口腔癌とは
口腔は口唇、舌、口腔底、頬粘膜、上下の歯肉、硬口蓋、頬粘膜からなる範囲です。口腔癌はこれらの部位から発生する癌を指します。そのうち約60%を舌癌が占め、そのほとんどが扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)というタイプです。この項では、特に舌癌を中心に解説いたします。
舌癌の特徴
舌癌は中高年の男性に多く、喫煙・飲酒・口腔内の不衛生などがリスクファクターとなります。また、歯牙との慢性的な接触も原因となることがあります。好発部位は舌側縁(舌の両サイド)で約90%を占めます。腫瘍の発育は外向性、表在性、内向性とさまざまです。初期症状の多くは痛みです。そのため口内炎と区別が難しく、治りの悪い口内炎には注意が必要です。おおよその目安としては2週間しても口内炎が改善しない場合には耳鼻咽喉科での診察をおすすめします。腫瘍が進行してくると、潰瘍(えぐれる)を形成し舌の運動障害による呂律の悪さや食事の食べにくさが出てきます。さらに潰瘍が大きくなって壊死組織が広がると口腔内の悪臭を生じるようになります。
頸部リンパ節転移(首のリンパ節への転移、首のしこり)は比較的早期に生じやすく、原発巣が小さい段階でも注意が必要です。頸部リンパ節は予後因子として重要な要素の一つとなります。
診断
舌癌と特に鑑別が必要とされる疾患としては、口内炎や白板症などがあります。口内炎と似たような小さな病変では見ただけでは鑑別が困難です。そのような表在性(薄い)の病変の場合には白板症(白い病変)との鑑別が重要になってきます。
白板症は前癌病変と呼ばれ長い経過で癌になる可能性がありますので時には癌に準じた治療を行います。最終的には病変の一部を採取(組織生検)し病理検査が必要です。腫瘍がごく小さいものでは病変の一部を取る生検ではなく、周辺の献上組織も含めて切除する切除生検を行い、診断と治療を兼ねる事もあります。
画像検査はCTやMRIなどを行い、腫瘍の大きさ、発育の性状、周辺組織への進展具合(口腔底粘膜、舌根や扁桃などの中咽頭、外舌筋)、頸部リンパ節転移の有無などをしっかり把握します。
治療
口腔癌は基本的に手術が治療法の中心となります。口腔は構音(話す)、嚥下機能(食べる)に関して重要な役割を担っており、治療後の機能の保持も重要となってきます。切除の際には周辺に正常な部分をつけた一塊切除を心がけます。早期の癌では病変を切除したあとはそのままにしますが、大きな癌では切除による欠損部位が大きくなるため、自分の体の別の部位から組織を移植する再建術が必要となります。患者様の状態や体型なども考慮にいれて選択しますが、太ももの皮膚やおなかの皮膚を使用して舌を再建することが多いです。再建術を施行した場合でも、術後の嚥下等の機能低下は否めなく、嚥下訓練といったリハビリテーションが必要となり、やはり術後の話しにくさや食べにくさは出現してしまいます。
初診時に頸部にリンパ節転移を認めなくても、治療後数ヶ月して転移をきたすことがしばしばあるので、術後の経過観察では頸部のフォローアップも重要となってきます。

舌癌の写真
右の写真程度まで大きくなると再建術が必要となってくる