概要・病因
シェーグレン症候群は、涙腺、唾液腺をはじめとする全身の外分泌腺に慢性的に炎症が起こり、外分泌腺が破壊されてドライアイやドライマウスなどの乾燥症状が出現する病気です。
本来、細菌やウイルスなどの外敵から身を守るための免疫系が自分自身を誤って攻撃する、自己免疫という現象が重要な原因のひとつと考えられています。これまでの研究によって、様々な自己抗体(自己抗原に対する抗体)の出現や、自己反応性リンパ球(自己抗原に反応するリンパ球)の存在が明らかになっていますが、何故自己免疫が起こってしまうのかについてはいまだ完全には解明されていません。
シェーグレン症候群は、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなど他の膠原病の合併が見られない「一次性シェーグレン症候群」と、他の膠原病に合併する「二次性シェーグレン症候群」に分けられ、その比率は6:4で「一次性シェーグレン症候群」が多いとされています。さらに一次性シェーグレン症候群は病変が涙腺、唾液腺などの外分泌線に限局する「腺型」と、病変が外分泌線だけではなく全身の臓器に及ぶ「腺外型」に更に細分され、7:3の比率で「腺型」が多いとされています(図1)。
国内の推計患者数は約7万人とされており、女性に多い疾患で、主な発症年齢は40~60歳代とされています。
症状
1.外分泌線の障害による異常 (腺症状・乾燥症状)
(1)ドライアイ
涙腺からの涙液の分泌量が減少するために、眼が乾く、異物感、眼の痛み、眼のかゆみなどの症状があらわれます。重度の場合は眼に入った異物を涙で洗い流すことができず、角膜や結膜が傷つき、視力が低下します。
(2)ドライマウス
唾液腺からの唾液の分泌量が減少するため、口が乾く、口がネバネバするといった口腔乾燥感があらわれます。症状が重い場合には、口腔内の痛み、味覚異常などの症状もあらわれます。また、唾液が減少するため、むし歯や歯周病が多発することがあります。
(3)ドライアイ、ドライマウス以外の腺性病変
ドライアイ、ドライマウス以外にも、鼻の乾燥、耳下腺の腫れ、性交痛などの外分泌線障害による症状があらわれることがあります。
2.乾燥症状以外の異常 (腺外症状)
シェーグレン症候群は全身性の自己免疫疾患のため乾燥症状以外にも、様々な全身症状や臓器障害、他疾患の合併、検査値の異常が出現することがあります(図2)。
代表的な症状としては、皮膚乾燥や皮疹、紫斑などの皮膚症状や関節の痛み、耳下腺や唾液腺の腫脹などがあげられます。頻回にリンパ節腫張を起こされることもあり、まれに悪性リンパ腫を合併することがあります。
また、中枢神経・末梢神経障害を起こし、麻痺や痺れを起こされる方もいらっしゃいます。臓器の線維化により、間質性肺炎、間質性腎炎、間質性膀胱炎などを併発し、空咳や排尿障害を認めることがあります。
検査
診断・治療のために、血液検査に加えて、各種症状の評価、ならびに臓器病変の有無を確認することが必要になります。
血液検査、尿検査
抗SS-A抗体、抗SS-B抗体といった診断に必要な特殊検査に加え、血球減少、腎機能などを調べるために、定期的な血液検査や尿検査が必要になります。また、シェーグレン症候群には、甲状腺の機能障害を併発し、疲れやすくなったり首が腫れたりすることがあるため、甲状腺機能も検査で確認をします。
眼科医による診察
涙液分泌の機能や、眼の表面が傷ついたりしていないかといった、ドライアイの状態を確認する必要があります。
サクソンテスト・ガムテスト
ガーゼやガムを噛むことで、唾液の分泌機能を調べる検査です。診断の際に行われます。
レントゲン、CT検査、呼吸機能検査
間質性肺炎合併の有無を確かめるため、定期的なレントゲン検査が必要となります。必要に応じてCT検査や呼吸機能検査などの、更に詳しい検査を行うことがあります。
治療
乾燥症状の治療
残念ながらシェーグレン症候群を根治させる治療法は現在なく、 腺病変に対する治療は、乾燥症状に対する対症療法が中心となります。
1.ドライアイの治療
点眼薬(ヒアレインR点眼液、ジクアスR点眼液、ムコスタR点眼液など):眼の乾燥を防ぎます。
涙点プラグ挿入術
涙は涙腺から分泌されて眼の表面を潤し、涙点から鼻へと排出されますが、重症のドライアイの患者さんに対して、乾燥症状を改善させるため涙点に栓を施す「涙点プラグ挿入術」という外科的療法が行われることがあります。
2.ドライマウスの治療
唾液分泌促進のための内服薬と唾液の補充に用いる人工唾液(サリベートR)が治療に用いられます。この他に口腔用湿潤剤(オーラルバランスRなど)なども使われます。分泌促進の薬剤としては、サラジェンR錠、エボザックRカプセルなどがあります。ある種の去痰剤(ビソルボンR)、漢方薬(麦門冬湯、百虎加人参湯)なども唾液分泌促進効果があると言われています。
3.ドライスキンの治療
シェーグレン症候群によって、皮膚乾燥(ドライスキン、皮脂欠乏性皮膚炎)が起こることがあります。この治療には外用剤としてヒルドイドRや白色ワセリンなどが使用されます。
乾燥症状以外の治療
乾燥症状以外の腺外症状に対しては、重症の場合は免疫を抑制する効果がある副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤といった治療薬が用いられます。また、症状を緩和する目的で発熱や関節痛などの痛みに対して非ステロイド系抗炎症薬といった治療薬が使用されます。うつ病や全身性疼痛を特徴とする線維筋痛症の症状がみられる場合には、抗不安薬、抗うつ病薬、抗てんかん薬などが有効なことがあります。
末梢循環不全によりひき起こされるレイノー現象が強い場合にはビタミンE製剤やプロスタグランジン製剤などの末梢血管拡張剤と抗血小板剤が使用されます。
まだ正式な治療になっていませんが、関節リウマチなどの治療に使用されている生物学的製剤と呼ばれる治療薬の一部がシェーグレン症候群にも有効である事が報告されており、将来的に有効な治療薬となる事が期待されています。
経過・予後
シェーグレン症候群の予後は一般的に良好で、直接的に生命に関わるような重症例は少ないとされています。ただし、乾燥症状が進行した場合は治療が奏功しない事があり、その場合は患者さんのQOL(Quality of Life, 生活の質)は必ずしも良いとはいえません。また経過中に、末梢神経障害、間質性肺炎、腎病変などの重症な腺外病変を発症する患者さんがいますので、長期にわたって観察していくことが大切です。
日常生活における注意点
乾燥症状に対する保湿のため、特に空気が乾燥しやすい時期は、加湿器などを上手に使うことが大切です。マスクを着用することで口腔内の加湿をするのも効果的でしょう。頻回に水を飲むと体調を崩すこともあるため、うがいや人工唾液などを併用してください。
レイノー症状に対しては指先の保温・保湿が重要ですので、手袋の着用や、家事の際は冷水ではなくぬるま湯などを使用できれば理想的です。ハンドクリームなども用いて、手の保湿につとめてください。