2025年4月、順天堂医院にパーキンソン病センターが開設されました。
パーキンソン病やパーキンソン症候群の患者さんとそのご家族に対して、診断から治療、症状が進行した際の対応、さらに社会的支援やケアの導入まで、専門チームが一丸となってサポートします。

パーキンソン病センターの役割は、専門医と多職種が包括的に連携することで、患者さんと介護者に円滑かつ安心な包括的ケアを提供することです。具体的には、予約制のパーキンソン病初診外来や定期診療・検査、デバイス療法導入のための評価など、一元的な窓口としてパーキンソン病センター専門外来を設置しています。

受診された患者さんの多様なニーズに対応するため、専門医だけでなく多職種による相談外来や情報提供を行います。必要に応じて入院での検査や治療を提案し、退院後の社会調整や患者さん・介護者への教育イベント開催なども含めた包括的なケアを提供します。
about_01

センター長ご挨拶

パーキンソン病患者さんの症状は千差万別です。そのため、画一的な治療ではなく、個々の患者さんに合わせた治療が必要です。薬物治療だけではなく、生活指導やリハビリテーション、時には精神的なケアなど多角的な治療アプローチが必要です。さらに、脳深部刺激療法や持続的経腸Lドパ治療など手術療法も有用な場合があります。そのため、治療は複雑であり専門的な知識が必要ですが、パーキンソン病について世界でもトップレベルの実績がある脳神経内科が中心となり、脳神経外科、リハビリテーション科、メンタルクリニック、消化器外科など専門家が一堂に介して患者さんのケアをしてまいります。

順天堂大学大学院医学研究科 主任教授
日本神経学会代議員
日本パーキンソン病・運動障害疾患学会(MDSJ) 理事
国際パーキンソン病・運動障害疾患学会 アジア・オセアニアセクション(MDS-AOS) 理事
senta-cho-0924
脳神経内科 波田野琢

パーキンソン病について

パーキンソン病は、加齢や環境要因、遺伝的背景など複数の要因が重なることで発症すると考えられています。超高齢化社会を迎えている日本では、今後、罹患する人数の増加が見込まれています。

症状は、「動作がゆっくりになる(寡動)」「身体がかたくなる(筋強剛)」「ふるえる(振戦)」などの運動症状に加え、物忘れや睡眠障害、自律神経機能障害などの非運動症状も現れ、患者さんの生活の質を著しく低下させます。

治療は、不足するドパミンを補うL-ドパ療法が一般的ですが、あくまで対症療法であり、現時点で根治療法は開発されていません。症状が進行すると、薬の効く時間が短くなる「ウェアリングオフ*1」や、身体が勝手に動いてしまう「ジスキネジア*2」といった運動合併症が現れ、薬物療法だけでなく、脳深部刺激療法やL-ドパ持続投与療法などのデバイス療法*3も選択されます。

パーキンソン病センターの取り組み

  1. 体操教室(リハビリ教室)(偶数月 第三土曜午後):当院リハビリテーション科スタッフとの体操教室を行います。毎回異なる内容で実施し、1回ごとの申し込みとなります。
  2. パーキンソン病外来(月曜午後):パーキンソン病(症候群)の方を対象に、年1回、詳しい診察、神経心理検査、MRI、血液検査などを実施しています。
  3. 初診DAT外来(月曜午前):進行期パーキンソン病の方(ウェアリングオフやジスキネジアのある方)を対象とした脳深部刺激療法(DBS)、デュオドーパなどのデバイス治療(手術による治療)適応評価のための外来です。医師診察の後、外来検査および検査入院を予約します。他院通院中の方でも、担当医からの紹介があれば受診可能です。
  4. パーキンソン病センター看護外来を開設しました。専門的な知識を有する看護師による相談外来です。診断されて不安を抱えている患者さんや、介護の相談、症状や治療に関する相談、地域との連携や調整希望など、様々なご相談に対応いたします。予約制ですので、ご希望の方は担当医にお伝えください。
  5. ニュースレター発行:パーキンソン病患者さんやそのご家族に役立つ情報、臨床研究・治験のご案内、イベントのご案内など、情報発信を行います。

Parkinson’s foundation Center of Excellence

当院の脳神経内科は、2023年に米国のパーキンソン病患者団体である Parkinson’s Foundation*4 から、Center of Excellence(COE)の認定を受けました。COEの目的は、最先端の治療を提供することにとどまらず、多職種がチームを組み、患者さん一人ひとりに最適なケアを提供することにあります。

COEの認定には厳格な基準が設けられており、2025年現在、世界でわずか54拠点のみが認定を受けています。そのうちアジアでは3拠点、日本では当院のみが認定されています。

今後、当センターは個別化医療やリハビリテーションの強化、教育プログラムの拡充、データ活用を通じた研究や臨床試験の推進、国際連携の促進により、患者さんや介護者の方々により良い医療環境を提供するとともに、国内のパーキンソン病診療における中心的役割を果たしてまいります。
https://www.parkinson.org/living-with-parkinsons/finding-care/global-care-network

*1 パーキンソン病治療において、Lドパを含む薬の効果が次の服薬時間の前に弱まること。
*2  パーキンソン病の進行や長期間薬剤を服用することにより生じる、意図しない身体の異常動作のこと。
*3  薬剤治療の他に、ウェアリングオフやジスキネジアの軽減のために行う、デバイスを用いた治療のこと。
具体的には脳深部刺激療法やレボドパ・カルビドパ配合経腸用液療法、ホスレボドパ・ホスカルビドパ水和物持続皮下注療法などがある。
*4 2016年に、National Parkinson FoundationとParkinson’s Disease Foundationが合併してできたパーキンソン病患者のケア向上と研究推進を目的とした非営利組織。