造血幹細胞移植(Hematopoietic stem cell transplantation:HSCT)とは
造血幹細胞は赤血球、白血球、血小板などの全ての血液細胞に分化することができる能力を持ちます。また体内の血液を一生涯供給するために、自分自身で造血幹細胞を自己複製できる能力も兼ね備えています。
造血幹細胞移植(HSCT)は、骨髄造血機能と免疫機能を大量化学療法や放射線によって強力に抑制した後に、この造血幹細胞を点滴で輸注することにより、新たに造血機能と免疫機能の再構築を目指す治療法です。
HSCTの目的
造血幹細胞を移植することにより、正常造血の回復 (Stem cell rescue)が期待できるため、通常では投与出来ない程の強力な抗癌剤・放射線療法を前処置として実施出来ます。自家移植は、この強い前処置による腫瘍の排除を目的とします。また、同種移植においては、ドナー由来リンパ球が終生に渡り腫瘍細胞を監視し、攻撃して排除を続け再発を防ぐ、移植片対白血病効果 (GVL; graft versus leukemia効果)も期待できます。
HSCTの対象となる疾患
- 急性骨髄性白血病
- 急性リンパ性白血病
- 慢性骨髄性白血病
- 骨髄異形成症候群
- 骨髄増殖性腫瘍
- 悪性リンパ腫
- 多発性骨髄腫
- 慢性活動性EBウイルス感染症
- 再生不良性貧血
- 先天性免疫不全
などの疾患で、通常の化学療法のみでは治癒が難しい場合に対象となります。
HSCTの適応
当院では目安として70歳くらいまでの患者さんを対象にHSCTを行なっています。HSCTは非常に強力な治療ですので、心臓・肺・肝臓・腎臓などに異常がないことが条件となります。リスクの高い治療ですので、そのメリットとデメリットを患者さんと家族によく理解して頂く必要もあります。患者さんの状態によっては移植を受けないことをお勧めする場合もあります。
HSCTの種類
HSCTの特徴
HSCTの経過
- 前処置:移植前に大量の抗がん剤・放射線を投与し、腫瘍細胞を死滅させる治療です。ドナーの造血幹細胞が移植後に患者の体内で効率よく増えるため(=生着するため)に、拒絶反応が起きないよう患者のリンパ球をあらかじめ減少させ、免疫力を一時的に低下させる目的もあります。
- GVHD (graft versus host disease):ドナーの造血幹細胞が生着した後、ドナー由来のリンパ球が全身に回り、患者さんの細胞を他人とみなして攻撃することで起こる免疫反応です。移植後主に100日以内に起こる急性GVHDと、主に100日以降に起こる慢性GVHDがあります。免疫抑制剤で予防し、発症した時はステロイドで治療します。
私たちから患者さんへのメッセージ
順天堂大学血液内科では、1994年の開設当初より、継続して造血幹細胞移植に力を入れてきました。2018年10月に無菌病棟27床が完成してからは移植件数も年々増加しており、現在は年間35件程の移植を行なっております。専門性の高いスタッフが昼夜を問わず、安全な移植治療のために尽力しております。特に骨髄線維症に対する移植件数は国内でも有数のものとなっております。また、高齢者への移植も積極的に取り組んでいます。移植を受けた患者さんが再び元気に暮らせるように、医師のみならず看護師、薬剤師、理学療法士などスタッフ一同が協力して、治療にあたっております。
准教授 浜埜康晴
助教 白根脩一
無菌病棟の廊下
病室