テストステロン補充療法(TRT)について
TRTの方法としては、経口剤、注射剤、皮膚吸収剤がありますが、わが国では注射剤エナント酸テストステロンのみが保険適応となっています。通常2週間おきに125mgもしくは4週間おきに250mgを筋注することで臨床効果が得られますが、デポ剤の性質を考えると1-2週ごとに60-125mgを投与していくほうがより生理的に近いと考えられます。また、ゲル剤は、注射剤よりも生理的であり、欧米ではゲル剤を好む患者が増えていますが、我が国では保険適応外です。保険適応外ではありますが、メンズヘルス医学会認定のテストステロン治療認定医が処方可能である1upフォーミュラ®というゲル製剤が近年開発され、全国的に処方可能な医療機関は増えています。
TRTにより、筋肉量、筋力、骨密度、血清脂質プロファイル、インスリン感受性、気分性欲、健康感の改善が認められます。勃起不全については、PDE5阻害薬の作用を増強します。
TRTにより前立腺癌が生じることはほぼ完全に否定されつつあります。TRTの臨床試験のメタアナリシスにおいては、プラセボ群とホルモン補充群で前立腺癌が発見される有害事象の頻度は変わらず、むしろテストステロン値が低い患者ではPSAが比較的低値にも関わらず悪性度が高い前立腺癌を高頻度に経験します。これまでの検討では治療前に前立腺癌がない事を必ずスクリーニングして、定期的に直腸診とPSAを測定することで前立腺癌の合併を見逃さない努力がなされています。そのような前提の上では、テストステロン補充は全く安全に施行可能と考えられます。このため「手引き」ではPSAを測定し、2.0
ng/ml以上であれば前立腺癌の除外のため、泌尿器科医へ紹介することをすすめています。