鹿間直人(放射線科 治療部門教授)
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第2回 「放射線治療部門のアクティビティー」
掲載日:2024.06.19
鹿間直人 (放射線治療学講座 主任教授)
 
 昨年の2月に教授エッセイを掲載させていただいたのち、1年以上が経ってしまいました。今回は私ども順天堂大学医学部附属順天堂医院(本院)放射線治療部門が、この1年でどのような変化を果たしてきたかをご紹介します。

 最も大きく変わったことはスタッフが大幅に増えたことです。医療・研究・教育には多くの「人の力」が必要です。放射線治療のイメージは大型機器かもしれませんが、がんの放射線治療の分野では「人の力」が最も重要と考えています。私が就任した当時は、本院の放射線治療部門は、わずか4名の医師でスタートしましたが、2年弱の間に10名にまで増え、中堅以上のスタッフに加え若手医師が加わってくれました。また附属病院のスタッフの充実も一歩ずつ進めています。
 本院の放射線治療部門では昨年1月に村上直也教授が国立がん研究センター中央病院から赴任されたのを皮切りに、7月には量子科学技術研究開発機構QST病院から小此木範之先任准教授が赴任しました。このお二人は日本屈指の密封小線源治療のエキスパートで、当院婦人科の先生方のご協力のもと子宮頸がんを始めとする小線源治療の実績を大きく飛躍させることができました。また、大きく変わったことは当科の若手医師が積極的に小線源治療に自ら取り組むようになり、仙骨ブロック、鎮静、組織内照射を併用したハイブリッド照射の技術を習得していることです。「育て方」を知っている二人のエキスパートの力が大きいと考えています。新体制からわずか半年足らずで小線源治療の技術的報告を英文誌に報告するという若手医師も出てきました。また、国内外からの見学者が後を絶たず、先日は米国の研究者が村上直也教授の技術を学びに来日されました。今後も国内外の小線源治療のレベル向上に教室を上げて取り組んでまいります。さらに、医学物理士の飯島康太郎先生が国立がん研究センターから赴任し、これまで私が思い描いていた医学物理分野の研究の概念を覆す新しいアイデアを連発し、研究や臨床に生かしています。人が増え、新しい力が加わることでこれほどまでに教室が明るくなるものかと私自身が驚いています。

 この1年で新たに始めたこととしては、文部科学省の「次世代のがんプロフェッショナル養成プラン」で放射線治療部門の医療人を育成する活動を挙げることができます。東京医科歯科大学、慶応義塾大学、国際医療福祉大学、東海大学、順天堂大学の5大学が連携を図り、取りまとめを私が仰せつかっています。二つのプログラムを柱とし、①「高精度放射線治療/小線源治療を担う人材の育成」、➁「チームで取り組む緩和的放射線治療」を立ち上げました。①の高精度放射線治療/小線源治療では医学物理士を目指す技術スタッフのみならず若手放射線治療医が履修可能です。また、➁の緩和的放射線治療は看護師、心理士、ケースワーカー、薬剤師、医師が対象のプログラムで、講義のほかに実習・演習としてコミュニケーションスキル(ロールプレイ)、支持療法に関するワークショップ、多職種で取り組む包括的アセスメント(グループワーク)などを企画しています。医療職や医療系大学在籍の方であればどなたでも参加可能です。令和6年度のインテンシブコースの履修登録はお陰様で定員に達してしまいましたが、講義、特別講義の単回参加は可能です(令和6年7月に順天堂大学医学研究科のホームページに掲載予定)。

 我々の持つ放射線治療という武器でより多くのがん患者さんに貢献したいという気持ちに変わりはなく、昨年8月には患者会であるNPO法人キャンサーネットジャパンの方にお声がけいただき、「がんの放射線治療のい・ろ・は」と題して一般の方向けに放射線治療の基本的なことをお話させていただきました。フリーアナウンサーの中井美穂さんが司会をしてくださり、現在もYouTubeで見ていただくことができます(【JCF2023】がんの放射線治療の「い・ろ・は」 (youtube.com))。
 今後も様々な方法で「がん患者さんに放射線治療を届ける」ことを目指して活動を進めます。
第1回 「就任にあたって」
掲載日:2023.02.20
鹿間直人 (放射線治療学講座 主任教授)
 
2022年10月1日付けで放射線治療学講座の主任教授に就任しました鹿間です。放射線治療学講座は放射線を用いたがん医療の研究・診療・教育を行うセクションであり、臨床腫瘍学(しゅようがく)の一分野です。放射線治療単独、または手術や薬物療法と併用で治療することで、がん患者さんの病気の治癒、再発予防、延命、症状緩和を目指します。

現在、私どもの部門で積極的に取り組んでいる臨床と研究に関してご紹介いたします。遠隔転移がある患者さんの治療の基本はこれまで薬物療法と緩和ケアが中心でした。しかし、少数個転移のみの場合(オリゴ転移)には、放射線治療や手術療法を行うことで長期に病気が制御できたり、一部の方ではそのまま治癒したりすることがだんだんわかってきました。手術に代わる武器として定位放射線治療技術が登場し、あらゆる部位に適応することが可能になってきました。脳はもちろんのこと、肺、肝臓、副腎、リンパ節など呼吸で動く臓器や、骨(脊椎、非脊椎)にも正確に照射する技術が開発されました。定位放射線治療の利点は体にメスをいれないことや外来通院が可能なことだけではなく、薬物療法の休止期間を最小限にすることが可能な点です。有効な放射線治療を短期間で集中的に治療することで、有効な薬物療法の休止期間を最小限にとどめ、両治療の効果を最大限に生かすことが求められています。肺や肝臓の腫瘍は呼吸で動くため金マーカを病巣部の近傍に埋め込み、透視画像と組み合わせた治療システムで正確に照射します。また、副腎など金マーカの埋め込みが困難な場合には息止め照射などを行いています。脊髄が近接する脊椎にも定位照射を行う事が出来るようになり、高い疼痛緩和効果と良好な病巣制御を目指しています。

「技術的に可能」と、「臨床的に意味がある」とは異なり、現在我々は、JCOG(Japan Clinical Oncology Group:日本臨床腫瘍試験グループ)で乳癌および肺癌のオリゴ転移を対象に、局所治療の意義を検証するランダム化第三相試験を立案中であり、私が乳癌オリゴ転移試験の研究代表者を務めます。また、当院呼吸器内科の先生方とはWJOG(West Japan Oncology Group:西日本がん研究機能)の組織を活用し、肺癌オリゴ転移・増悪に対する局所治療の意義を共同で研究しています。多施設共同の臨床試験を通じて「臨床的に意味がある」「患者さんのためになる(clinical benefit)」を確認していきます。また、個数が少ないというだけの条件では不十分と考えられており、画像やバイオマーカを用いた研究にも取り組んでいます。

我々の持つ放射線治療という武器でより多くの患者さんに貢献したいと考えています。