皮膚軟部腫瘍は形成外科でも非常に良く扱う疾患で、ほくろやアザ、いぼといった様に皮膚表面に変化を生じるものから、「皮膚のできもの」や「脂肪のかたまり」と言われる様な皮膚の下に出来た固まりで皮膚が盛り上がっているものまであります。
原因となる細胞には実に様々なものがあり、中には悪性のものも存在します。悪性のものの中で皮膚の表面から出来たものは癌、脂肪や筋肉といった中の組織から出来たものは肉腫と言われます。
皮膚表面のできものは基本的に手術で切除して、その組織を調べて診断を確定しますが、その形や大きさ、できものの性質によって切除法や手順を工夫する必要があり、いぼ様のものの中にはレーザーや液体窒素で治療が可能なものもあります。
適切な診断とそれに応じた治療が重要ですが、必要に応じて腫瘍を専門とする皮膚科や整形外科の先生とも密に連携を図りながら、整容面・機能面の双方に配慮した緻密な切除手術と生じた欠損に対する高度な再建手技を行なっています。
皮膚癌の中でリンパ節への転移を生じるものについては、アイソトープやICG蛍光色素を用いたセンチネルリンパ節生検(SNB)**を積極的に行い、適切なリンパ節転移の評価と伴に、不必要なリンパ節郭清を避ける低侵襲で体に優しい治療を心がけています。
**センチネルリンパ節生検
センチネルリンパ節というのはリンパ節の中で最初に癌の転移するリンパ節です。最初に転移するリンパ節を調べて、もしそこに転移がなければ、それ以上先のリンパ節に転移している可能性は低いため、リンパ節郭清を省略でき、リンパ節への転移の有無も確実に診断出来ます。
センチネルリンパ節を見つける診断法として、色素や放射性同位元素(アイソトープ)を注入する方法(色素法、RI法)、さらにICGという薬品を注入して赤外線カメラでリンパの流れとリンパ節を同定する方法もあり、それらを組み合わせることで、小さな傷で確実にリンパ節を同定することが出来ます。
皮膚がん、皮膚悪性腫瘍
表皮細胞由来
基底細胞癌
表皮や皮膚付属器の基底細胞に似た細胞から生じた皮膚癌で、高齢者の目や口、鼻の周りなど顔面に生じることが多いです。
やや透光感のある表面平滑な黒色の結節が一般的ですが、見た目にはほくろと見分けが付かないこともあります。
実際の治療例
必要最小限の切除幅で確実に取りきることが大切ですが、その再建もどこを切ってどのように再建するかを良く考えないとなりません。
腫瘍の性質と顔面の形態のバランスを考えた手術が必要になります。
71歳 女性 右頬部の大きな基底細胞癌
有棘細胞がん(扁平上皮癌)
表皮の中のケラチノサイトという部分から生じた皮膚癌。
ひとつの紅い小さな盛り上がりとして出来はじめ、徐々に拡大して硬いできものになったり腫瘤や治りにくい穴(潰瘍)になったりします。表面が腐って深い穴になったり、表面がグジュグジュしてくさい臭いを生じることもしばしばあります。
治療はしっかりと切除する手術が中心 で、状況により放射線治療を行うことも あります。
化学療法は転移例などを除き一般的には あまり行いません。
実際の治療例
有棘細胞癌は、火傷やけがなどの瘢痕の上に生じることが有るため、切除の際にはそれらの前駆病変と伴に切除することも時に必要になります。
60代 男性 右手母指背側熱傷瘢痕癌(幼少時の火傷部に生じた有棘細胞癌)Hayashi A, Yoshizawa H, et al: Intraoperative use of indocyanine green fluorescence angiography during distally-based radial artery perforator flap for squamous cell carcinoma of the thumb Plast Reconstr Surg Glob Open. 3(2):e310-13, 2015 より
Bowen病
表皮内に限局されたがんで、境界明瞭な楕円形~環状の淡紅~暗褐色の浸潤性局面になります。軽度隆起性で鱗屑又は痂皮を被うので、湿疹様に見えることがあります。
皮膚付属器(毛穴、皮膚の脂の線、汗の線など)由来
乳房外Paget病
アポクリン腺という汗の腺の一種又は導管上皮などから生じる腺癌。
外陰部に一番多く、湿疹の様な紅斑として始まり後に湿潤、びらん面を呈するため、湿疹や真菌症(インキン)として長期治療されていることも多いため注意が必要です。
肛囲、腋窩にも生じ、時に所属リンパ節腫脹や転移を伴ないます。
治療は切除手術が基本になります。あらかじめ周りの皮膚をたくさんの部位で検査することが必要になり(Mapping biopsy)。その上で、手術時に広範囲の切除を行ないます。
その他
脂腺がん、汗管がん、毛包がん
神経堤起源細胞性悪性腫瘍
メラノサイト由来
悪性黒色腫
「ほくろのガン」といわれ、しばしば転移を起こして命を落とす、悪性度の高い皮膚癌であるため、確実な診断と治療が必要になります。
日本人は足に生じやすいのが特徴で、足のものは悪性黒色腫の中でも転移を起こしやすく注意が必要です。また、悪性黒色腫の重傷度(Stage)は、大きさよりもその深さで決まります(Breslow scale)。
