不妊治療の実際
妊娠方法
妊娠する方法は原則、以下のタイミング法、配偶者間人工授精(AIH)、体外受精(IVF)の3通りがあります。
タイミング法
排卵のタイミングに合わせて夫婦間で性交渉をとっていただく方法です。
配偶者間人工授精(AIH)
排卵のタイミングに合わせて、精子を遠心分離器にかけ、元気な精子を集めて子宮内に注入する方法です。適応は軽度の男性不妊症や性交障害のある方です。
体外受精(IVF)
卵子と精子を体腔外で受精した後、受精卵を培養し、子宮内に移植する方法です。卵子や精子が、卵管や腹腔内の環境に触れることなく受精が可能なため、卵管閉塞や子宮内膜症、原因不明不妊のひとつである卵管ピックアップ障害(排卵した卵子を卵管に取り込むことができない)の方などに適応となります。また卵巣機能の低下した方も適応となります。(図5)
当院の不妊治療の方針
図に示すような方針で行っておりますが、検査結果と年齢、卵巣機能、患者さんの妊娠に対する希望をふまえて、話し合ったのちに治療方針を決定しております。
体外受精の費用
2022年4月より体外受精を含む不妊治療が保険適用となりました。
体外受精・顕微授精などの生殖補助医療においては女性の年齢が治療開始時において43歳未満である場合に保険診療となり、回数などに制限があります。詳しくは
厚生労働省のホームページをご覧ください。
保険適用とならない治療については自費で行います。自費の場合の費用は下記のとおりです。
採卵時 |
税込み |
1 |
卵採取 |
¥132,000 |
2 |
局所麻酔 |
¥16,500 |
3 |
静脈・吸入麻酔 |
¥49,500 |
4 |
精子培養 |
¥44,000 |
5 |
卵採取できず |
¥55,000 |
採卵後~胚移植 |
|
6 |
受精卵培養 |
¥55,000 |
7 |
タイムラプス使用(「受精卵培養」費用は別途) |
¥33,000 |
8 |
胚移植 |
¥88,000 |
9 |
顕微授精 |
¥55,000 |
10 |
胚盤胞培養 |
¥44,000 |
11 |
アシステッド・ハッチング |
¥11,000 |
12 |
胚移植用培養液:EmbryoGlue® |
¥39,600 |
卵子・胚凍結 |
|
13 |
凍結卵子・胚管理(凍結時)1-3個(1年分管理料含む) |
¥66,000 |
14 |
凍結卵子・胚管理(凍結時)4-6個(1年分管理料含む) |
¥99,000 |
15 |
凍結卵子・胚管理(凍結時)7個以上(1年分管理料含む) |
¥132,000 |
16 |
凍結卵子・胚融解培養(融解時) |
¥55,000 |
17 |
凍結胚管理(更新時)1個1年分 |
¥11,000 |
精子凍結 |
|
18 |
精子凍結(1年分管理料含む) |
¥33,000 |
19 |
精子凍結 キャンセル時 |
¥11,000 |
20 |
凍結精子管理(更新時)1回1年分 |
¥11,000 |
21 |
凍結精子管理(更新時)1回3年分 |
¥33,000 |
治療例ごとの費用
ケース1:体外受精+胚移植
採卵(卵採取+精子培養+受精卵培養) |
¥231,000 |
胚移植 |
¥88,000 |
計 |
¥319,000 |
ケース2:顕微授精+胚移植
採卵(卵採取+精子培養+受精卵培養) |
¥231,000 |
顕微授精 |
¥55,000 |
胚移植 |
¥88,000 |
計 |
¥374,000 |
ケース3:体外受精+胚移植+余剰胚凍結
採卵(卵採取+精子培養+受精卵培養) |
¥231,000 |
胚移植 |
¥88,000 |
胚凍結管理1-3個(1年分管理料含む) |
¥66,000 |
計 |
