骨髄増殖性腫瘍とは

すべての血液細胞は、血液の種である造血幹細胞と呼ばれる細胞から作り出されますが、この造血幹細胞に遺伝子変異(遺伝子に傷が入ること)が生じて、血液細胞が過剰に造られてしまう病気が「骨髄増殖性腫瘍」です。フィラデルフィア染色体という正常では存在しない染色体異常が原因で白血球が異常に増加する「慢性骨髄性白血病」という疾患も骨髄増殖性腫瘍に含まれますが、ここでは、それ以外の骨髄増殖性腫瘍、すなわち「フィラデルフィア染色体陰性骨髄増殖性腫瘍」について述べます。この中でも、代表的な疾患として、「真性多血症(真性赤血球増加症)」、「本態性血小板血症」、「原発性骨髄線維症」が挙げられ、これらの3疾患はお互いに移行することがあります。近年、これらの3疾患に共通してみられる遺伝子変異としてJAK2 V617F変異が発見され、その後、本態性血小板血症、原発性骨髄線維症に共通してみられるCALR遺伝子変異とMPL遺伝子変異が発見されました。

真性多血症は主に赤血球が増える疾患であり、本態性血小板血症は主に血小板が増える疾患です。自覚症状を伴わないことも多く、健康診断で赤血球数や血小板数が高いことを指摘されて診断されたり、脳梗塞などを発症した際に偶発的に見つかることもあります。これらの2つの疾患は比較的良好な経過を辿りますが、経過が長いと、急性白血病や骨髄線維症に移行することがあり、注意深い観察が必要です。また、血栓症(心筋梗塞、脳梗塞、下肢の静脈血栓症や肺塞栓など)を発症するリスクが高くなるため、そのリスクに応じた治療が必要となります。

一方で、原発性骨髄線維症は造血(血液を作り出すこと)が行われている骨髄の中に線維が増えてしまう疾患です。まるで蜘蛛の巣が張ってしまった工場のようになってしまいます。そのため、骨髄で正常な造血ができなくなり、脾臓や肝臓など他の臓器で血液が造られ(髄外造血と言います)、その結果、脾臓や肝臓が腫れてしまうことがあります。だるさ、かゆみ、体重減少などの全身の症状を伴うこともあります。真性多血症や本態性血小板血症よりも、生命にかかわるリスクが高いため、病気の進行度に応じた適切な治療法を選択することが重要になります。

骨髄増殖性腫瘍の治療

 ① 真性多血症

血栓症の予防が、治療の大きな目標になります。低リスク群(60歳未満で、かつ血栓症の既往がない)と高リスク群(60歳以上、または血栓症の既往がある)に分けて治療戦略をたてます。
低リスク群では、抗血小板剤(バイアスピリン)の内服と、瀉血療法(200~400mlの血液を体内から除く)によって血液の濃さを表すヘマトクリット値を減らします。高リスク群では、抗血小板剤と瀉血療法に加えて、細胞減少療法(薬物療法)を行ってヘマトクリット値を減らします。細胞減少療法の第一選択としてはヒドロキシウレア(ハイドレア)が挙げられ、効果不十分な場合や、副作用がある場合、またかゆみなどの全身の症状がある場合には、ルキソリチニブ(ジャカビ)が用いられます。

② 本態性血小板血症

真性多血症と同様に、血栓症の予防が、治療の大きな目標になります。低リスク群(60歳未満で、かつ血栓症の既往がない)と高リスク群(60歳以上、または血栓症の既往がある)に分けて治療戦略を立てることが多いですが、JAK2 V617F変異などを取り入れた新しいリスク分類も提唱されています。
低リスク群では経過観察が原則となりますが、JAK2 V617F変異や心血管リスク因子(喫煙、高血圧症、脂質異常症、糖尿病)がある場合には、抗血小板剤(バイアスピリン)の内服を検討します。高リスク群では、抗血小板剤に加えて、細胞減少療法によって血小板数を減らします。細胞減少療法としては、ヒドロキシウレア(ハイドレア)、アナグレリド(アグリリン)が用いられます。また、血小板数が極端に多すぎると、逆に出血のリスクが高くなるため、低リスク群でも細胞減少療法の開始を検討します。

③ 原発性骨髄線維症

病気の進行度に応じた治療が重要となり、遺伝子変異なども含めたスコアリングが近年提唱されるようになっていますが、国際予後スコア(IPSS)によってリスクを分けることが多くなっています。年齢、全身症状(発熱、体重減少、盗汗(寝汗))、ヘモグロビン濃度、白血球数、末梢血の芽球(未熟な白血球)の割合によって、低リスク、中間-Ⅰリスク、中間-Ⅱリスク、高リスクの4つに分けて治療方針を決めます。低リスクと中間-Ⅰリスクをまとめて低リスク群、中間-Ⅱリスクと高リスクをまとめて高リスク群と言います。

低リスク群で無症状の場合には原則無治療で経過を観察します。貧血や全身症状がある場合には、症状緩和を目的として輸血や薬物療法を行います。一方で、高リスク群では生命に関わるリスクが高くなるため、造血幹細胞移植が行える場合(患者さんが若く、合併症を持たず、造血幹細胞を提供してくれる適切なドナーがいる場合)には、完治を目指して造血幹細胞移植を行います。移植の適応とならない場合には、輸血や薬物療法(ルキソリチニブ:(ジャカビ))によって症状の改善を目指します。

私たちから患者さんへのメッセージ

骨髄増殖性腫瘍は稀な血液疾患であり、各疾患の年間発症率は10万人あたり約0.1~2人と海外からは報告されています。一方で、日本における骨髄増殖性腫瘍の患者さんについてのデータは不足していることから、現在日本血液学会主導で大規模な前向き観察研究が行われており、将来の治療戦略の構築に向けて当院も積極的に参加しています。
また、当大学では骨髄増殖性腫瘍を対象とした基礎研究も行っており、これまでも多くの研究を海外の論文に発表してきました。遺伝子変異の解析などで患者さんの診療に貢献するとともに、臨床と基礎とで相互協力しながら、新たな治療法の開発に向けて日々精進しております。

さらに、骨髄増殖性腫瘍の患者さんを対象とした多くの臨床治験を行っており、現存の治療法で難渋している患者さんに、新しい治療法を提案することも積極的に行っています。今後も、患者さん一人一人にあった診療を提供できるように努力していく所存です。セカンドオピニオンも積極的に行っていますので、ご希望の方はセカンドオピニオン外来(03-5802-1921)までご連絡ください。
 
特任教授 小松則夫
准教授  枝廣陽子