多血小板血漿(PRP)による治療について
整形外科・スポーツ診療科

多血小板血漿(PRP)

多血小板血漿(PRP)による治療とは

再生医療の取り組み01
指や手を切ってしまったとき、傷が塞がりカサブタが出来て、やがて元通りに治ったご経験があると思います。実は、この一連の治癒過程には、血液の中に含まれる"血小板"が重要な役割を果たしています。そのため、血小板が少ない方では血が止まりにくく傷の治りも遅くなります。

また、打撲や捻挫をした時には、怪我した部分が腫れることがあると思いますが、この腫れは皮膚の下で出血したことによるものです。打撲や捻挫でも、皮膚を切った時と同じように、血小板から傷んだ組織の修復を促進する物質(成長因子)が供給され、傷んだ組織を元通りに直そうとする自己治癒機転が働いています。

PRP療法は、この"自分で自分を治す力(自己治癒力)"をサポートする治療法として、ヨーロッパやアメリカでは頻繁に行われている治療法です。自分の血液を約20㏄とり、特殊な技術を用いて血液中の血小板が多く含まれる部分のみを抽出し、自己PRPを作成します。このPRP中には、成長因子が豊富に含まれますので、これを自分の身体の傷んだ部分に注射することにより、その部分の組織の修復が促進され、"早期治癒"や"疼痛の軽減"効果をもたらします。

膝の痛みに対する多血小板血漿(PRP)治療

再生医療の取り組み02
例えば、"ひざの変形"で悩んでいる方は、PRP療法の適応です。変形性関節症では、変形の進行に伴い、軟骨がすり減ったり、半月板が傷んだり、炎症が起きてひざに水がたまったりします。PRPは、こうした組織の修復を促したり、関節の炎症を抑制したりする効果が期待できます。しかし、血小板自体は軟骨や半月板にはならない細胞のため、完全に軟骨が無くなってしまった部分にPRPが軟骨を作ることは不可能です。完全に軟骨が削れてしまった方では、骨どうしがぶつかり合い骨も削れてしまいO脚が進行しますが、PRPはそれを抑制することは可能と考えられています。これまでは、変形性関節症の方に対する薬物療法としては、痛み止めの内服やヒアルロン酸の注射などを行ってきましたが、こうした既存の治療が無効であった方の中にも、PRPを関節に注射することにより痛みが取れる方がいることが分かりました。また、PRPは自分の血液ですので、薬物のように副作用を起こすことは滅多にないというのも、この治療が欧米でも広く支持されている理由の一つです。

当院では、これまでに約500例の変形性関節症の方にPRP療法を行っていますが、効果がある方は全体の約60%です。ご自分の血液を使うため、血小板の活性が高い/低いなどの因子が効果に影響を及ぼすのではないかと考えられていますが、まだ明らかにはなっていません。また、膝の変形が重症な方(関節の隙間が無くなっている方)や、肥満の方ではPRP療法の効果が低下します。しかし、非常に副作用の少ない治療ですので、数ある保存加療のうちの一つの選択肢として、特に既存の治療法への反応が乏しい方への実施をお勧めしています。

スポーツ外傷・障害


次に多くのPRP療法を行っているのは、スポーツ外傷・障害に対してです。スポーツをする方は、"少しでも早い復帰"を望みます。そうした要望に応えるため、当院では靭帯損傷、肉離れ、腱炎などに対してPRP療法を行っています。また、これまでいろいろな治療を試してきたがなかなか良くならない"難治性"の外傷、障害の治療としてPRP療法を希望しご来院する方も多くいます。このような方は、治るはずの組織が治りにくい環境になってしまっているため、その部位に血小板を注射することで、本来あった自己治癒機転をもう一度活性化し、怪我を治す環境を再獲得することを期待しています。

これまでに、プロスポーツ選手から学生スポーツ、中高年のスポーツ愛好家まで、幅広い対象の方にこの治療法を行っています。他院で手術加療を勧められたが決心がつかず、最後の保存療法としてPRP療法を希望して来院され、PRP療法が奏効して手術を回避できた方も複数います。先述のように、非常に副作用の少ない治療ですので、数ある保存加療のうちの一つの選択肢として、特に既存の治療法への反応が乏しい方への実施をお勧めしています。
再生医療の取り組み03

多血小板血漿(PRP)治療の費用とスケジュール

PRP療法は、日本ではまだ保険診療として認められていません。そのため、治療を受ける方は自由診療となります。当院での一回のPRP注射にかかる費用は現在26,400円(両膝の場合は52,800円)+第二種再生医療実施料(13,200円)です。PRP療法は再生医療のひとつですが、先進医療や高額医療の補助の対象とはなりません。PRP療法実施日の痛み止めや湿布の処方、および検査もすべて自費となりますのでご注意ください。

当院では、通常3~4週間の間隔で3回のPRP療法を1クールとして行っていますが、PRP療法を行うかどうかは当日の状態によって担当医と患者さんがご相談の上で最終決定いたします。3回の治療を行ってから約3か月後(治療開始から半年)に、痛みがどれくらい取れたか、生活がどれくらい改善したか、レントゲンやMRI検査所見がどう変化したかを評価します。効果が認められた方では2クール目のPRP療法を行う方もいらっしゃいます。

残念ながら効果がなかった方も、特殊なPRPの作成方法により抗炎症作用を高めた新しいPRP療法(APS療法:注射は1年間に1回で費用は片膝330,000円+第二種再生医療実施料)や、骨切り術や人工関節置換術などの手術加療を行う事も可能ですので担当医にご相談ください。

多血小板血漿(PRP)治療の経過解析

現在、PRP療法は保険診療としての治療が出来ませんが、この治療法の有効性や安全性が検証されることで、将来的に保険診療が適応となる可能性があります。そのため、当院では個人が特定されないようにデータを処理したうえで、PRP療法を受けた方々の経過などの解析を行っています。患者さんからの特別の申し出がない限りは、PRP療法を受けた皆様を対象として医学会や医学雑誌へ報告し、PRP療法の更なる発展に貢献したいと考えています。ご理解、ご協力をよろしくお願いします。


PRP療法について、ご不明な点がありましたらお気軽に担当医にご相談ください。

関連リンク