多発性骨髄腫とは

多発性骨髄腫は血液細胞の一種である形質細胞が腫瘍化し、骨髄で増殖した疾患です。形質細胞は本来、ウィルスや細菌などの異物と戦う抗体(免疫グロブリン)を産生し、我々の体を外敵から守っています。腫瘍化した形質細胞(骨髄腫細胞)は働かない抗体を産生し、これをM(モノクローナル)蛋⽩(異常免疫グロブリン)と呼んでいます。多発性骨髄腫は異常形質細胞やM蛋白が様々な臓器障害を引き起こす疾患です。また、M蛋白がアミロイドという蛋白に変性し、これが複数の臓器(心臓、腎臓、皮膚、肝臓、神経、消化管など)に沈着するALアミロイドーシスという疾患を合併することもあります。
多発性骨髄腫に罹患する割合は1年間で人口10万人当たり6.1 例(男性6.7 例、女性5.6 例)です(2018年)。40歳代から徐々に増え、65歳以上が約8割を占める高齢者に多い疾患です。

多発性骨髄腫の症状

多発性骨髄腫の代表的な症状として、高カルシウム血症、腎機能障害、貧血、骨病変に伴うものが挙げられます。
 
  1. 高カルシウム血症
    口渇、吐き気や嘔吐、食思不振、倦怠感、便秘、意識障害などを来します。骨が破壊され、骨の主成分であるカルシウムが血液中に溶け出すことが原因です。
  2. 腎機能障害
    食思不振、むくみ、尿量低下などを認めます。M蛋白やアミロイドが腎臓に沈着し、腎臓が正常に働けなくなります。障害の程度が強い場合は血液透析が必要になることもあります。
  3. 貧血
    息切れ、動悸、倦怠感などを来します。骨髄で増殖した骨髄腫細胞が正常な血液を作れなくすることが原因です。
  4. 骨病変
    腰痛、肋骨痛など痛みが出現します。骨髄腫細胞が骨を壊す破骨細胞を活性化し、骨が脆くなり(溶骨性変化)、骨折しやすくなります。初診の方の72%に骨病変がみられます。
  5. その他
    正常な抗体を作ることができず、細菌やウィルスに感染しやすくなります。骨髄腫細胞が骨髄の外に腫瘤を形成することがあり(これを形質細胞腫といいます)、場所によっては痛みや麻痺を認めることがあります。アミロイドーシスでは沈着臓器による症状(心臓:心不全や不整脈、腎臓:むくみ、神経:しびれ、消化管:下痢や腹痛、)がみられます。

多発性骨髄腫の診断基準と病期分類

多発性骨髄腫の診断には、血液・尿検査、骨髄検査、画像検査(レントゲン、CT、MRI、PET/CT)を行い、下記の基準を用いて診断します。形質細胞腫やALアミロイドーシスの診断には生検が必要になります。
IMWG(International Myeloma Working Group)診断基準
多発性骨髄腫01
(Rajkumar SV, et al. Lancet Oncol. 2014; 20: e538-.)

臓器障害*:下記に示す骨髄腫診断事象を1項目以上満たす場合を臓器障害ありと判断します
 
  1. 多発性骨髄腫に関連した臓器障害
    ✔高カルシウム血症:血清カルシウム>11mg/dL、または正常上限+1 mg/dLを超える
    ✔腎機能障害:クレアチニンクリアランス<40 mL/分、または血清クレアチニン>2mg/dL
    ✔貧血:ヘモグロビン濃度<10g/dL、または正常下限-2 g/dLを下回る
    ✔骨病変:全身CTで溶骨性変化を1か所以上認める
  2. 進行するリスクが高いバイオマーカー
    ✔骨髄中の異常形質細胞割合≧60%
    ✔血清遊離軽鎖比≧100
    ✔MRIで局所性の骨病変(直径5mm以上)>1か所
改訂版国際病期分類(R-ISS: Revised International Staging System)
多発性骨髄腫02
(Palumbo A, et al. J Clin Oncol. 2015; 33: 2863-.)
高リスク染色体異常*:del(17p)、t(4;14) 、t(14;16) のうち1つ以上を有する

多発性骨髄腫の治療

多発性骨髄腫は完治が困難な疾患であり、MGUSやくすぶり型骨髄腫では治療せず経過観察し、臓器障害を認めた時点で治療(化学療法)を開始します。前述の通り、高齢者に多い疾患であり、全身状態や基礎疾患、通院の利便性などを考慮し、患者さんやご家族と相談の上、治療法を決定します。QOL(生活の質)を可能な限り維持するため、外来での治療が中心となります。
近年は多くの新しい薬剤が使用可能となり、治療成績は飛躍的に向上しました。現在も複数の新規薬剤の臨床試験が行われており、その有効性が報告されています。 特に、CAR(chimeric antigen receptor:キメラ抗原受容体)-T細胞療法やBiTE(bispecific T-cell engager:二重特異性T細胞誘導)抗体を用いた免疫療法が新たな治療法として注目されており、日本でも近い将来使用できる見込みです。
 
  1. 初発の患者さん
    寛解導入療法で腫瘍細胞を減らし、70歳以下で臓器機能の保たれている方には大量化学療法併用自家末梢血幹細胞移植を行います。その後は再発を先延ばしする目的で治療強度を弱めた維持療法を行います。寛解導入療法にはベルケイド、レブラミド、ダラザレックスの3つの新規薬剤が使用できます。自家移植適応の患者さんにはVRD(ベルケイド、レブラミド、レナデックス)療法を行います。適応にならない患者さんにはDLd(ダラザレックス、レブラミド、レナデックス)療法やD-VMP(ダラザレックス、ベルケイド、アルケラン、プレドニゾロン)療法を選択することが多いです。
  2. 再発の患者さん
    前述の3つの新規薬剤に加えて、カイプロリス、ニンラーロ、サレド、ポマリスト、エムプリシティ、サークリサ、ファリーダックが使用可能になり、これらの薬剤とステロイドを組み合わせて治療を行います。初回の治療で自家移植が有効であった患者さんには2回目の自家移植を行うこともあります。若年者の方には同種移植を検討する場合もあります。
  3. 放射線治療
    形質細胞腫に対する治療や骨病変に伴う疼痛を抑える目的で行うことがあります。
  4. 支持療法
    多発性骨髄腫に伴う症状や臓器障害を緩和、改善する目的で化学療法と並行して行う治療のことです。造骨を促進する目的でビスフォスフォネート製剤(ゾメタ)やデノスマブ(ランマーク)を併用します。腎不全を来した場合は、血液透析を行うことがあります。疼痛が強い場合は麻薬製剤で対応します。

私たちから患者さんへのメッセージ

順天堂大学血液内科は、国内で最大の1,300例を超えるコホートデータを有する関東東北にある6つの大学病院およびその関連病院が参加する研究グループ(関東・東北骨髄腫カンファレンス Kanto-Tohoku Multiple Myeloma Conference:KTMM https://www.ktmm-myeloma.com/)に属し、臨床検体、臨床データを用いて研究を行っています。また、これまで複数の臨床試験、治験を行ってきました(https://www.gcprec.juntendo.ac.jp/chiken/)。
臨床試験、治験は通常の保険診療では受けることのできない最新の治療であり、他施設よりも多くの治療選択肢を提供できることになります。今後も積極的に臨床試験、治験を行い、一人でも多くの多発性骨髄腫の患者さんの力になれるよう努力していく所存です。
 
先任准教授 佐々木 純
准教授   築根 豊