¥385,000 |
ケース4:顕微授精+胚移植+余剰胚凍結
採卵(卵採取+精子培養+受精卵培養) |
¥231,000 |
顕微授精 |
¥55,000 |
胚移植 |
¥88,000 |
胚凍結管理1-3個(1年分管理料含む) |
¥66,000 |
計 |
¥440,000 |
ケース5:体外受精+胚凍結+凍結融解胚移植
採卵(卵採取+精子培養+受精卵培養) |
¥231,000 |
胚凍結管理1-3個(1年分管理料含む) |
¥66,000 |
凍結融解胚移植 |
¥143,000 |
計 |
¥440,000 |
ケース6:顕微授精+胚凍結+凍結融解胚移植
採卵(卵採取+精子培養+受精卵培養) |
¥231,000 |
顕微授精 |
¥55,000 |
胚凍結管理1-3個(1年分管理料含む) |
¥66,000 |
凍結融解胚移植 |
¥143,000 |
計 |
¥495,000 |
難治症例に対する不妊治療
卵巣予備能が低下した患者さん(卵巣機能不全)
女性では、年齢とともに卵子の数が減りその後増えることはありません。卵子の数(卵巣予備能)には個人差がありますが、40歳以上になると多くの女性で卵巣予備能が低下し体外受精を行っても良好な卵子が多く得られない、もしくはほとんど得られなくなってきます。また40歳未満の方でも子宮内膜症、過去の卵巣手術や抗がん剤治療などにより卵巣予備能が低下している方がいます。当院では卵巣予備能が低下した方に適した排卵誘発法を行ったり、採卵できる卵子の数や質の向上を目指してPRP療法(多血小板血漿療法)を行い、卵巣予備能が低下した患者さんを積極的に治療しています。
不妊症の原因となる子宮や卵巣疾患(手術が必要な場合)
例えば子宮筋腫を手術する場合、術前治療と術後子宮創部の治癒期間を考慮すると、妊娠が可能になるまでおよそ1年間かかります。このように、妊娠希望の方が手術を必要とする病気が子宮や卵巣にある場合、妊娠可能となるまでの待機期間や卵巣手術の影響で術後卵巣機能が低下する恐れがあります。
当院では、手術を行う前に体外受精を行って、受精卵を複数個凍結した後に手術を行うことも可能です。術前に受精卵を凍結することで、術後妊娠までの期間の短縮や妊娠率の向上を目指します。
AMHによる卵巣予備能の評価と患者さんごとの妊娠の希望の強さによって、手術前に受精卵を凍結する必要があるかを検討しています(図9)。
図9.手術を要する子宮・卵巣疾患を持つ高齢女性の不妊治療
反復着床不全:子宮内に複数回良好胚を移植しても妊娠しない場合(体外受精時)
体外受精において子宮内に複数回良好胚を移植しても、妊娠検査が陽性に出ない場合、反復着床不全といい、体外受精を行うことではじめて診断がつきます。我々は着床不全に対する基礎研究も行い、難治性反復着床不全の方の検査や治療を積極的に行い、妊娠のサポートを行っております。
着床不全の原因には子宮内の炎症(慢性子宮内膜炎)、子宮内膜ポリープや子宮筋腫などがあります。検査結果により抗菌薬治療やPRP(多血小板血漿)療法を行っています。
受診時には、今までの検査結果や治療内容を必ず持参してください。
不育症(習慣流産)
妊娠後流産を繰り返す不育症もしくは習慣流産は、精神的にも身体的にも苦痛を伴います。一般的に全妊娠の15%が流産となり、加齢と共にその流産率は上昇し、40歳には30-40%は流産となります。
そのため高齢女性では偶発的にも流産を繰り返す可能性があります。
不育症の原因は甲状腺異常、血栓性素因、子宮奇形など様々ですが、約半分は原因不明です。原因不明の場合、通常の検査では原因を調べることのできない原因が存在する可能性があります。当院では原因不明不育症も含め、精査の上で積極的な治療を行っております。