臨床画像2014. Vol.30,No.3 p327 「私を変えたこの論文」を改編
掲載日:2014.06.30
桑鶴良平 (放射線診断学講座 教授)
放射線診断専門医を目指す、もしくは放射線診断専門医になって数年の若手の先生方には、どちらかというと新しいことにチャレンジしてその成果を問うというよりも、自分の勉強をして知識や読影能力を上げることに興味を持つ人が多いと感じている。放射線診断専門医としては、大学病院など疾患の偏りが比較的少なく症例の多い病院で、自分の診断した内容のフィードバックを得ながら、少なくとも10年程度頑張って初めて一人前になるのではないかと思っている。従って、放射線診断専門医取得はあくまで通過点で、そこからさらなる精進が必要である。癌研での研修時代に、当時名誉院長の黒川利雄先生に「山上に山あり」という先生の著書をいただいた。高い山に登ってみると眼前にはもっと高い山がそびえ立っていたということで、放射線診断専門医になってもまだ、先に学ばなければならないことがたくさんあるという点で同様である。
放射線診断専門医になるまで、および放射線診断専門医になってからは2つの勉強が必要である。まず、自分で画像診断専門書やインターネットを通じて勉強したり、学会などの勉強会に出席して、新たな知識を得ることが第1に挙げられる。そしてもう1つは医療の現場で同僚、臨床、病理の先生と自分が診断した画像診断とその結果について議論することである。後者については忙しい臨床現場や出張先などではやや軽んじられてしまう傾向があるが、何事も「百聞は一見にしかず」である。勉強会でいくら勉強しても、実際に自分が診断した結果を確認するとしないとでは、診断能力に差が出る。小さなリンパ節が徐々に腫大していき、明らかに転移と診断するのには数年かかることもある。炎症と思っていた肺の病変が実は癌であったなどという経験もする。前立腺癌のMRI診断などは何例も見て病理と対比してフィードバックして、初めてある一定レベルの診断能力に達する。ほかの分野でも枚挙にいとまがない。こういった「臨床画像診断医」としての実力向上は、常に臨床医・病理医とのかかわりをもっている、院内外のカンファレンスに参加するといったことをしないと得られにくい。
教育に関しては、指導医は放射線診断に興味を持つような指導が必要で、私もそのように教育を行っていきたいと思っている。特に放射線診断医は、長い生涯に渡って医療業務が可能で社会貢献が可能な事も強調したい。また、内科や外科などと比較して圧倒的に人数の少ない放射線診断および治療分野では、施設間の垣根を越えた協力が臨床、教育、研究の発展に必須である。お互いに「passiveからactiveへ」転換し、交流し合うことにより放射線科全体の底上げにつながる。実際に最近、数ヶ月間の予定で他大学から受け入れた放射線診断専門医の先生には、私も若手医師も大いに刺激を受けた。
研究に関しては、臨床研究においても基礎研究においても、あることがきっかけで論文を読み興味が湧いてくると自分のアイディアが生まれ、実行に移すときに自由に先輩の意見を聴けるような環境が望ましい。特に臨床研究は「臨床画像診断医」としての実力向上にも寄与するため、若手の放射線科医師の皆さんには、臨床や基礎の研究にもチャレンジしていただきたい。