LOH症候群(加齢性腺機能低下症)

LOH症候群とは

加齢に伴いテストステロン値が低下することによる症候を late onset hypogonadism (LOH症候群、加齢性腺機能低下症)と呼びます。

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LOH症候群は、うつ、性機能低下、認知機能の低下、骨粗鬆症、心血管疾患、内臓脂肪の増加、インスリン抵抗性の悪化、HDLの低下、コレステロール値とLDLの上昇に寄与し、メタボリック症候群のリスクファクターになります。また心血管疾患、糖尿病、呼吸器疾患のリスクを高めます。LOH症候群には大うつ病の患者が含まれることが多いとされています。テストステロンが低いと、活力と性機能が損なわれ、QOLに大きな影響を与えることとなります。


LOH症候群の診断

日本泌尿器科学会、日本Men’s Health医学会が加齢性腺機能低下症診療の手引き(以下「手引き」)を作成しています。2022年に全面的な改訂が行われ、診断基準に変更がありました。

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血中総テストステロン値が250 ng/dl以下または血清フリーテストステロン値が7.5 pg/mlを治療介入を行う基準値としております。なお、国際的には血中総テストステロン値が300-320 ng/dlを治療介入の基準値としています。

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症状の評価としては、Aging Male Symptom (AMS) scoreが国際的には現在汎用されています。AMSは、精神・心理、身体、性機能についての17項目についてのセルフアセスメント型の症状スコアです。17項目についての5段階評価を総計し、合計26以下は正常、27-36は軽度の症状、37-49は中等度の症状、50以上は重症としています。



テストステロン補充療法(TRT)について

TRTの方法としては、経口剤、注射剤、皮膚吸収剤がありますが、わが国では注射剤エナント酸テストステロンのみが保険適応となっています。通常2週間おきに125mgもしくは4週間おきに250mgを筋注することで臨床効果が得られますが、デポ剤の性質を考えると1-2週ごとに60-125mgを投与していくほうがより生理的に近いと考えられます。また、ゲル剤は、注射剤よりも生理的であり、欧米ではゲル剤を好む患者が増えていますが、我が国では保険適応外です。保険適応外ではありますが、メンズヘルス医学会認定のテストステロン治療認定医が処方可能である1upフォーミュラ®というゲル製剤が近年開発され、全国的に処方可能な医療機関は増えています。
TRTにより、筋肉量、筋力、骨密度、血清脂質プロファイル、インスリン感受性、気分性欲、健康感の改善が認められます。勃起不全については、PDE5阻害薬の作用を増強します。
TRTにより前立腺癌が生じることはほぼ完全に否定されつつあります。TRTの臨床試験のメタアナリシスにおいては、プラセボ群とホルモン補充群で前立腺癌が発見される有害事象の頻度は変わらず、むしろテストステロン値が低い患者ではPSAが比較的低値にも関わらず悪性度が高い前立腺癌を高頻度に経験します。これまでの検討では治療前に前立腺癌がない事を必ずスクリーニングして、定期的に直腸診とPSAを測定することで前立腺癌の合併を見逃さない努力がなされています。そのような前提の上では、テストステロン補充は全く安全に施行可能と考えられます。このため「手引き」ではPSAを測定し、2.0 ng/ml以上であれば前立腺癌の除外のため、泌尿器科医へ紹介することをすすめています。


TRTの問題

わが国で保険適応のあるテストステロン製剤で安全に使用可能なものはエナント酸テストステロンのデポ剤注射のみであり、2週から4週に1回の投与が必要です。それは2-3週目で血中テストステロンのトラフ(底値)を迎えるためです。これまでの臨床検討ではこのテストステロンのトラフでの評価が多いため、患者によっては最低値のテストステロンレベルでの評価となることも多く、一定の結果が導き出せなかった可能性があります。
現在、海外ではゲル製剤、さらに長期作用型テストステロン、皮下植え込み型のテストステロンペレットが使用可能です。これらの製剤は血中テストステロン濃度が安定しているため、症状の安定化も得られやすいと考えられています。現在、ヨーロッパで長期作用型テストステロンによる、さらに長期のRCTが進行中であり、結果が待たれます。

専門外来のご案内

高齢者のQOLは今世紀の大きな課題であり、それを解く鍵のひとつに性ホルモンがあると考えられます。テストステロン値の低下は生活習慣病と関連することから、加齢に伴う性腺機能低下症 late onset hypogonadism: LOHが注目されています。国際的に男性の健康を考える「メンズヘルス」をキーワードにテストステロンをバイオマーカーとしたアンチエイジング医学が進展しています。
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