結節性硬化症(けっせつせいこうかしょう)はどんな病気ですか?

結節性硬化症(英語ではtuberous sclerosis complex:TSCと略します)は、脳、腎臓、肺、皮膚、心臓など、全身のさまざまな場所に症状が出る病気です。自覚症状としては、人によって様々ですが、腎臓の腫瘍である腎血管筋脂肪腫(AML)による圧迫の為の腰痛や腹痛、顔の血管繊維種、肺の腫瘍(LAM)による咳や息苦しさ、脳の腫瘍(SEGA)による頭痛、てんかん発作や、言葉や読み書きなどの発達に遅れが出る(発達障害)、人とうまくコミュニケーションが取れなくなる(自閉症)、歯の表面にくぼみができる、などがあらわれます。
これらの症状は年齢によって、現れる症状も変わります。また、必ず症状が現れるとは限らず、何も問題がなく一生を過ごせる事もあり、自覚症状がない場合もあります。


結節性硬化症の原因は?

結節性硬化症の原因は遺伝子の異常と考えられており、体内のmTOR(エムトール)というタンパク質のはたらきをコントロールしている遺伝子(TSC1遺伝子またはTSC2遺伝子のどちらか)が一部変化し、うまくはたらかなくなることが原因と考えられています。
TSC2の変異がある方が、症状が重いと考えられています。両親からの遺伝でおこる症例は約3分の1で、偶然TSC1もしくはTSC2に遺伝子の変異が起きて発症するケースが3分の2を占めています。

結節性硬化症の診断は?

いくつかの特徴的な症状を組み合わせて結節性硬化症と診断されます。 現在は修正ゴメス基準という基準がつかわれています(下図参照)。
場合によって、CTやMRI、超音波(エコー)などの画像検査や、肺のはたらきを調べる検査などをおこない、総合的に診断しています。診断には複数の診療科を受診して頂きます。

修正Gomez基準

大症状 小症状
  • 顔面の血管線維腫または前額部、頭部の結合織よりなる局面
  • 非外傷性多発性爪囲線維腫
  • 3つ以上の白斑
  • シャグリンパッチ
  • 多発性の網膜の過誤腫
  • 大脳皮質結節*1
  • 脳室上衣結節(SEN)
  • 上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA)
  • 心横紋筋腫
  • 肺リンパ脈管筋腫症(LAM)*2
  • 腎血管筋脂肪腫(腎AML)*2
  • 歯エナメル質の多発性小腔
  • 過誤腫性直腸ポリープ*3
  • 骨シスト*4
  • 放射状大脳白質神経細胞移動線*1,4,5
  • 歯肉の線維腫
  • 腎以外の過誤腫*3
  • 網膜無色素斑
  • 散在性小白斑
  • 多発性腎嚢胞*3

  • *1. 大脳皮質結節と放射状大脳白質神経細胞移動線の両症状を同時に認める場合は1つと考える。
  • *2. LAMと腎AMLの両症状がある場合は、Definitive TSCと診断するには他の症状を認める必要がある。
  • *3. 組織診断があることが望ましい。
  • *4. レントゲン所見で十分である。
  • *5. 3つ以上の放射状移動線は大症状に入れるべきだという意見もある。

TSC診断基準
大症状
小症状
Definitive
(TSCであることが確実)
≧2

1
≧2


結節性硬化症の治療について

腎臓の血管筋脂肪腫(腎AML)は、どんな病気ですか?

腎臓の血管筋脂肪腫(けっかんきんしぼうしゅ)は、略して腎AML(エーエムエル)と呼ばれる、おもに腎臓にできる腫瘍です。結節性硬化症の70-90%におきる病気で、10歳代半ばから35歳ごろに発症しやすく、女性に多くみられる病気です。10歳代で腎臓の血管筋脂肪腫(腎AML)が急に大きくなることがあります。
腫瘍ができてもすぐには症状があらわれず腎臓の機能にも影響が出ません。しかし、腫瘍が大きくなってくると、周囲を圧迫したり、腫瘍から出血することもあるので注意が必要です。大きさによっては薬を内服したり、腎動脈塞栓術(TAE)や手術を行うことがあります。

腎臓の血管筋脂肪腫(腎AML)の検査は?

自覚症状はかなり進行するまでほとんどなく、病状が悪化して症状が出るまで気がつかないことが多いので、定期的に腎臓の検査を受けることが大切です。画像検査(超音波検査;エコー、CT、MRIなど)で診断されます。検査時に痛みはありません。

腎臓の血管筋脂肪腫(腎AML)には、どんな治療をおこなうのですか?

腎臓の血管筋脂肪腫(腎AML)は自然に治ることはありません。 腫瘍が急に大きくなる場合や3~4㎝より大きい場合は出血や破裂をおこし、患者さんの命にかかわる危険があるため、治療が必要になります。

治療法としては、下記になります。

  1. mTOR阻害剤(アフィニトール®):薬物治療によって腎臓の血管筋脂肪腫(腎AML)を小さくします。結節性硬化症にともなうAMLにのみ使用で来ます。治療は当科で行います。
  2. 腎動脈塞栓術(TAE):腫瘍に栄養を送っている血管をふさいで腫瘍を小さくする手術。当院の放射線科で行っています。
  3. 腎部分切除術:腎臓の血管筋脂肪腫(腎AML)を取り除く手術。当科で行います。

どの治療法を選択するかは、それぞれの治療法の特徴を知って、主治医とよく相談して決めましょう。

当科では、火曜日(午前)/木曜日(午前)のPKD/TSC外来で相談を受け付けていますので、紹介状をお持ちの上、受診して下さい。尚、10時までに受け付けを済ませて下さい。
気になる症状がある場合には、気軽にご相談ください。場合によっては、他の科の専門の先生とも相談の上、みなさんにあった検査や治療などをおこないます。

アフィニトール®による治療とは?

腎臓の血管筋脂肪腫(腎AML)と上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA)に適応症があります。
アフィニトール®は、結節性硬化症の原因となっているエムトール(mTOR)というタンパク質の過剰なはたらきをおさえるエムトール阻害薬という新しい種類のお薬で、腫瘍を小さくしたり、大きくなるのを抑制する効果もあります。そのため、腎AMLの破裂、出血のリスクを抑えます。お薬を飲むのをやめると腫瘍がまた大きくなるおそれがあるため長期間の継続服用が必要になります。
1日1回服用するお薬で、特に注意する副作用は口内炎、間質性肺疾患、感染症です。減量、休薬や他のお薬により対処が可能ですので、症状の悪化を防ぐためにも副作用と思われる症状が現われたら、直ぐに担当医や看護師、薬剤師にご相談ください。