記の2つに大きく分かれており、重症度や患者さん一人ひとりの状態に合わせて、最適な治療を選択します。状態によっては、無治療経過観察になる場合もあります。

1.造血回復を目的とした疾患そのものに対する治療

  • 蛋白同化ステロイドホルモン療法
  • 免疫抑制療法(シクロスポリン、抗胸腺細胞グロブリン)
  • トロンボポエチン受容体作動薬(エルトロンボパグ、ロミプロスチム)
  • 同種造血幹細胞移植(※)

2.症状緩和を目的とした対症療法

  • 輸血(赤血球輸血、血小板輸血)
  • 顆粒球コロニー刺激因子(白血球を増やす薬)
  • 各種感染症に対する治療

(※)同種造血幹細胞移植は、Stage 2b以上で、40歳未満のHLA一致同胞ドナー(白血球の型が合っている兄弟・姉妹)がいる患者さんに推奨されます。

表:再生不良性貧血の重症度分類
再生不良性貧血の重症度分類
(特発性造血障害に関する調査研究班編 再生不良性貧血診療の参照ガイド 2018年改訂版を参照)

助教 稲野資明