治療には、きちんとした拡大切除手術と化学療法が必要で、最近では様々な新しい薬も開発され、使用出来る様になっています。
また、リンパを通って転移するので、センチネルリンパ節生検やリンパ節の郭清、さらにその通り道を考えた再建法が必要になります。生検を行い診断が付いた場合には、なるべく早く(出来れば2週間以内)手術を行う ことが必要です。
見た目の特徴やタイプなどについては下記の通りです。
見た目の特徴(臨床的特徴:ABCD)
- Asymmetry:形の不整
- Border irregularity:境界が不明瞭
- Color variegation:色の不整(濃いところと薄いところがある)
- Diameter>6mm:直径が6mm 以上
タイプ分類
- 結節型(nodular melanoma:NM)など黒褐色、漆黒色の結節
- 表在拡大型(superficial spreading melanoma:SSM)・・・班、局面状
- 悪性黒子型(lentigo maligna melanoma:LMM)・・・顔面に好発
- 末端黒子型(acral lentiginous melanoma:ALM)・・・足底、指趾爪部
実際の治療例
必要最小限の切除幅で確実に取りきることが大切ですが、その再建もどこを切ってどのように再建するかを良く考えないとなりません。
腫瘍の性質と顔面の形態のバランスを考えた手術が必要になります。
60代 男性 足底部の大きく拡がった悪性黒色腫シュワン細胞由来
悪性神経鞘腫、悪性顆粒細胞腫
良性腫瘍
表皮細胞由来
粉瘤(表皮嚢腫)
最も一般的な皮膚のできもの。皮膚表面の成分が袋を作って、その中に粥状の垢や膿が溜まったものです。
皮様嚢腫
胎生期の皮膚の埋入で出来ると言われ、目の回りに良く出来ます。
奥が深く骨まで続いていることがあるので入院治療が必要な場合があります。
脂漏性角化症
老人性疣贅ともいわれ、いわゆる皮膚の年齢的変化で生じるものです。
表面がかさかさして少し隆起します。
その他
表皮母斑、ケラトアカントーマ
皮膚付属器由来
石灰化上皮腫
毛穴の一部から出来ると言われ、子供の頃に多くみられます。名前の通り石の様に硬めのできものが皮下に出来ます。
脂腺母斑
生まれた時にはやや赤みのある髪の毛の生えない斑状ですが、年齢とともに見た目の感じも変化して、徐々に盛りあがっていぼ状になり、茶褐色へと変化していきます。頭に出来ることが多く、脂腺母斑の上に皮膚癌が出来る可能性があるため、ある程度の年齢で切除してしまうことが必要になります。
神経堤由来
色素性母斑
いわゆるほくろになります。母斑細胞が皮膚の表面近くに集まって色素を作るためにできる褐色又は黒色に見えるアザです。「ほくろ」といわれる小さなものから、大きな拡がりをもつ「母斑」といわれるものまであります。
治療の方法は様々で、電気やレーザーでアザを薄くしていく方法とメスで切り取る方法に大きく分かれます。
扁平母斑
皮膚の色をつくるメラニンが皮膚の浅いところに増えて出来る、平らなくっきりとした茶色のアザです。生まれつきあるものが殆どですが、数の多いものには神経線維腫症といった全身の病気がひそんでいることもあり、注意が必要です。大人になってから出来る肩や腰の周りに出来るものはベーカー母斑とも呼ばれ、毛が生えることもあります。
治療にはレーザーや切除の手術が行われますが、レーザーでは再発してくることもあり、治療に難渋することもあります。
蒙古斑(異所性)、太田母斑、青色母斑
色素細胞(メラノサイト)が皮膚の深いところ(真皮)に集まって出来るアザで、生まれつき又は生まれて間もなく出来るものや思春期以降の大人になってから出来るものがあります。
治療にはレーザーが用いられ、反応も良好なので、各々にあったあて方を考えていきます。
間葉系由来
脂肪腫
脂肪細胞が大きくなったもので、いわゆる「脂肪のかたまり」ですが、筋肉内の深いところに出来ていたり、稀に悪性のものもあるため、きちんとした検査を行った上で必要に応じて摘出術を行います。
その他
皮膚線維腫、毛細血管拡張性肉芽腫、グロムス腫瘍、黄色腫、ケロイド
唾液腺由来
耳下腺腫瘍
耳の前に出来るできものの中には、よだれを作る耳下腺から出来るものもあります。良性のものには多形腺腫と呼ばれるものが多いですが、再発を生じすく 長い経過で癌になることもあるため、正常な耳下腺も含めて大きく切除を行う必要が あります。耳下腺の中には顔を動かす顔面神経が複雑に走行するため、その切除には 高度な技術と経験が必要になります。また、残った耳下腺組織の影響で食事の時によだれの代わりに耳の前に汗をかく様になることがあります(Frey症候群)。その予防の為に首の筋肉を血の巡りを保ったまま移植することを行う場合もあります。
Hayashi A, Mochizuki M, Natori Y, et al.: Effectiveness of platysma muscle flap in preventing Frey syndrome and depressive deformities after parotidectomy J Plast Reconstr Aesthet Surg. 69(5):663-72, 2016より